「父は……誰に殺されたのですか?」
灰理は涙声で尋ねる。
「まさか、千輝様のお兄様……?」
「いや、恐らくそれはないと思います」
理人が体調を崩し始めたのは亡くなる三年前くらいから。
増幅薬を飲まされたのがその頃となると、まだ幼い少年だった蘇芳には難しい。
ましてや医者である理人に致死量の薬を飲ませるなど、子どもには不可能だ。
「ですが恐らく犯人は紫上院の内部にいると思われます」
「そうですか……。だからあなたは、私を探してくださったのですか?」
「……そうです」
紫上院理人に娘がいると知られたら、その子もどうなるかわからない。
だから千輝は、何としてでも見つけ出したかった。
『実はね千輝、私には娘がいるんだ。いつか君に会わせたいと思っている。でもこれは、私と千輝二人だけの秘密だよ』
そういってゆびきりげんまんした。
だがその約束は果たされることなく、理人はこの世を去った。
理人のことは守れなかった。幼い千輝には何もできなかった。
だがせめて、理人の忘れ形見だけは何としてでも守りたい。
「私には時間がありません。でも、安心してください。私が逝ってもあなたのことは——」
「嫌です」
灰理はかぶりを振る。
「千輝様がいなくなるなんて、耐えられません」
「灰理さん……」
「だから、今度は私が守ります」
灰理は涙を拭い、真っ直ぐに千輝の菖蒲色を見つめる。
「あなたの呪いを解いてみせます」
「解くって……方法があればとっくに試していますよ」



