三年前、千輝が二十歳の頃。
千輝が成人を迎えたことで、当時紫上院家では二つの派閥が対立していた。
千輝を次期当主に推す者たちと、兄・蘇芳を当主に推す派閥である。
現当主の父は優秀な者を後継ぎとすると言っているものの、公爵家の後継ぎに注目が集まるのは致し方のないことで政治的思惑も絡むそうだ。
「私は元々後継ぎには興味がありませんでした。実の兄と争いたくありませんでしたし、兄上が望むなら譲るつもりでいました」
元々は理人のように立場の弱い者たちやみなしごたちの支援をしたいと考えていた。
しかしそれを実現するためには根本から社会を変える必要があると思い、公爵としての地位が必要だと考え直すようになった。
「私は瑛国議会の議員となり、当主を目指す決意をしました」
千輝が本気を出し、千輝を推す派閥も活気づくようになった。
千輝の持つ光の瑛気は紫上院家初代当主と同じ瑛気であり、以来確認されなかった希少中の希少種である。
その力を持つ千輝こそが次期当主になるべきだという声が高まっていった。
これを良しとしなかったのが蘇芳の派閥だ。
「兄上は私を殺そうと刺客を差し向けました」
「えっ!? まさか、そんな」
実の弟を殺害しようなどとは信じられず、灰理は両手で口元を覆う。
「兄上が指示したという証拠はありません。ですが兄上に違いないのです。私は、毒を盛られました」
「毒……!」
毒を盛られた千輝は三日三晩生死の境を彷徨った。
毒を盛った男は行方をくらませた後、水死体で発見された。逃走中に足を滑らせ、川に落ちたと見られている。
「私が飲まされたのは増幅薬でした」
「増幅薬?」
「一時的に瑛気の力を高める薬です。適量を飲めば人体に影響はありませんが、致死量を超えるとどんな薬も毒になります」
「そんな……!」
「生き延びた時は幸運に思いましたが、詳しく調べたところそうではないと気付かされました」



