ザリガニがうじゃうじゃ入ったバケツを、
頭にかぶらせられ、
その上から殴られる。
顔とバケツの間に、
何匹ものザリガニがいて。
殴られるたび、
それが刺さる。
目の下、頬、首元に。
赤色が好きなんだろ、
そう言って同級生は去っていく。
大丈夫、私は強い子。
母から教えられたこと。
児童保護施設から、
祖父の家に引っ越してきた。
祖父はとても優しかった。
けれど料理はできなかった。
引越してきた、その日の晩御飯の献立。
白ご飯、
味噌を溶かしただけのお味噌汁。
ふかし芋。
茹でた菜葉の上にハム。
「おじいちゃん、明日から私が料理作るから」
「そうかい、
何か欲しいものがあれば言いなさい。
なんでも買ってあげる」
学校初日。
転校生、
という田舎の小学校において、
珍しい現象のおかげか、
私は一躍、時の人。
これほど、ちやほやされることは初めてで、
私はどうすればいいか、分からなかった。
からかってくる男子もいたけれど、
同級生より、一回り大きかった私が、
立ち上がるだけで、
そそくさと去っていった。
翌日、
無視が始まった。
あの家の子、ということらしい。
祖父はどうやら、
嫌われているらしい。
けれど、私は、
前の学校と同じ感じであることに、
一種安堵感を感じていた。
何事もなく授業を受け、
何事もなく帰宅する。
祖父からお金をもらって。
近所の商店に行き。
晩御飯の材料を買う。
店員さんが目を合わしてくれない。
家に帰って、晩御飯を作り。
祖父が喜び。
食器を洗い。
宿題をして、
布団に入る。
幸せってこんな感じ? 眠りにつく。
翌日、
上履きの中に土が入っていた、
ほんのわずかで、
私は気づかなかった。
いじめが始まっていた。
自分の机と椅子の上、
座ると分かる、
なでると分かる。
少しだけ、土がかかっている。
机に教科書を入れるときも、
小指に嫌な感触がある。
ザラザラと。
私は気づく。
誰も、目を合わしてくれないのに、
みんながこちらを見ていることに。
それほど、辛くはなかった。
前の学校でもあったことだし。
家に帰れば、祖父がいて、
お味噌汁を私にかけることなく、
美味しい美味しいと喜んでくれた。
お菓子も買ってくれたし、
テレビも見て良かったし、
熱湯を浴びせられることなく、
一緒にお風呂に入った。
何日も続く、いじめのせいか、
その日はちょっと、体調が悪かった。
ただ、学校には毎日行きなさいと、
母から言われていたし、
大したことないと、登校した。
ちょっとお腹が痛いかもしれない、
少しうずくまる様に授業を受けていた。
次の休み時間、
その時には当たり前になっていた。
スカートをめくられる。
いつもはそれだけで終わるはずだった。
「こいつ漏らしてるぞ」
そう、囃し立てられる。
そんなはずないと、私は見た。
私の下着は茶色くなっていた。
生理が始まった。
保健室の先生から、説明を受けた。
私がお母さんに? 母のように?
叩いた後に、
「お前は強い子だから」と、
慰めてくれる、
優しい母に?
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
私の頭はそれいっぱいで。
この時、もう少し真面目に先生の話を、
聞いておくべきだった。
翌日の学校、
「今日は漏らしていないか」
とスカートをめくられる。
私は下着を見る。
血が漏れている。
赤。
「こいつ、」
同級生が何かを言う前に、
「赤色が好きだから履いてるの」
自分でも、驚くくらいの大きな声で、
自分でも、驚くくらい、
くだらない言い訳を叫んだ。
机に赤色のチョーク、
ノートに赤色の鉛筆。
制服は真っ赤。
赤色のランドセルはもっと赤く。
私の目も赤く。
この日からいじめは、明らかに変わった。
彼らは言う。
「赤色が好きなんだろ」
赤く腫らした目のまま、
赤く上気した頬のまま、
家に帰り、祖父に抱きつく。
泣いてはダメと、母に言われていたけれど、
思いっきり、涙を流した。
何日か、学校に行かず、
お家で、炊事洗濯家事掃除。
けれど、ナプキンがなくなったので、
学校に、いや、
保健室に行くことにした。
お昼前、この時間なら、授業中。
「先生、あの、」
「ああ、あれから、大丈夫だった?」
「えと、あの、はい。
あの、なくなってしまったので、」
「ああ、じゃあこれ、
君、お母さんには伝えたの?」
「いえ、あの、うちには、お母さんがいなくて、
おじいちゃんと二人で暮らしてます」
「あれ、そうなの? 面倒だねー、なるほど、
じゃあね、ちょっと待って、」
先生は机に向かって、何かを書いている。
「このプリントを、おじいちゃんに渡して、ここに書いてあるものを、
買ってもらうように言ってください。分かりましたか?」
「はい」
教員用トイレによって、
授業には出ず、
家に帰った。
その日の晩御飯の時に、
おじいちゃんに言った。
「ねえ、ここに書いてあるものが欲しいんだけど、」
「なになに、なるほど、おお、そうかそうか、
うーん、お金はあげるから、自分で買いに行けるかい?」
「多分」
「じゃあこれ、いくらになるか分からないから、多めにあげておくから、
余ったお金は、何か好きなものを買いなさい」
その晩、祖父に襲われた。
もう、女なんだろと。
私には、記憶がないから、
私じゃないのかもしれない。
祖父の胸には、
深々と包丁が刺さっていた。
どうしよう、どうしよう、
お母さん、どうしよう。
私は祖父が助かることでなく、
私は私が助かることを考えていた。
ならば、
きっと、
これは、
私のやったことだ。
お金、
お母さんが言っていた。
お金があれば、どうにかなるって。
お金、
お母さんありがとう。
祖父の机の引き出し、
鍵付きの引き出しに、
お金があったはず。
鍵は本棚の、
一番下の本の下に。
あった。
鍵を開ける。
引き出しを引く。
お札の束と、
銀行通帳、
そして、一冊のノート。
祖父は、
嫌われていた。
ノートには、
復讐の、
人を殺す方法が、
びっしりと、書かれていた。
頭にかぶらせられ、
その上から殴られる。
顔とバケツの間に、
何匹ものザリガニがいて。
殴られるたび、
それが刺さる。
目の下、頬、首元に。
赤色が好きなんだろ、
そう言って同級生は去っていく。
大丈夫、私は強い子。
母から教えられたこと。
児童保護施設から、
祖父の家に引っ越してきた。
祖父はとても優しかった。
けれど料理はできなかった。
引越してきた、その日の晩御飯の献立。
白ご飯、
味噌を溶かしただけのお味噌汁。
ふかし芋。
茹でた菜葉の上にハム。
「おじいちゃん、明日から私が料理作るから」
「そうかい、
何か欲しいものがあれば言いなさい。
なんでも買ってあげる」
学校初日。
転校生、
という田舎の小学校において、
珍しい現象のおかげか、
私は一躍、時の人。
これほど、ちやほやされることは初めてで、
私はどうすればいいか、分からなかった。
からかってくる男子もいたけれど、
同級生より、一回り大きかった私が、
立ち上がるだけで、
そそくさと去っていった。
翌日、
無視が始まった。
あの家の子、ということらしい。
祖父はどうやら、
嫌われているらしい。
けれど、私は、
前の学校と同じ感じであることに、
一種安堵感を感じていた。
何事もなく授業を受け、
何事もなく帰宅する。
祖父からお金をもらって。
近所の商店に行き。
晩御飯の材料を買う。
店員さんが目を合わしてくれない。
家に帰って、晩御飯を作り。
祖父が喜び。
食器を洗い。
宿題をして、
布団に入る。
幸せってこんな感じ? 眠りにつく。
翌日、
上履きの中に土が入っていた、
ほんのわずかで、
私は気づかなかった。
いじめが始まっていた。
自分の机と椅子の上、
座ると分かる、
なでると分かる。
少しだけ、土がかかっている。
机に教科書を入れるときも、
小指に嫌な感触がある。
ザラザラと。
私は気づく。
誰も、目を合わしてくれないのに、
みんながこちらを見ていることに。
それほど、辛くはなかった。
前の学校でもあったことだし。
家に帰れば、祖父がいて、
お味噌汁を私にかけることなく、
美味しい美味しいと喜んでくれた。
お菓子も買ってくれたし、
テレビも見て良かったし、
熱湯を浴びせられることなく、
一緒にお風呂に入った。
何日も続く、いじめのせいか、
その日はちょっと、体調が悪かった。
ただ、学校には毎日行きなさいと、
母から言われていたし、
大したことないと、登校した。
ちょっとお腹が痛いかもしれない、
少しうずくまる様に授業を受けていた。
次の休み時間、
その時には当たり前になっていた。
スカートをめくられる。
いつもはそれだけで終わるはずだった。
「こいつ漏らしてるぞ」
そう、囃し立てられる。
そんなはずないと、私は見た。
私の下着は茶色くなっていた。
生理が始まった。
保健室の先生から、説明を受けた。
私がお母さんに? 母のように?
叩いた後に、
「お前は強い子だから」と、
慰めてくれる、
優しい母に?
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
私の頭はそれいっぱいで。
この時、もう少し真面目に先生の話を、
聞いておくべきだった。
翌日の学校、
「今日は漏らしていないか」
とスカートをめくられる。
私は下着を見る。
血が漏れている。
赤。
「こいつ、」
同級生が何かを言う前に、
「赤色が好きだから履いてるの」
自分でも、驚くくらいの大きな声で、
自分でも、驚くくらい、
くだらない言い訳を叫んだ。
机に赤色のチョーク、
ノートに赤色の鉛筆。
制服は真っ赤。
赤色のランドセルはもっと赤く。
私の目も赤く。
この日からいじめは、明らかに変わった。
彼らは言う。
「赤色が好きなんだろ」
赤く腫らした目のまま、
赤く上気した頬のまま、
家に帰り、祖父に抱きつく。
泣いてはダメと、母に言われていたけれど、
思いっきり、涙を流した。
何日か、学校に行かず、
お家で、炊事洗濯家事掃除。
けれど、ナプキンがなくなったので、
学校に、いや、
保健室に行くことにした。
お昼前、この時間なら、授業中。
「先生、あの、」
「ああ、あれから、大丈夫だった?」
「えと、あの、はい。
あの、なくなってしまったので、」
「ああ、じゃあこれ、
君、お母さんには伝えたの?」
「いえ、あの、うちには、お母さんがいなくて、
おじいちゃんと二人で暮らしてます」
「あれ、そうなの? 面倒だねー、なるほど、
じゃあね、ちょっと待って、」
先生は机に向かって、何かを書いている。
「このプリントを、おじいちゃんに渡して、ここに書いてあるものを、
買ってもらうように言ってください。分かりましたか?」
「はい」
教員用トイレによって、
授業には出ず、
家に帰った。
その日の晩御飯の時に、
おじいちゃんに言った。
「ねえ、ここに書いてあるものが欲しいんだけど、」
「なになに、なるほど、おお、そうかそうか、
うーん、お金はあげるから、自分で買いに行けるかい?」
「多分」
「じゃあこれ、いくらになるか分からないから、多めにあげておくから、
余ったお金は、何か好きなものを買いなさい」
その晩、祖父に襲われた。
もう、女なんだろと。
私には、記憶がないから、
私じゃないのかもしれない。
祖父の胸には、
深々と包丁が刺さっていた。
どうしよう、どうしよう、
お母さん、どうしよう。
私は祖父が助かることでなく、
私は私が助かることを考えていた。
ならば、
きっと、
これは、
私のやったことだ。
お金、
お母さんが言っていた。
お金があれば、どうにかなるって。
お金、
お母さんありがとう。
祖父の机の引き出し、
鍵付きの引き出しに、
お金があったはず。
鍵は本棚の、
一番下の本の下に。
あった。
鍵を開ける。
引き出しを引く。
お札の束と、
銀行通帳、
そして、一冊のノート。
祖父は、
嫌われていた。
ノートには、
復讐の、
人を殺す方法が、
びっしりと、書かれていた。


