あいにくの曇天がいつもより体感温度を下げる。
だが、湿気のせいで涼しいとは思えなかった。
隣にいる太陽は眠そうで、けれど楽しそうに辺りをキョロキョロと見まわしている。
高校とは何もかもが違う大学という場所に将来のワクワクがキラキラと輝く瞳から漏れていた。
「説明とかだいぶ眠かったけど、やっぱり自由に見て回っていいのは楽しいよなぁ」
学校説明、学科説明、模擬授業、その三連打で太陽は死にそうな顔をしていたが、学食が食べられるからか、お昼に近づくにつれて元気を取り戻していった。
そして、自由時間ある今、完全復活である。
この大学は、幸弘の第一志望で、太陽の第二志望の大学だ。
「けどさぁ、学部とか学科選べって言われてもよく分かんないんだよなぁ。おれって、何がしたいんだろう。学部説明されるたびに、どこでもいいなぁって思っちゃう」
「何のために大学行くんだ?」
「う~ん、したいことをしたいときに出来るための準備?」
同じようなものだな、と思った。
けれど、幸弘はどこの学部に行こうかくらいは絞ってある。
「ここがユキの第一志望かぁ。一人暮らしだな」
そうでなくても、高校卒業したら一人暮らしをすることになっていた。
だからこそ高校三年間、バイトをしてお金をためていたのだ。
「おれ、どっしよっかな」
何に対してのどうしようかな、なのかは分からないが、その表情は少しだけ曇っているように見えた。
「はぁ〜あ、学部も授業の取り方もよく分かんないし、おれ、本当に大学生やれんのかな」
「……お前は土壇場での理解力がすごいから大丈夫だろ。きっと、やれって言われたら分かるさ」
「そーお?」
「うん。太陽はバカだけど、バカじゃない」
「褒めてない!」
「褒めてるよ」
風船のように頬を膨らませ、そっぽを向く太陽。
「……学部どこ受けんの?」
「経営学部か情報工学部」
「なんで?」
「将来どんな仕事が稼げんのかなって調べたら、やっぱ商社とかコンサルがいっぱい出てきたし、ITはなんかかっこいいじゃん?」
幸弘がそう言えば、太陽が目を丸くして、ホッとしたように笑った。
「そんな感じでいいのかぁ。……なんか、何も考えてない高校生って感じの決め方だな!」
「……うるせぇ」
自分が将来何をしたいのか分からないなんて、幸弘も同じだ。
幼い頃は何にでもなれると思っていたし、それこそ消防車になるなんて言っていた。
けど、成長するにつれて生きていくことが簡単ではないことも、今の環境が恵まれていることも知っている。
金の心配もせずに、大学に進学できることがどれほどのことかも。
だからこそ、きちんと考えないとと思うが、所詮、十八年生きてきただけで、社会にも出てはいない。
自分が何をできるかなんて分かるわけがない。
「来月さ、おれの行きたい大学のオープンキャンパスあるんだ。ユキも一緒に行こうな」
「俺、受けないのに?」
「オープンキャンパスはタダなんだし、日帰り旅行だとでも思って!」
太陽の第一志望は新幹線で二時間の遠くはないが近くもない場所だ。
なぜそこを選んだかは分からないが、とても綺麗な大学ではあるから、そういうことなのかもしれない。
「ユキも行きたくなるかもしれないじゃん?」
「さすがに遠くないか?」
「一人暮らししろ! って言われてるならどこでも同じじゃないか?」
「大学までは親元でいい気がするんだけどな」
「ユキのお母さん、極端だもんなぁ。おれは好き」
にしし、と笑う太陽に肩をすくめ、ふと歩みを止めた。
窓をみると、水滴がパタ、パタと当たり、すぐさま勢いが増す。
「うわ、ゲリラだ。折りたたみ持ってきててよかったぁ~」
「もう暫くは、見学だな」
「……たしかに、綺麗だけどさぁ」
太陽は一年前に新しくなったらしい建物を一通り見渡して、幸弘に耳打ちする。
「飽きた。綺麗なだけで楽しくない」
「…………」
当たり前である。
大学に何を求めているのか。
「雨が少しやんだら、帰りになんか食って帰ろ」
「それいいな! さっき、学食食べたけど、腹減っちゃった。けど、学食美味かったな!」
食い意地しか張っていない。
たしかに、学食は美味しかったが、思ってたよりは値段がするんだなと。
学費は奨学金で、家賃は親。
食費含めたその他諸々は自分持ちなので、それを考えると利用するのは本当にたまにになるような気がする。
「……太陽のかあちゃん、レシピくれないかな」
「あ、言っててやるよ。ユキが母ちゃんのご飯を自分で作りたいってって」
ニコニコと笑い、広い構内をやはりキョロキョロと楽しそうに見る太陽。
その隣で、幸弘は少しずつ実感する大学という未来が色褪せていくような、そんな感覚を味わう。
見学者で賑わう構内。
けれど、幸弘の耳には窓に叩きつけるような勢いで降る雨の音がいやに響いた。
『青春探し オープンキャンパス』
隣県の明陵大学のオープンキャンパスに行った。
大学は高校とは違って、新鮮だった。
オープンキャンパスが終わって、大学の周りを少し探索したのも面白かった。
何もなさすぎて、すぐ飽きたけど。
けど、この大学で太陽と一緒にいる未来は見えなくて、やっとこの先の進路は一人なんだなと思った。
面と向かって言えないから、ここに書くけど、俺は寂しい。
幸弘
だが、湿気のせいで涼しいとは思えなかった。
隣にいる太陽は眠そうで、けれど楽しそうに辺りをキョロキョロと見まわしている。
高校とは何もかもが違う大学という場所に将来のワクワクがキラキラと輝く瞳から漏れていた。
「説明とかだいぶ眠かったけど、やっぱり自由に見て回っていいのは楽しいよなぁ」
学校説明、学科説明、模擬授業、その三連打で太陽は死にそうな顔をしていたが、学食が食べられるからか、お昼に近づくにつれて元気を取り戻していった。
そして、自由時間ある今、完全復活である。
この大学は、幸弘の第一志望で、太陽の第二志望の大学だ。
「けどさぁ、学部とか学科選べって言われてもよく分かんないんだよなぁ。おれって、何がしたいんだろう。学部説明されるたびに、どこでもいいなぁって思っちゃう」
「何のために大学行くんだ?」
「う~ん、したいことをしたいときに出来るための準備?」
同じようなものだな、と思った。
けれど、幸弘はどこの学部に行こうかくらいは絞ってある。
「ここがユキの第一志望かぁ。一人暮らしだな」
そうでなくても、高校卒業したら一人暮らしをすることになっていた。
だからこそ高校三年間、バイトをしてお金をためていたのだ。
「おれ、どっしよっかな」
何に対してのどうしようかな、なのかは分からないが、その表情は少しだけ曇っているように見えた。
「はぁ〜あ、学部も授業の取り方もよく分かんないし、おれ、本当に大学生やれんのかな」
「……お前は土壇場での理解力がすごいから大丈夫だろ。きっと、やれって言われたら分かるさ」
「そーお?」
「うん。太陽はバカだけど、バカじゃない」
「褒めてない!」
「褒めてるよ」
風船のように頬を膨らませ、そっぽを向く太陽。
「……学部どこ受けんの?」
「経営学部か情報工学部」
「なんで?」
「将来どんな仕事が稼げんのかなって調べたら、やっぱ商社とかコンサルがいっぱい出てきたし、ITはなんかかっこいいじゃん?」
幸弘がそう言えば、太陽が目を丸くして、ホッとしたように笑った。
「そんな感じでいいのかぁ。……なんか、何も考えてない高校生って感じの決め方だな!」
「……うるせぇ」
自分が将来何をしたいのか分からないなんて、幸弘も同じだ。
幼い頃は何にでもなれると思っていたし、それこそ消防車になるなんて言っていた。
けど、成長するにつれて生きていくことが簡単ではないことも、今の環境が恵まれていることも知っている。
金の心配もせずに、大学に進学できることがどれほどのことかも。
だからこそ、きちんと考えないとと思うが、所詮、十八年生きてきただけで、社会にも出てはいない。
自分が何をできるかなんて分かるわけがない。
「来月さ、おれの行きたい大学のオープンキャンパスあるんだ。ユキも一緒に行こうな」
「俺、受けないのに?」
「オープンキャンパスはタダなんだし、日帰り旅行だとでも思って!」
太陽の第一志望は新幹線で二時間の遠くはないが近くもない場所だ。
なぜそこを選んだかは分からないが、とても綺麗な大学ではあるから、そういうことなのかもしれない。
「ユキも行きたくなるかもしれないじゃん?」
「さすがに遠くないか?」
「一人暮らししろ! って言われてるならどこでも同じじゃないか?」
「大学までは親元でいい気がするんだけどな」
「ユキのお母さん、極端だもんなぁ。おれは好き」
にしし、と笑う太陽に肩をすくめ、ふと歩みを止めた。
窓をみると、水滴がパタ、パタと当たり、すぐさま勢いが増す。
「うわ、ゲリラだ。折りたたみ持ってきててよかったぁ~」
「もう暫くは、見学だな」
「……たしかに、綺麗だけどさぁ」
太陽は一年前に新しくなったらしい建物を一通り見渡して、幸弘に耳打ちする。
「飽きた。綺麗なだけで楽しくない」
「…………」
当たり前である。
大学に何を求めているのか。
「雨が少しやんだら、帰りになんか食って帰ろ」
「それいいな! さっき、学食食べたけど、腹減っちゃった。けど、学食美味かったな!」
食い意地しか張っていない。
たしかに、学食は美味しかったが、思ってたよりは値段がするんだなと。
学費は奨学金で、家賃は親。
食費含めたその他諸々は自分持ちなので、それを考えると利用するのは本当にたまにになるような気がする。
「……太陽のかあちゃん、レシピくれないかな」
「あ、言っててやるよ。ユキが母ちゃんのご飯を自分で作りたいってって」
ニコニコと笑い、広い構内をやはりキョロキョロと楽しそうに見る太陽。
その隣で、幸弘は少しずつ実感する大学という未来が色褪せていくような、そんな感覚を味わう。
見学者で賑わう構内。
けれど、幸弘の耳には窓に叩きつけるような勢いで降る雨の音がいやに響いた。
『青春探し オープンキャンパス』
隣県の明陵大学のオープンキャンパスに行った。
大学は高校とは違って、新鮮だった。
オープンキャンパスが終わって、大学の周りを少し探索したのも面白かった。
何もなさすぎて、すぐ飽きたけど。
けど、この大学で太陽と一緒にいる未来は見えなくて、やっとこの先の進路は一人なんだなと思った。
面と向かって言えないから、ここに書くけど、俺は寂しい。
幸弘

