『恋人達成リスト ✗✗✗』
この項目をリストに作ったとき、全く何も考えてなかったんだ。
恋人同士がすることだから、興味があるから、そんな理由で入れたんだ。
もちろん、恋人になるって選択肢が浮かんだときに思ったのは、ユキと離れなくて済む。
離れなくていい正当な理由を作れる。
ずっと一緒が現実になるための近道。
そんなふうに思ってた。
けど、今日、実は元々そういう好きがおれの中にあって、好きって種類があることは理解しててもどの好きがどれなのかなんて、条件が明確にないとわからないんだって思った。
下手したら、おれは一生ユキへの好きをただの好きだと思って生きていってたんだなと思うとゾッとする。
ユキに触りたいことなんて、今までたくさんあったんだ。
寂しいときは手を握ってほしいし、抱きしめてほしかったし、たまにユキのほっぺに齧りつきたくなったりさ。
なんで今まで分からなかったのか不思議。
そんなユキはおれを抱きたいなんて言うから、本当にドキドキした。
そして、当たり前だよなって思った。
だって、おれたちずっとエッチするって考えたときに抱く側でしか想像してこなかったもんな。
される、なんて考えたことない。
だから、今日、やり方を調べた時、ちょっと……いや、だいぶ怖くなってさ、ごめん。
いつか、おれも覚悟決めるから待ってて。
でな、ユキはあんまり気持ちよくなかったかもしれないというか、気持ちよくなかったと思うんだけど、おれはまたしたいと思ってるんだ。
気持ちいいのもあるけど、最中のユキはおれだけのものなんだって思うと、なんか、ぎゅーーーってして、転げ回りたくなる。
上手くなるから、よろしくお願いします。
ずっと一緒にいてね。
太陽
◆◇
古びた手作りのしおり。
それは幸弘が大事にしているものだ。
ストーブの上に乗せたやかんがヒューヒューと音を立て、沸騰していることを知らせてくる。
外はあいにくの雪で、今日からの週末は冷え込むとニュースで言っていた。
頑張った一週間の終わりに、一人でお酒を片手にあの日を思い出す。
しおりの一ページ目には八つの項目が書いてあり、それぞれ先頭の四角にはチェックが入ってる。
この八つ目の項目は夏休みの終わりに交換した際に書き増やしたものだ。
七つ目まできっちり埋まったリスト。
そして、二ページ目からは日記が始まる。
待ち合わせ、水族館、オープンキャンパス、キス、そして――二人の初めて。
太陽があの時、何を考えて、どう感じていたかが書いてある。
夏休みの終わりに交換したもので、幸弘のものは太陽が持っている。
久しぶりに開いたが、はやり何度読んでもじんわりと胸にくるものがある。
あれから、八年が経ち、幸弘は大人になった。
酒も飲めるし、自分でお金を稼ぎ、好きなところに住んで、好きなように生きている。
あの頃に必死に悩んだ甲斐がある。
グラスが空になり、あと一杯飲んで寝ようか、そんなことを考えていると、玄関からガチャリと鍵の回る音がした。
そろり、そろり、と音を立てないように洗面所で手を洗い、リビングに近づいてくる足音。
時刻は深夜一時過ぎ。
きっと、幸弘が寝ていると思っているのだろう。
寝たふりでもして驚かせてやろうか、そんないたずら心が沸き上がるが実行する前にリビングの扉が開き、驚いた瞳と視線がかち合う。
「おかえり。意外と早かったな」
「ただいま。起きてたの? なら言ってよ~。なんか買ってきたのに」
スーツ姿の太陽がコートと背広を脱ぎながら、ソファでくつろぐ幸弘に駆け寄ってくる。
幸弘の手元にも酒があるのだが、太陽からは顔を顰めたくなるほどの酒の臭いがした。
足取りも表情もしっかりしていることから、太陽が飲んでいたというよりは付き合わされていたという方が正しいのだろう。
「酒臭い」
「勘弁してよ。絶対朝まで離してくれない課長を頑張って潰してきたんだ」
「あぁ、いつの話してる話の長い……」
「そうそう! 奥さんとケンカしたんだってさ。で、家に帰りたくないって部下を巻き込んでプチ家出……って、もぉ~、また読んでる!」
太陽が脱いだコートと背広をその辺に散らかして、幸弘の隣に腰を下ろした。
そして、幸弘の手元にあった歪で古びた冊子を恥ずかしそうに指さす。
「年一くらいで読んでんじゃん! もぉ~!」
「別にいいだろ。お前のいないときに読んでるんだからさ。今日は朝まで帰ってこないと思ったし、帰って来るんだったら隠してた」
「……どこが面白いんだよぉ」
「高校生の太陽はバ可愛い」
「今は」
「アホ可愛い」
「カッコいいおれは?」
「そんなん、この二十四年で一回も見たことない」
酷い! と喚いて酒臭いと言っているのに幸弘に抱きついてくる。
せめて着替えてきてほしいところだ。
「寒かったか?」
「うん。すっげぇ、寒かった! だから、ユキで暖を取る」
すりすりと冷えた頬が幸弘の頬に触れ、湿った感触と微かに歯を立てられている気配がする。
酒臭い。
「……なぁ、この日記の✗✗✗って何なの。ずっと聞きそびれてたんだけど」
「え、今聞くの? 金曜日の夜だよ? 二人ともお酒入ってるんだよ? 明日休みだよ!? イチャイチャしてよくない?」
「リストにはきちんと、エッチなことって書いてあるのに」
「……うぅ、ユキがおれの羞恥心を」
「で?」
「だってさぁ、恥ずかしいじゃん。そういうことした日に書いてるわけだよ。セックスって書くのも性行為って書くのもなんか恥ずかしいし、エッチって書くのもだいたい子供っぽくて恥ずかしいし」
あまりにも予想通りな答えに幸弘は吹き出してしまう。
「なぁ、いちゃいちゃ……」
「青春だった?」
幸弘が冊子に大事に触れながら問う。
未だに幸弘からの許可待ちの太陽が動きを止めて、人懐っこい瞳を丸くして、視線を逸らした。
「……答えたら、キスしてやろう」
「ずるだぞ! おれのしてほしいことをチラつかせて!」
「そっか……残念だ。太陽はキスしたくないらしい。俺はしたいのに」
「ならしてよ!」
「はぁ~、むり。俺の口がお前から答えを聞かないとしないって言ってる」
「んなわけない! ……うぅ~~~! 青春だったよ! てか、十分青春してることに気付かないバカなおれが右往左往してただけ!」
「ははっ!」
幸弘はご褒美だ、と太陽の頬にキスをする。
不服そうな太陽の視線を無視して、立ち上がり、太陽が脱ぎ散らかした衣類を拾い上げる。
「早くシャワー行け。酒臭いのどうにかしてこい。話はそれから」
「やった」
パタパタとあわただしく風呂場に行く太陽の後姿を見送りながら、幸弘はコートと背広をクリーニングの袋に入れる。
明日にでも出してきてやろう。
きっと、五分もせずに太陽は風呂から上がってくる。
きれいに洗ったよ、と言いながら幸弘に髪を乾かしてもらうためにドライヤーを片手にリビングに入ってくる。
昔から続く習慣は、空気のように当たり前にそこに在る。
八つ目の項目「ずっと一緒」にいつか、チェックを付けられる日までこういう日常を大事に過ごしていく。
恋人達成リスト
☑待ち合わせしてファミレスで課題
☑水族館
☑夏祭り
☑オープンキャンパス第二段、
☑手をつなぐ
☑キス
☑エッチ
⊡ずっと一緒
了
この項目をリストに作ったとき、全く何も考えてなかったんだ。
恋人同士がすることだから、興味があるから、そんな理由で入れたんだ。
もちろん、恋人になるって選択肢が浮かんだときに思ったのは、ユキと離れなくて済む。
離れなくていい正当な理由を作れる。
ずっと一緒が現実になるための近道。
そんなふうに思ってた。
けど、今日、実は元々そういう好きがおれの中にあって、好きって種類があることは理解しててもどの好きがどれなのかなんて、条件が明確にないとわからないんだって思った。
下手したら、おれは一生ユキへの好きをただの好きだと思って生きていってたんだなと思うとゾッとする。
ユキに触りたいことなんて、今までたくさんあったんだ。
寂しいときは手を握ってほしいし、抱きしめてほしかったし、たまにユキのほっぺに齧りつきたくなったりさ。
なんで今まで分からなかったのか不思議。
そんなユキはおれを抱きたいなんて言うから、本当にドキドキした。
そして、当たり前だよなって思った。
だって、おれたちずっとエッチするって考えたときに抱く側でしか想像してこなかったもんな。
される、なんて考えたことない。
だから、今日、やり方を調べた時、ちょっと……いや、だいぶ怖くなってさ、ごめん。
いつか、おれも覚悟決めるから待ってて。
でな、ユキはあんまり気持ちよくなかったかもしれないというか、気持ちよくなかったと思うんだけど、おれはまたしたいと思ってるんだ。
気持ちいいのもあるけど、最中のユキはおれだけのものなんだって思うと、なんか、ぎゅーーーってして、転げ回りたくなる。
上手くなるから、よろしくお願いします。
ずっと一緒にいてね。
太陽
◆◇
古びた手作りのしおり。
それは幸弘が大事にしているものだ。
ストーブの上に乗せたやかんがヒューヒューと音を立て、沸騰していることを知らせてくる。
外はあいにくの雪で、今日からの週末は冷え込むとニュースで言っていた。
頑張った一週間の終わりに、一人でお酒を片手にあの日を思い出す。
しおりの一ページ目には八つの項目が書いてあり、それぞれ先頭の四角にはチェックが入ってる。
この八つ目の項目は夏休みの終わりに交換した際に書き増やしたものだ。
七つ目まできっちり埋まったリスト。
そして、二ページ目からは日記が始まる。
待ち合わせ、水族館、オープンキャンパス、キス、そして――二人の初めて。
太陽があの時、何を考えて、どう感じていたかが書いてある。
夏休みの終わりに交換したもので、幸弘のものは太陽が持っている。
久しぶりに開いたが、はやり何度読んでもじんわりと胸にくるものがある。
あれから、八年が経ち、幸弘は大人になった。
酒も飲めるし、自分でお金を稼ぎ、好きなところに住んで、好きなように生きている。
あの頃に必死に悩んだ甲斐がある。
グラスが空になり、あと一杯飲んで寝ようか、そんなことを考えていると、玄関からガチャリと鍵の回る音がした。
そろり、そろり、と音を立てないように洗面所で手を洗い、リビングに近づいてくる足音。
時刻は深夜一時過ぎ。
きっと、幸弘が寝ていると思っているのだろう。
寝たふりでもして驚かせてやろうか、そんないたずら心が沸き上がるが実行する前にリビングの扉が開き、驚いた瞳と視線がかち合う。
「おかえり。意外と早かったな」
「ただいま。起きてたの? なら言ってよ~。なんか買ってきたのに」
スーツ姿の太陽がコートと背広を脱ぎながら、ソファでくつろぐ幸弘に駆け寄ってくる。
幸弘の手元にも酒があるのだが、太陽からは顔を顰めたくなるほどの酒の臭いがした。
足取りも表情もしっかりしていることから、太陽が飲んでいたというよりは付き合わされていたという方が正しいのだろう。
「酒臭い」
「勘弁してよ。絶対朝まで離してくれない課長を頑張って潰してきたんだ」
「あぁ、いつの話してる話の長い……」
「そうそう! 奥さんとケンカしたんだってさ。で、家に帰りたくないって部下を巻き込んでプチ家出……って、もぉ~、また読んでる!」
太陽が脱いだコートと背広をその辺に散らかして、幸弘の隣に腰を下ろした。
そして、幸弘の手元にあった歪で古びた冊子を恥ずかしそうに指さす。
「年一くらいで読んでんじゃん! もぉ~!」
「別にいいだろ。お前のいないときに読んでるんだからさ。今日は朝まで帰ってこないと思ったし、帰って来るんだったら隠してた」
「……どこが面白いんだよぉ」
「高校生の太陽はバ可愛い」
「今は」
「アホ可愛い」
「カッコいいおれは?」
「そんなん、この二十四年で一回も見たことない」
酷い! と喚いて酒臭いと言っているのに幸弘に抱きついてくる。
せめて着替えてきてほしいところだ。
「寒かったか?」
「うん。すっげぇ、寒かった! だから、ユキで暖を取る」
すりすりと冷えた頬が幸弘の頬に触れ、湿った感触と微かに歯を立てられている気配がする。
酒臭い。
「……なぁ、この日記の✗✗✗って何なの。ずっと聞きそびれてたんだけど」
「え、今聞くの? 金曜日の夜だよ? 二人ともお酒入ってるんだよ? 明日休みだよ!? イチャイチャしてよくない?」
「リストにはきちんと、エッチなことって書いてあるのに」
「……うぅ、ユキがおれの羞恥心を」
「で?」
「だってさぁ、恥ずかしいじゃん。そういうことした日に書いてるわけだよ。セックスって書くのも性行為って書くのもなんか恥ずかしいし、エッチって書くのもだいたい子供っぽくて恥ずかしいし」
あまりにも予想通りな答えに幸弘は吹き出してしまう。
「なぁ、いちゃいちゃ……」
「青春だった?」
幸弘が冊子に大事に触れながら問う。
未だに幸弘からの許可待ちの太陽が動きを止めて、人懐っこい瞳を丸くして、視線を逸らした。
「……答えたら、キスしてやろう」
「ずるだぞ! おれのしてほしいことをチラつかせて!」
「そっか……残念だ。太陽はキスしたくないらしい。俺はしたいのに」
「ならしてよ!」
「はぁ~、むり。俺の口がお前から答えを聞かないとしないって言ってる」
「んなわけない! ……うぅ~~~! 青春だったよ! てか、十分青春してることに気付かないバカなおれが右往左往してただけ!」
「ははっ!」
幸弘はご褒美だ、と太陽の頬にキスをする。
不服そうな太陽の視線を無視して、立ち上がり、太陽が脱ぎ散らかした衣類を拾い上げる。
「早くシャワー行け。酒臭いのどうにかしてこい。話はそれから」
「やった」
パタパタとあわただしく風呂場に行く太陽の後姿を見送りながら、幸弘はコートと背広をクリーニングの袋に入れる。
明日にでも出してきてやろう。
きっと、五分もせずに太陽は風呂から上がってくる。
きれいに洗ったよ、と言いながら幸弘に髪を乾かしてもらうためにドライヤーを片手にリビングに入ってくる。
昔から続く習慣は、空気のように当たり前にそこに在る。
八つ目の項目「ずっと一緒」にいつか、チェックを付けられる日までこういう日常を大事に過ごしていく。
恋人達成リスト
☑待ち合わせしてファミレスで課題
☑水族館
☑夏祭り
☑オープンキャンパス第二段、
☑手をつなぐ
☑キス
☑エッチ
⊡ずっと一緒
了


