新学期。
高校最後の二学期の始まり、と思えばまだ許せる始業式。
ホームルームが終わった幸弘は太陽を待っている。
窓の外にはアスファルトから立ち上る陽炎がまだ夏は終わっていない、と存在を主張している。
暑そうだな、帰るのだるいな、そんなことを考えながら、幸弘は今日も上田の惚気を聞き流している。
「でな、美風がまた今度、あの二人も誘ってカラオケでも行かないかって言うんだ。カラオケ店なら、勉強しても邪魔にならないし、受験生のオレらにはちょうどいいんじゃないかって」
上田は彼女のおかげで過去一充実した夏休みを過ごしたようだ。
だが、幸弘はデートを合コンにした上田を許してはいない。
「……よかったな。両手に花? 両手どころか手が余るな」
「ちげぇよ! お前らもくるんだよ! てかさ、人がせっかく彼女の友達紹介したのに、連絡先も聞かないで二人で帰るとか何! アホなの!?」
「彼女いらないって言ったじゃん」
「かぁ~! モテる男は違うな! 贅沢! 二人ともかわいかったろうが!」
「俺はモテてない。モテるのは太陽」
「うるさい! 彼女できないオレの隣で、何食わぬ顔で彼女作ってた奴に何言われてもへそで茶が湧かせるわ!」
何かがおかしいが、上田は基本アホなのでしょうがない。
勉強のできるアホだ。
「彼女に言っといて。紹介してくれてありがたいけど、俺も太陽もそういう気が無いから、ごめんねって」
「お前からの伝言をなんでオレの可愛い美風に伝えないといけないんだ!」
どうしろと……。
と、隣のクラスから一斉に椅子を引く音が聞こえ、ホームルームがやっと終わったことが分かる。
と同時に、
「ユキぃ~」
といういつもの声も、もう三年間のおなじみだ。
勢いよく幸弘のクラスになだれ込んできた太陽は幸弘の背中にへばりつき、上田を鋭い目つきで睨んだ。
「おれ、彼女ほしいって言ってない!」
「は、え?」
急に始まる太陽の怒りに上田はついて行けない。
「あの二人は可愛かったけど、おれ彼女いらないの! 申し訳ないから、謝っといて! てか、いらないって言ったのに! 上田が悪い!」
「はぁ~!? どうしちまったんだよ、真田! あんなに彼女ほし~って言ってたのに! 病気? え、大丈夫か?」
太陽の変わりように、急に怒りをぶつけられたことより心配が勝ってしまったらしい上田が、目を白黒させて幸弘にくっつく太陽を揺さぶる。
こっちまで揺れるからやめてほしい。
「……あ、受験か。やっぱり、真田は受験が心配なんだろ……。下から数えたほうが早いしな……」
「うるさい!」
それは言い過ぎなのだが、学年上位にいる上田にとっては中間も下も同じらしい。
だから、幸弘と太陽しか構ってくれる人がいないのだ。デリカシーもないし。
「で、大学決まったのか?」
「決まってたら、どうするの」
「友達として、勉強を教えてやらんこともない」
「彼女はいらないから、呼ばないでな」
「……美風になんていえばいいんだよぉ」
未だにそんなことを言っている上田に二人して、冷たい視線を投げると、渋々というように、分かったと言う。
「おれ、星稜」
「ちなみに、俺も」
何かを考えたらしい上田が笑う。
「え、保育園からいっしょとか言ってなかったか?」
「そう! 二歳からずっと一緒!」
「すっげ!」
お高くとまってうるさい上田だが、こういう反応をするから嫌いではないのだ。
「星稜かぁ~、中村はともかく真田はぎりぎりだな」
「あ、また悪口――」
「よし、オレが対策してやるよ! 勉強はな、教えたほうが身につくんだ。オレの受験勉強にもなる」
そう。いいやつなのだ。お高くとまってうるさいだけで。
「やりぃ~。学年十位の上田と友達で初めてよかったと思った!」
幸弘を挟んで喚き合う二人にうるさいなと思いつつ、幸弘の意識は電源を切られた冷房に映る。
徐々に消えてく教室の冷気。
服の中を伝う汗に、早く夏が終わってくれたらいいのにと思いながらも背中の体温を引きはがそうなんて考えもしない。
きっと、大人になったときに青春として思い出すのは太陽の体温なのだと思うから。
高校最後の二学期の始まり、と思えばまだ許せる始業式。
ホームルームが終わった幸弘は太陽を待っている。
窓の外にはアスファルトから立ち上る陽炎がまだ夏は終わっていない、と存在を主張している。
暑そうだな、帰るのだるいな、そんなことを考えながら、幸弘は今日も上田の惚気を聞き流している。
「でな、美風がまた今度、あの二人も誘ってカラオケでも行かないかって言うんだ。カラオケ店なら、勉強しても邪魔にならないし、受験生のオレらにはちょうどいいんじゃないかって」
上田は彼女のおかげで過去一充実した夏休みを過ごしたようだ。
だが、幸弘はデートを合コンにした上田を許してはいない。
「……よかったな。両手に花? 両手どころか手が余るな」
「ちげぇよ! お前らもくるんだよ! てかさ、人がせっかく彼女の友達紹介したのに、連絡先も聞かないで二人で帰るとか何! アホなの!?」
「彼女いらないって言ったじゃん」
「かぁ~! モテる男は違うな! 贅沢! 二人ともかわいかったろうが!」
「俺はモテてない。モテるのは太陽」
「うるさい! 彼女できないオレの隣で、何食わぬ顔で彼女作ってた奴に何言われてもへそで茶が湧かせるわ!」
何かがおかしいが、上田は基本アホなのでしょうがない。
勉強のできるアホだ。
「彼女に言っといて。紹介してくれてありがたいけど、俺も太陽もそういう気が無いから、ごめんねって」
「お前からの伝言をなんでオレの可愛い美風に伝えないといけないんだ!」
どうしろと……。
と、隣のクラスから一斉に椅子を引く音が聞こえ、ホームルームがやっと終わったことが分かる。
と同時に、
「ユキぃ~」
といういつもの声も、もう三年間のおなじみだ。
勢いよく幸弘のクラスになだれ込んできた太陽は幸弘の背中にへばりつき、上田を鋭い目つきで睨んだ。
「おれ、彼女ほしいって言ってない!」
「は、え?」
急に始まる太陽の怒りに上田はついて行けない。
「あの二人は可愛かったけど、おれ彼女いらないの! 申し訳ないから、謝っといて! てか、いらないって言ったのに! 上田が悪い!」
「はぁ~!? どうしちまったんだよ、真田! あんなに彼女ほし~って言ってたのに! 病気? え、大丈夫か?」
太陽の変わりように、急に怒りをぶつけられたことより心配が勝ってしまったらしい上田が、目を白黒させて幸弘にくっつく太陽を揺さぶる。
こっちまで揺れるからやめてほしい。
「……あ、受験か。やっぱり、真田は受験が心配なんだろ……。下から数えたほうが早いしな……」
「うるさい!」
それは言い過ぎなのだが、学年上位にいる上田にとっては中間も下も同じらしい。
だから、幸弘と太陽しか構ってくれる人がいないのだ。デリカシーもないし。
「で、大学決まったのか?」
「決まってたら、どうするの」
「友達として、勉強を教えてやらんこともない」
「彼女はいらないから、呼ばないでな」
「……美風になんていえばいいんだよぉ」
未だにそんなことを言っている上田に二人して、冷たい視線を投げると、渋々というように、分かったと言う。
「おれ、星稜」
「ちなみに、俺も」
何かを考えたらしい上田が笑う。
「え、保育園からいっしょとか言ってなかったか?」
「そう! 二歳からずっと一緒!」
「すっげ!」
お高くとまってうるさい上田だが、こういう反応をするから嫌いではないのだ。
「星稜かぁ~、中村はともかく真田はぎりぎりだな」
「あ、また悪口――」
「よし、オレが対策してやるよ! 勉強はな、教えたほうが身につくんだ。オレの受験勉強にもなる」
そう。いいやつなのだ。お高くとまってうるさいだけで。
「やりぃ~。学年十位の上田と友達で初めてよかったと思った!」
幸弘を挟んで喚き合う二人にうるさいなと思いつつ、幸弘の意識は電源を切られた冷房に映る。
徐々に消えてく教室の冷気。
服の中を伝う汗に、早く夏が終わってくれたらいいのにと思いながらも背中の体温を引きはがそうなんて考えもしない。
きっと、大人になったときに青春として思い出すのは太陽の体温なのだと思うから。


