BAR Balalaikaー恋はあせらずー

 懲りずに貴也がやって来る。
 もう完全な常連客となったわけだ。
 店の人間からみれば上客この上なく、拒否する理由はどこにもない。
 けど。
 なんか馴れ馴れしくないか?
 距離感が近い……わけではないけど、隙あらば入り込もうとするっていうの?
 他のお客様はお話するのが楽しいんたけど、貴也相手だと、神経を尖らせておかないとって身構えてるんだよな。
 まあ、落ち着かない——かな。

「ウイスキーをロックで」

 オーダーもカクテルじゃなくロック中心になった。
 今までのオーダーは酒豪の貴也らしくないものだったから、これが本来の貴也の好きな飲み方なのかもしれない。

 ほかのお客様のオーダーも捌きながら、忙しく動きまわっていると……

「お隣いい?」
「どうぞ」

 女性の声のあと、貴也が返事をした。
 思わずカウンターのふたりを見てしまった。

「いつもいらしてますね」
「ええ。いい雰囲気のバーですから」
「そうね。贅沢な気分になれるから、わたしも好きだわ」

 女性はふふっと笑う。
 あんまり客同士、声をかけるのはおすすめしないんだけどな……
 注意することでもないんだけど、店を褒めてくれたし、許してあげるか。

「なにを飲んでます?」
「ウイスキー。ラガヴーリンですね」

 貴がちらりと目の前のボトルに目を移す。

「あなたは?」
「なにかおすすめあります?」
「お酒は強い?」
「どうかな。いろいろ飲んでみたいんだけどよくわからなくって——」

 おっと。じっくり話に耳を向けてしまった。
 なんだこのあまあまな雰囲気。カウンターのど真ん中でやるなよ。
 
「理都」

 不意に呼ばれ心臓が跳ね上がる。
 ……顔に出てなきゃいいけど。

「チャイナブルーを」
「かしこまりました」

 すぐさま貴也は女性へ向く。
 おれはコリンズグラスとグレープフルーツを取り出した。
 ペティナイフでグレープフルーツを半分にする。が、スルッと刃先が皮をすべる。
 危うく指に刺さるところだった。

 危ない、危ない。

 ハンドジューサーに切ったグレープフルーツを入れようとすると入れ損ねそうになる。

 落とさなくて良かった……

 失敗を繰り返しそうになって、手を止め深呼吸をした。
 直後貴也と目が合う。
 無表情な目に薄い壁を感じた。

「マスター、オーダーいい?」

 お客様に呼ばれ貴也たちの前を通り過ぎる。
 ちらりともう一度見た貴也は女性との会話に笑顔を見せている。

「お待たせしました」

 おれは今、いつも通り?