BAR Balalaikaー恋はあせらずー

 風邪を引いた。
 喉が痛いなぁと思いつつ店に行ったはいいけど、咳が出たして慌てて店を閉めて帰ってきた。
 開店前で良かった……
 張り紙に殴り書きでも『しばらくお休みします』と伝えたいことは書けた。
 理由を書くか悩んだ挙句、その1文だけにした。
 書いた方がよかったかな……
 とか考える場合じゃない。帰って測った熱は37度8分。
 体だるいはずだわ。
 少しでも元気なうちにってドラッグストアで買い溜めた食料と飲み物。のど飴も2袋。薬とか諸々。心強い。
 あぁ。臨時休業とか初めてかも。
 体力には自信あったのになぁ。
 歳のせいか? そうなのか?

 もう。ひとりだとこんなとき心細くなるんだよな。
 だからって近くに頼る人もいないし。仕方ないんだけどさあ。
 母さん呼んでもいいんだけど、こんなときしか呼ばないって叱られそう。
 そういってうれしそうに笑う母さんを見たら、なんか恥ずかしくなるんだよ。
 
 たまには家に帰るか……
 
 そしたら店、またお休みしなきゃいけないか。
 それもなぁ。
 お客様との時間楽しいからなぁ。
 でも、父さんの分まで親孝行したいし……

 父さん——……

 ふっと目覚めて、寝る前のことを思い出す。
 取り留めもなく変なこと考えてたな。
 まだ熱っぽいけどスッキリしたい。
 少し汗ばんだ体をシャワーで流した。
 レジ袋を持って、ホカホカのまままたベッドに戻った。
 経口補水液を口にし、ほっとため息をついた。
 まだだらしい体を横たえ布団に顔を埋める。

 そういや、父さんのこと考えてたなぁ。 

——50歳か。若すぎだろ。
 いろいろ教えて欲しかったのに。
 今おれ、ちゃんとやれてる?

……ちょっと待て——

 なんで貴也が出てきた?
 今、父さんのこと考えてたのに邪魔するなよ。

——佐竹さんと出てったな。いい雰囲気で。
 もういいって。
——送ったってどこまで?
 じゃなくて!
——家まで?
 それでもいいじゃん。ふたりとも大人なんだからさ。
——貴也、佐竹さんのこと好きになったのかな?

「はあ?」

 ヤバい。また熱が上がりそう。
 ほんとに、脳内から消えてくれ。
 あんな女たらし、どうでもいいから。

 目を閉じてみたけど、下心丸出しのニヤけた貴也が佐竹さんを見つめてる映像が脳内再生される。
 
 だーかーら。
 どうでもいいんだって。
 関係ないんだって。
 別にいいって。好きにすれば。ほんとに。

 なんでこんなに苦しいんだよ。
 インフルなのか?

 いや、違うな……

「もう勘弁してくれよ……」

 胸を押さえて布団に潜り込んだ。