サマー・エンド・プロトコル ― 幼馴染との最後の夏、僕らは秘密を共有した

《TUTORIAL:WORLD END HORIZON》
ようこそ、第三フィールド《ワールド・エンド・ホライゾン》へ。
本フィールドは、空戦シューティング形式の終末防衛エリアです
。プレイヤーは戦闘機に搭乗し、侵攻する敵性存在を迎撃します。

《WORLD SYSTEM:世界構造について》
本フィールドの制限時間は、ゲーム内時間で七日間です。
現実時間では8月19日から8月31日までが該当します。フィールドは複数の防衛エリアに分かれており、各エリアは常に敵の侵攻を受けています。

《FIGHTER SYSTEM:戦闘機システム》
本フィールドでは、プレイヤーは戦闘機に搭乗して行動します。
戦闘機の性能は、これまでのフィールドで獲得したステータスに基づき自動生成されます。
また、これまでに取得した武器・アイテム・カードは、本フィールドでは武装モジュールとして変換されます。

《FINAL PHASE:最終フェーズについて》
ゲーム内時間7日目において、最終フェーズへ移行します。詳細は当該フェーズ到達時に開示されます。

《MISSION START》
空域接続を開始します。
戦闘機の初期設定を行ってください。
───接続完了まで、残り10秒。

───3、2、1。

***

視界が、一度完全に落ちた。
音も、光も、すべてが消える。

ほんの一瞬の無音のあと、次に感じたのは風。
ゴウッ、と耳を裂くような轟音と、空と雲を切って進む視界。
頬に当たるはずのない風圧が、確かにそこにあった。
その上に、裂け目のように走る黒い亀裂。
そこから、雷撃のようなものが迸っている。

「…っ、相変わらずVRすげえな…」

呟きながらふと横を見ると、透明なインターフェースが浮かんでいる。
コントローラーを握ると、操縦桿が現れた。
軽く動かすと、機体も滑るように傾いた。
反応が速い。

そう思った瞬間、耳元で電子音が弾けた。

《SYSTEM:機体同期完了》

同時に、コックピットに白い光が流れるように走って収束した。
そして機体の隅に表示される機体データ。
英数字の羅列をよくわからないまま眺めていた、次の瞬間。

アラートが鳴った。

《WARNING:敵性反応、上空より接近中》

顔を上げる。
裂け目の奥から、何かが落ちてくる。

…いや、違う。

降りてきている。

黒い影。
鳥のようなシルエットだが、翼は歪で、表面が波打っている。
実体が定まっていないような、不気味な存在。
それが、一体、二体…十体。

「……多いな」

思わず呟くと、照準が自動でそいつらを捉えた。
ロックオンの枠が、順番に敵機を囲っていく。
トリガーの位置が、自然と分かる。

(撃てばいいんだな)

考えるより先に、指が動いた。

───ドンッ。
機体が軽く震え、光の弾が一直線に走る。
一番手前の敵に直撃。
次の瞬間、それは弾けた。
爆発、というより、崩れた。

形がほどけるように消え、黒い粒子が風に散る。

「…っ、いける」

すぐに次。
照準を滑らせる。
だが今度は相手も動いた。
異様な速度で突っ込んでくる。

「速っ───!」

咄嗟に操縦桿を引く。
機体が急上昇し、すれ違うように敵を避けた。
背後に回られる。

警告音。

《LOCK ON》

「やばっ」

次の瞬間、閃光が走ったが───衝撃は、来なかった。
代わりに、視界の端でシールドゲージがわずかに減る。

(防いだ…?)

理解するより早く、身体が動く。
ロールして、反転。

背後を取る。

「…っ!」

今度は連射。
光弾が連続で撃ち出され、敵機を貫いた。
一体、また一体と、崩れていく。

気づけば、残りは三体。

呼吸が速くなる。
心臓が早鐘を打つ。
揺れる機体は撃ち落とされる恐怖を感じさせるのに、どこか高揚している自分がいた。

(…楽しい、かも)

そんなことを思ってしまった自分に、少し驚く。
その時、通信が割り込んだ。

《OPEN CHANNEL:近接プレイヤーを検知》

ノイズ混じりの音声。

「そっち、今ログインした?」

聞き慣れた声。
少し低くて、抑揚が少ない。

「ああ。そっちは?」
「もう出てる。前方、少し上」

一瞬の間。
言われた方角に視線を向ける。
いた。
漆黒に光る、三角形より少し長い機体。
次の瞬間、視界の端を何かが横切って───それは、銃弾のようなミサイルだった。

そして視線の先でミサイルが弾け、残っていた敵数機が一瞬で吹き飛んだ。

「…え」

思わず息が漏れる。
凄い。
同じプレイヤーのはずなのに、まるで別物だ。

黒の機体が、ゆっくりとこちらの横に並ぶ。

「初戦で囲まれるとか、運悪いな」

スピーカーから聞こえるような、通信を通した電子がかった淡々とした声が聞こえた。

「…助かった」

間を置かずに続く。

「気にすんな。…行くぞ。次、来る」

彼方の機体が、すでに加速している。

視線を上げる。
裂け目の奥から、今度はさっきよりも大きな影が落ちてきていた。

ひとつじゃない。
いくつも。

空が、少しだけ暗くなる。

警告音が重なる。

《ENEMY WAVE 02:接近》

無意識に、操縦桿を握り直す。

「…了解」

そう呟いて、スロットルを押し込んだ。
機体が前へ出る。

空の中へ。

終わりに向かっていく世界へ、俺たちは二人でダイブした。

***

第三フィールドが始まって7日目。

空は、相変わらず騒がしかった。
裂け目から落ちてくるカラスの様な敵影。
焼けるような閃光。
耳鳴りみたいに鳴り続ける警告音。

「未那都、左来てる」
「うん、見えてる!」

短いやり取りだけで、動きが合う。
俺が引きつけて、彼方が撃つ。
彼方が前に出たら、俺がカバーに回る。

最初は、ただ必死だった。
撃たれて、避けて、落ちないように食らいつくだけで精一杯だった。
それが今は───

「次、上!」
「了解!」

言葉にするより早く、身体が動く。
視界の端で彼方の機体が加速した。
黒い機体から繰り出される銃弾が、敵を貫く。
と同時に、俺のシールドが展開し、敵から放たれた弾を受け止める。

連携、というより呼吸が合っている。そう感じた。

 《ENEMY DOWN》《COMBO BONUS》《LEVEL UP》

 視界にログが流れた。それに思わず笑みが浮かぶ。

「また上がったな」
「そうだな」

このフィールドは、割と感覚でプレイ出来るからだろうか。
純粋に楽しいと感じていた。

だからなのか、俺たちの会話は前より少し柔らかくなった気がする。

「そっちも?」
「さっきので上がった」
「そっか」

なんだか変な感じだ。
俺たちは本当は数件先の、家の中にいて。
ゲームの中でだって、すぐ隣にいるわけじゃない。
なのに前より、彼方がすごく近いところに感じた。
ふと、次の敵影が落ちてくるのが視界の端に見えた。

それに彼方に声をかける。

「行くぞ!」
「ああ!」

スロットルを押し込む。
機体が風を切って前に出る。横には、彼方がいる。

それはやっぱり、当たり前みたいに感じた。

***

ゲームを終えて、ログアウトしたあとも感覚が残っている。
さっきまでの轟音が嘘みたいに、ヘッドホンを外した現実の空は静かだった。
終わりに近づく夏の空は暗く、蝉の声もどこか遠い。
不意にスマホが震える。

ふと見ると、彼方からのメッセージが画面に表示されていた。

『今大丈夫?』

短い一文。
少しだけ考えてから、返信する。

『うん。どうした?』

既読がつくのが早い。
でも少しだけ間があって、メッセージがまた来た。

『夏祭り行かない?春日神社でやるやつ』
「……夏祭り?」

思わず小さく呟く。
昼間は彼方の部屋で、夜はゲームの中で会って話しているのに。今まで俺たちは誘い合わせてどこかに行く、というのもなかった。
それを考えると妙に意識してしまう。

でも───これまでゲーム三昧だったし、リアルの世界で夏らしいことするのもいいかも。
そう思った俺は画面に視線を戻して、画面をタップした。

『いいよ』

送信。
すぐに既読がつく。
返事は、少し遅れて届いた。

『じゃあ、また連絡する』

なんてことないやり取り。
なのに、なぜか妙にソワソワしてしまう。
思わずスマホの画面から目を逸らすと、窓の外は真っ暗だった。
街灯がポツンと寂しく立っている。
静かな夜。

夏は、確かに終わりに向かっていた。

(このままずっと、続けばいいのに)

俺は思わず、そんなことを考えてしまっていた。

***

そして、夏祭りの日。

「はい、できた!うん、いいじゃない!」

嬉しそうな母さんの声と同時に、背中を軽く押される。
目の前の姿見を見ると、紺地に細かい水色模様の浴衣に身を包んだ俺。

「……なんか、めっちゃ久しぶりな気がする」

思わずそう言うと、母さんは少しだけ笑った。

「そうね。毎年行こうって誘ってたのに、ずっとアンタ断ってたでしょ」
「……まあ」

曖昧に返す。
母さんに「今年の夏祭り、彼方と行くから」と言うと、二つ返事で了承してくれた上に「じゃあ浴衣も着なくちゃね!」と大張り切りだった。
俺の母さんは、昔から彼方に甘い。

玄関の外に出ると、もう既に母さんに着替えさせてもらった彼方が立っていた。
黒地で楊柳の浴衣の、スッキリしたシルエットが似合っている。
彼方は小走りで俺の方に来て、上から下まで視線を走らせた。

「…浴衣、似合ってる」

嬉しそうな笑みでさらっと言われ、言葉に詰まる。

「…そっちも。いいじゃん」

照れながら返すと、彼方は笑みを浮かべながら小さく頷いた。

「ありがとう。行こっか」

***

夜の道は、人で溢れていた。

屋台の灯り。
甘い匂い。
遠くから聞こえる太鼓の音。
いつもは避けていたはずの場所なのに、今日は不思議と嫌じゃない。

隣に彼方がいるからかもしれない、なんて。
前じゃ考えられなかった事を思った。

「結構、人多いな」
「夏祭りだしな」

それだけの会話。
でも、歩幅が自然と合っている。
少し歩いたところで、彼方がふと視線を上げた。

「…花火、そろそろだな」
「ここから見えるかな?」
「いや」

一拍置いて。

「特等席、知ってるんだよね」
「え?」

彼方が少しだけ振り返って、悪戯っぽくこちらを見た。

「花火打ち上がるけど、行く?」
「…行く!」

思わず即答する。
彼方はそれを聞いて、小さく笑った。

***

少し人混みを抜けて、川沿いに出る。
視界が一気に開けた。
水面が、静かに光を映している。

「…すご」
「だろ」

ちょうどその時。
夜空に、光が昇る。

───ドンッ。

腹の奥に響く音と同時に、花が開いた。
赤、青、金。次々に広がって、夜の闇に咲く。

思わず、見上げたまま動けなくなる。

「…綺麗だな」
「うん」

隣で、彼方も同じように空を見ている。
その横顔を、少しだけ盗み見る。
花火の光が、横顔を照らす。
また一発、空に開く。

その光の中で、彼方がぽつりと呟いた。

「…明日だな、いよいよ」

ゲームの最終決戦のことだ。
最終フェーズである、明日の昼から公開される。
その言葉に一瞬だけ、現実に引き戻される。

「…そうだな」

短く返す。
花火が、また夜に咲く。綺麗だけどどこか儚い。
終わりに向かっているものの光。

ふとまた隣を見る。
彼方は、何を考えているのか分からなかった。
ただ、同じ空を見上げている。
今はそれだけでいい気がした。

もう一発、花火が上がる。
夜空に咲いた花が、ゆっくりと消えていく。
そのわずかな間に、彼方が口を開いた。

「…実はさ。母さんと、引っ越す話が出てるんだよね」
「…え?」

一拍遅れて、言葉が出る。思わず彼方の方を見る。

「引っ越し?」

心臓が、変に速くなる。
彼方は真剣な顔で俺を見て、小さく頷いた。

「源さんも工場の柱になって、来期から工場長やってくれるらしくて。
で、母さんも……心機一転、新しい土地でやり直したいと思ってる、って話されてさ。
叔母さんのいる神戸に行こうって考えてるんだって」

「……」

俺は言葉が出なかった。

「あれから母さんさ、表情も生き生きしてて。
そんなこと言うなんて、変わったんだなって…なんか、嬉しくて」

小さく彼方は笑った。
でもその笑みはどこか儚く、寂しげだった。

「それでさ…」

一瞬だけ、彼方が俯いて言葉が途切れる。

「…ついて行くのも、いいかもなって思った」

静かに落ちる言葉。

───本当は。
俺はずっと前から、そうした方がいいんじゃないかと思っていた。
この場所から離れた方が、彼方にとっていいんじゃないかって。

なのに。

なんだか胸がぐちゃぐちゃに掻き回されたように苦しくなって、それを誤魔化すみたいに口を開く。

「…え、転校ってこと?今更?」

少しだけ強い言い方になってしまうのがわかった。

「うん。大学とかも県外考えるなら、その方がいいって」

冷静な彼方の声に沈黙が落ちる。
花火が上がる音だけが、遠くで響いた。

「今は…どうしようか、正直悩んでる」

そこで初めて、彼方がこちらを見る。

「どうすればいいと思う?」

まっすぐな視線。
試すようでもなく、ただ、問いかけているだけの目。
その言葉に、胸の奥がきゅっと締まる。

───そんなの、決まってる。
行った方がいい。
離れた方がいい。
ここに縛られてるより、きっと。
分かってるのに。

口から出たのは、違う言葉だった。

「…それ、俺が行くなって言ったら、行かないのかよ」

一瞬だけ、彼方の目が揺れる。

「…わかんない」

短い返事。
また、沈黙が落ちる。
花火が、空を裂く。
色が広がって、消えていく。

その光を見上げながら、ぽつりと呟いた。

「…あのさ」

声が、少しだけ掠れる。

「明日から、決戦だけど。…お前、本気でやれよ。俺も、本気でやるし」

横で、彼方が小さく息を吐く気配がした。

「…ああ」

短く、確かに返ってくる。
それ以上、言葉は続かなかった。
花火が、また夜に咲く。

その光の下で、俺たちはただ同じ空を見上げていた。

「あのさ、未那都…」
「…何」

ゆっくりと彼方の方を見た。
その目は俺をじっと見ている。
そして彼方は、俺の耳元に口を寄せた。

「…帰ったらさ、キスしていい?」

その言葉に頬が熱くなる。
なんで今そんな事聞くんだ、と思ったけど、俺はゆっくり頷いた。

「…いい、けど」
「…良かった」

彼方が嬉しそうに笑う。
そして不意に、彼方の手が俺の手に触れ、そのまま俺の手を強く握った。
彼方の手は少し汗ばんでいる。

それに気づいた瞬間。
なんだか胸がぎゅっと掴まれたように苦しくなって、泣きそうになった。

だから俺は前を向いて、花火の方をじっと見ていた。

***

《FINAL PHASE TUTORIAL:最終フェーズについて》
ゲーム内時間7日目。本フィールドは最終フェーズへ移行します。

《APOCALYPSE EVENT:終焉事象》
フィールド中央上空に、超大型敵性存在〝ワールド・コア〟が出現。同時に、全防衛エリアも〝ワールド・コア〟による同時侵攻が発生しました。

《FINAL CHOICE:最終選択》
最終フェーズでは、全プレイヤーに二つの行動選択が提示されます。

■防衛ルート(DEFENSE LINE)
各防衛エリアへ移動し、一定時間、拠点の耐久を維持してください。
エリアを一つでも防衛成功した場合、高スコアを付与します。
そして、防衛成功数に応じてランキングが加算されます。

■討伐ルート(LAST STRIKE)
ワールド・コアへの突入および撃破を行います。撃破成功時、全エリアへの攻撃が停止し、フィールドクリアおよび大幅スコアボーナスが付与されます。
しかし撃破失敗時、当該任務参加者は全滅扱いとなり、スコアが大幅に減少します。

本任務は極めて高難度ですので、複数プレイヤーでの同時突入が推奨されます。

《LINK BONUS:連動補正》
ペアでの同時行動により、機体性能に補正が発生します。
また、最終フェーズに限り、ペア専用の高出力攻撃が解放されます。

《SYSTEM NOTE》
本フィールドにおいて、すべてのエリアを防衛することは不可能です。
また、ワールド・コアの単独撃破も現実的ではありません。
プレイヤーの選択と行動が、戦局およびフィールドの結末を決定します。

健闘を祈ります。

《WORLD END HORIZON》

最終フェーズを開始します。

***

二人で聞いていたアナウンスが消えた後も、お互いしばらく何も言わなかった。
空に浮かぶ〝ワールド・コア〟は、遠くからでも分かるほど異様だった。

ゆっくりと脈打つように光を放ち、そのたびに空が歪む。

「…どっち行く?」

先に口を開いたのは彼方だった。
俺は、すぐに答えられなかった。
防衛か、討伐か。

俺が黙っていると、彼方はハッキリした声で言った。

「俺は、討伐行くよ」
「…え?」

それに俺は少しビックリする。

「未那都は?」
「…俺は」

喉が、少しだけ引っかかる。

「…防衛、行こうと思う」

言ってから、少しだけ間があった。
それに俺は言い訳みたいに言葉を重ねる。

「確実に一拠点でも守れる方がいいし、討伐選んで失敗した時、今まで積み上げてきたものがゼロになるのは嫌だ。
だから、生き残れる可能性がある方を俺は選ぶ。……お前みたいに賭けるの、正直ちょっと…怖い」

否定されるかも、と一瞬だけ思ったけど。

「そっか」

返ってきたのは、あっさりした声だった。
顔を上げる。
彼方は、いつもと同じ顔でこっちを見ていた。

「いいと思う」
「…いいのかよ」
「うん」

迷いのない頷き。
それに俺は言葉に詰まった。

「そっちの方が、確実だろ。ポイントも取れるし」

現実的なことを言う。
いつもの彼方だ。
でも、やっぱり心の中はモヤモヤしたままだった。

「…じゃあ、お前は」
「俺は行くよ」

あっさりと言い切る。
それが当然みたいに。

「…全滅、するかもしれねえぞ」
「かもな」

軽く笑う。
その軽さに、少しだけ苛立つ。
彼方は、空の方を見上げた。

「でもさ。倒せたら世界救えんじゃん」
「…まあ、そうだけど」
「じゃあ、そっちの方がいい」

俺は拳を握った。
簡単に言う。あまりにも簡単に。
まるで、それが正解みたいに。
だから俺は何も言えなくなる。
間違ってるとは思わない。
でも、なんだか納得もできずにいた。

「…大丈夫なのかよ」
「ん?どうだろ」
「おい」
「まあ、なんとかなるだろ」

いつもの調子で言う。
根拠なんてないくせに。
俺はよくわかんなくて、でも何も言えなくなって視線を落とした。

選んだはずなのに。
これでいいって、自分で言ったのに。
なんか、違う気がした。

でもそれが何なのかは、うまく言葉にならなかった。

そして、そのまま時間だけが過ぎていった。