絶対幸せにならないで!

「虹くん」
「……ん?」
「なにかあった?」

すぐにわかった。ランドセルを握る手がいつもより強かったし、何度も空を見上げては小さくため息をこぼしていたから。

「なんか虹くん、元気ないみたい」
「……そうかな」
「僕さ、わかるんだ。なんかまちがいさがしみたいに、今日の虹くんと昨日の虹くん、なんか違うなーって」

虹くんの空笑いで僕はなんでか胸が苦しくって仕方がなかった。

「なんかあったなら話してよ、僕聞くよ、なんでも」
「……なんでもない」
「僕が、」
「なんでもないって!」

虹くんが大きな声を出したのは後にも先にもこのときだけだ。強く拒絶され、慄いたのも束の間、僕はそれでも諦めず虹くんのランドセルを引っ張った。

「痛っ……なに?」
「なんでも聞くもん!」

負けずに大きな声。虹くんは目を大きくかけて戸惑っていた。

「なんで、泣いてるの……?」

涙がとめどなく溢れていた。

「虹くんが笑わないからじゃん!」

泣きながら僕は必死に訴え、さらに泣いた。

「落ち込むのやめて!虹くんは悪くない!絶対!だから元気出してよ!お願い!」

あとから聞いた話だと虹くんはその日、クラスの男女数人の喧嘩の仲裁で怪我をした。取っ組み合いの間に入って、見事に突き飛ばされたという。落ち込むというより息詰まるような感覚にイライラしてたと。そしてぶつけた右肘が結構重傷で傷が消えないかもしれないと保健室で言われたという。




「びっくりしたよ、悩んでたのはおれなのになぜかそらが泣いてるんだもん」
「ああ、ははは……」

思い出すと急に恥ずかしくなって顔が熱い。

「おれ、そらにはなんでも話せる」
「え……?」
「ほんとはさっきの勝負で勝ったら、悩みを聞いてほしいって言うつもりだったんだ」

夕焼けで虹くんの顔はオレンジ色に染まった。その顔から感情は読み取れない。

「負けたから諦めようと思ったのに、そらはいつも気づいてくれるよね。それに話すまで解放してくれないし」

虹くんは笑顔で嫌味を言う。そしてそれがうれしそうだった。
そうだよ。勝負なんかなくても僕はいつだって虹くんの悩みを聞くよ。それから絶対に解決してみせる。

「やっぱおれ、そらと一緒だと楽だ」

なんでだろう、と虹くんは首を傾げる。それから僕の顔を見て考えても結局わからないと虹くんは言った。