「なんで……」
日没から三十分ほど過ぎた空は藍色に染まって、太陽とはまた違う美しさがあった。昼はどこに身を潜めていたのか鈴虫が澄んだ鳴き声を上げ夜を謳歌する。目の前の佐藤の肩の動きから呼吸のリズムが見て取れた。佐藤とは対照的に俺は案外心穏やかにゆっくりと息を吐く。
「九条のこと、気になり始めてた。けど、」
ずっと引っかかっていた。罪悪感で何度頭を抱えたことか。
「最初から迷いがあったんだ。それに九条には俺じゃない」
「え?」
佐藤にどうしても伝えたいことがあった。どうか、届くように。俺はまっすぐに佐藤の目を捉える。
「お前はさ、いいやつだよ」
俺が言っても信じないだろうけどさ。
「佐藤が九条に相応しいかどうかは知らない。決めるのは俺じゃないし。ただ佐藤は少なくとも俺にとってはいいやつなんだ」
「……いきなりなんですか」
「もっと自分の声を聞いてあげてほしい」
——「ダメなことだって思うんですか?」
——「むしろその人を好きになったことを誇らしく思うんですよねー」
そのままの自分を好きになれなんて言葉は気休めでしかないと思っていた。それができれば苦労しない。そんな表面上の言葉は信用できなかったけど、佐藤の姿を見て初めて信じてみようと思った。なににも縛られない、佐藤の気高い美学は手を伸ばしたくなるほど神聖だった。龍一との関係もそうだ。新しい風だ。別れたら他人よりも遠い関係になるのが普通だったのに、佐藤はそれを新しい形で繋いでくれた。好きだった、叶った、叶わなかった、終わった。どんな結末でも前に進んでいける方法があるのだと知った。
——「堂々としてる先輩より、今みたいに悩んだり困ったりわたわたしてる先輩の方が僕は好きだな」
俺が佐藤に救われた日。俺はずっと考えていた。
風は裾から入り込んでこもった空気を一掃する。佐藤の方を見るとなにを思っているのか、黙り込んで必死に言葉を紡ごうとしているように見えた。
君は気づいていないだけなんだよ。
「理由は自分で考えろ」
「……はい?」
「俺はそろそろ受験シーズンに入る。生徒会も引退するし、昼休みも勉強会があるから今までのように一緒にはいられなくなる」
そうですよね、と佐藤は顔を逸らしてつぶやいた。
「……わかりました。じゃあもうこれで僕たちは、」
「受験が終わったら話そう」
「え?」
「もう関わらないとか言うのやめてくれよ」
「いいんですか?僕と関わるとこうやって先輩に迷惑かけることになる」
佐藤は自虐混じりに言った。
「迷惑かけられるのには慣れてんの。佐藤に龍一、それから……」
「そうですね……ははっ」
やっと笑ってくれた。
「絶対連絡する……結構先になっちゃうけどな」
俺はそう佐藤に別れを告げ、一人公園を出て行った。佐藤は立ったまま、軽く手を振る。星がいつもより綺麗だった。
佐藤、君には傷ついてほしくない。絶対幸せになってくれ。
日没から三十分ほど過ぎた空は藍色に染まって、太陽とはまた違う美しさがあった。昼はどこに身を潜めていたのか鈴虫が澄んだ鳴き声を上げ夜を謳歌する。目の前の佐藤の肩の動きから呼吸のリズムが見て取れた。佐藤とは対照的に俺は案外心穏やかにゆっくりと息を吐く。
「九条のこと、気になり始めてた。けど、」
ずっと引っかかっていた。罪悪感で何度頭を抱えたことか。
「最初から迷いがあったんだ。それに九条には俺じゃない」
「え?」
佐藤にどうしても伝えたいことがあった。どうか、届くように。俺はまっすぐに佐藤の目を捉える。
「お前はさ、いいやつだよ」
俺が言っても信じないだろうけどさ。
「佐藤が九条に相応しいかどうかは知らない。決めるのは俺じゃないし。ただ佐藤は少なくとも俺にとってはいいやつなんだ」
「……いきなりなんですか」
「もっと自分の声を聞いてあげてほしい」
——「ダメなことだって思うんですか?」
——「むしろその人を好きになったことを誇らしく思うんですよねー」
そのままの自分を好きになれなんて言葉は気休めでしかないと思っていた。それができれば苦労しない。そんな表面上の言葉は信用できなかったけど、佐藤の姿を見て初めて信じてみようと思った。なににも縛られない、佐藤の気高い美学は手を伸ばしたくなるほど神聖だった。龍一との関係もそうだ。新しい風だ。別れたら他人よりも遠い関係になるのが普通だったのに、佐藤はそれを新しい形で繋いでくれた。好きだった、叶った、叶わなかった、終わった。どんな結末でも前に進んでいける方法があるのだと知った。
——「堂々としてる先輩より、今みたいに悩んだり困ったりわたわたしてる先輩の方が僕は好きだな」
俺が佐藤に救われた日。俺はずっと考えていた。
風は裾から入り込んでこもった空気を一掃する。佐藤の方を見るとなにを思っているのか、黙り込んで必死に言葉を紡ごうとしているように見えた。
君は気づいていないだけなんだよ。
「理由は自分で考えろ」
「……はい?」
「俺はそろそろ受験シーズンに入る。生徒会も引退するし、昼休みも勉強会があるから今までのように一緒にはいられなくなる」
そうですよね、と佐藤は顔を逸らしてつぶやいた。
「……わかりました。じゃあもうこれで僕たちは、」
「受験が終わったら話そう」
「え?」
「もう関わらないとか言うのやめてくれよ」
「いいんですか?僕と関わるとこうやって先輩に迷惑かけることになる」
佐藤は自虐混じりに言った。
「迷惑かけられるのには慣れてんの。佐藤に龍一、それから……」
「そうですね……ははっ」
やっと笑ってくれた。
「絶対連絡する……結構先になっちゃうけどな」
俺はそう佐藤に別れを告げ、一人公園を出て行った。佐藤は立ったまま、軽く手を振る。星がいつもより綺麗だった。
佐藤、君には傷ついてほしくない。絶対幸せになってくれ。

