絶対幸せにならないで!

佐藤空という男。第一印象は暗くて話しづらいやつ、だった。常に無表情、ボソボソとした話し方に覇気のない目と寝癖の残る髪。なににも興味や意思がなさそうで、生徒会の手伝いもきっと先生に押し付けられたんだろうと安易に予想できた。まさかそんなやつがあれほど大きくて重い感情を持っているとは。初めて九条のことを聞いた時、俺は驚いた。
あれは恋なのか。恋なのだけれど、もっと違う祈りのようなものなのかもしれない。

——「あんたが付き合ってよ、虹くんと」

もちろん、断ろうと思った。普通に考えて意味がわからない。好きな人をなぜ押し付けるんだと、もしかしてこいつはサイコパスなのではないかと疑ったほどだ。でも佐藤の話を聞いて、不思議とその気持ちは薄れていった。本当に悪意のないまっすぐな愛で、想いだったから。こいつは本気で九条の幸せを願っている。その強くて純粋な目に間違っているなんてとても言えなかった。あろうことか俺は、こいつの想いを叶えてあげたいとすら思い始めてしまった。

——「俺は九条と付き合う。だから協力してくれ」

そうやって違和感に目をつぶって嘘をついた。あの時佐藤は目を大きく見開いていて言葉を詰まらせていたっけ。その顔を見た瞬間、俺もまた仮面を被る覚悟を決めた。
初夏だった。芝生の緑が濃く見えた気がする。中庭で初めて九条を見た時、俺は思わず首を傾げてしまった。佐藤にどれだけ良さをプレゼンされても、少し話しても印象はずっと変わらず、ただの明るい少年。なにがそこまで佐藤を惹きつけるのかよくわからなかったというのが本心だ。でも関わっていくうちに、なるほど佐藤の気持ちがわかった。彼はなんというか、不思議な魅力がある。一緒にいるとなにかがいちいち心を打ってくるような……そんな魅力が。きっと先輩もすぐに虹くんを好きになりますよ、いつか佐藤が言った言葉が悔しくもその通りになってしまった。九条と付き合ってほしい佐藤、九条を好きになってしまった俺。丸く収まるはずだったのに、無数に連なる歯車の一つが欠けるだけでたちまち全てが狂い始める。少しの違和感が形になって現れた。
本当にこれでいいのだろうか。
九条を見つめる彼の目は完全に恋だった。俺はどうしても佐藤の気持ちには勝てない、完敗だ。もう見て見ぬふりはできないと思った。俺の中でいつしか、佐藤もかけがえのない大切な人になっていたから。