絶対幸せにならないで!

「なんですか話って?てか虹くんは?」
「途中まで送ってった。それより、」

近くにあった知らない公園のベンチに座った僕と晴先輩はやけにしんみりとしていた。生ぬるい風が身体にまとわりつく感じが嫌だ。

「嘘なんだろ?」
「なにが」
「ジェットコースターが苦手だって」
「……」

薄暗い空は僕の心を隠してはくれないらしい。

「なんで?」
「九条が空中散歩に行くって言った時、普通にいいなって言ってただろ。そのあと誤魔化してたのも気になった。乗ってる時だってまったく目つぶらないし、余裕で下見てたし」

晴先輩はさらに畳みかける。

「それに佐藤は一人っ子だったろ?もし苦手なら家族でジェットコースターが売りのハヤブサパークに何回も行ったりしないだろ」
「ははっ、鋭いですね」

探偵ですか、と僕は立ち上がった。遠くで車が通るたび、ビュンという音と共に排気ガス混じりの風が運ばれて公園内に生えている草を揺らした。鼻を鳴らす。

「僕はジェットコースター乗れますよ、なんなら好きな方ですし」
「じゃあなんで、」
「わからないんですか?」
「え?」

困ったような顔を僕は睨みつけた。

「僕が邪魔だから!虹くんと晴先輩の関係に僕が邪魔だからですよ!」

後ろは振り向けない。思わず声が大きくなる。

「なのになんですか?この体たらくは!先に帰っててくださいって言ったじゃないですか!先輩ときたら、僕がせっかく作ったチャンスを無駄にして!僕たちは3人で仲良く友達をやるために来てるんじゃない!」

僕がいたら友達以上の距離にはなれない。いつかはその輪から僕だけが外れなければならないとわかっていた。

「……お前はそれでいいのかよ」

沈黙の後、晴先輩はそうつぶやいた。

「は?」
「お前は九条が好きなんじゃないのかよ!」

晴先輩の目は怒りとも悲しみとも取れる熱で満たされている。

「ほんとのこと言うと、俺は少し九条が気になり始めてる。だけど、だけど……」

好きって気持ちはなんでこんなに難しいの。

「お前は絶対、俺よりも九条のことが好きだ!それはお前だってわかってるだろう!」

眉間に皺が寄る。苛立ちがすぐそこまで迫っていた。

「……だからなんなんですか」
「は?」
「僕は提案をした。虹くんと付き合ってほしいと。先輩はその提案に乗った。それだけですよね?」

晴先輩は納得いかないような顔のままだ。

「わかってますよ。僕は虹くんが好きです、誰よりも。わかってて、その上で提案したんです!」
「だからそれがなんでかって聞いてんだよ!好きだったら付き合いだろ普通は!」
「違います」

僕ははっきりと言った。

「好きだから、幸せになってほしいんです」

晴先輩は何かを言いかけたが言葉を詰まらせた。

「その相手が僕じゃなくてもいい。この世界には素敵な人がたくさんいる。虹くんを幸せにできる人がいる。僕はこんなだけど、自分のことが嫌いなわけじゃありません。ただ人から見える僕はきっと、魅力的には映らない。自分のことは自分が一番よくわかってるつもりです。僕が汚点に、障害になってはいけないんだ」

「……九条が幸せになるための道をお前が決めるのか」

ハッとした。先輩は静かに僕の心臓を刺す。薄々感づいていたことだ。虹くんの幸せのために動いてきた。その幸せとはなんなのかもはっきりとわからないまま。

——「あんたが付き合ってよ、虹くんと」

羅針盤はいつしか制御不能になっていた。使い物にならなくなる前からきっとおかしな方向を指していたに違いない。

「ははははっ……」
「佐藤?」
「やっぱり僕、間違ってたのかな」

僕の想いはみんなとはなにかが違う。そんなことに今更気づくなんて。

「間違っては……ない。ただお前は九条のことだけを考えすぎて自分の本当の気持ちを押し殺してる」
「……そうなのかな」
「そうだろ!」
「……」
「俺が聞きたいのは、」

晴先輩は一つ息を飲み込んだ。

「もし普通に出会ってたら、自分を助けてくれた過去とか、立場とか、幸せにできる自信があるとかないとか全部なくして、九条がただの好きな人だった時、本当に同じ選択をするか?俺に付き合ってくれなんて言うか?」

虹くんがただの好きだった人だったら……?

「もっと自分勝手でいいんだ」

晴先輩の言葉はなぜか喉につっかかって息をするたび痛む。

「だから俺も自分勝手だが決めた」
「なに、を……?」

晴先輩は一つ咳払いをした。死刑宣告のような嫌な予感が全身を駆け巡る。

「九条と付き合うって作戦、俺降りるわ」