「俺、彼女できてさ」
彼女、という響きに肩に掛けていた通学バッグが重くなる。
高校2年生が始まって1ヶ月くらい。春と呼ぶには出遅れているし、初夏と呼ぶには少し早すぎる。そんな名前のつけられない微妙な季節。
先約のデートがあるらしい。だからその日はごめん、と虹くんは両手を合わせた。
空はほんのりとオレンジがかっている。吹奏楽部の演奏とサッカー部の掛け声の不協和音が校舎に響く。
「え、彼女?いつから?」
「先週だよ。そっか、空には言ってなかったっけ」
シャイな彼は自分の恋愛事情をやたらめったら話すことはない。
「……で?」
「え?」
「誰なんだよー」僕は虹くんの肩に手を置き、茶化すように顔を覗き込んだ。
「……4組の河内結衣」
「ふーん」
「なんだよ?」彼は口を尖らせた。
「いや別に?」
虹くんの耳が少し赤くなってた。好きなんだろうな。付き合っているなら当然か。
「あ!教室に忘れ物したかも。虹くんさ、先帰っててよ」
「あー、うん。おっけ。じゃあなー」
九条虹。身長はたしか164センチ。ふわふわの黒髪に似合う健康的な小麦色の肌。目は大きく、パッチリしていて、光が入ると水晶玉のようにキラキラ輝く。その顔は中学生と言われても信じられるくらいのいわゆる童顔だ。
無邪気に笑う顔に手を振る。徐々に遠くなる背中を見て、僕は呆然と立ち尽くした。
虹くんはアイドル級のイケメンでも特別色気やオーラがあるわけではない。ただ虹くんを深く知ってしまったら、一度良さを知ってしまったらこの世界の誰もがきっと虹くんを好きになると思う。
いつか、こんな日がくると思ってた。
鼻の奥がツンとした数秒後、視界が滲む。
「虹くん……」
涙が落ちないように上を向く。
なに泣こうとしているんだ僕は。僕がまずやるべきことはその彼女とやらが虹くんに相応しいかどうか、見極めることだろう。
失恋なんかじゃない。虹くんが幸せならこの恋は、この想いは叶ったといえる。だから僕は泣いている暇なんかないんだ。
ひとつ頷いて、堂々と歩き出す。聞き慣れた午後5時半を告げる街のチャイムが鼓膜を揺らした。
彼女、という響きに肩に掛けていた通学バッグが重くなる。
高校2年生が始まって1ヶ月くらい。春と呼ぶには出遅れているし、初夏と呼ぶには少し早すぎる。そんな名前のつけられない微妙な季節。
先約のデートがあるらしい。だからその日はごめん、と虹くんは両手を合わせた。
空はほんのりとオレンジがかっている。吹奏楽部の演奏とサッカー部の掛け声の不協和音が校舎に響く。
「え、彼女?いつから?」
「先週だよ。そっか、空には言ってなかったっけ」
シャイな彼は自分の恋愛事情をやたらめったら話すことはない。
「……で?」
「え?」
「誰なんだよー」僕は虹くんの肩に手を置き、茶化すように顔を覗き込んだ。
「……4組の河内結衣」
「ふーん」
「なんだよ?」彼は口を尖らせた。
「いや別に?」
虹くんの耳が少し赤くなってた。好きなんだろうな。付き合っているなら当然か。
「あ!教室に忘れ物したかも。虹くんさ、先帰っててよ」
「あー、うん。おっけ。じゃあなー」
九条虹。身長はたしか164センチ。ふわふわの黒髪に似合う健康的な小麦色の肌。目は大きく、パッチリしていて、光が入ると水晶玉のようにキラキラ輝く。その顔は中学生と言われても信じられるくらいのいわゆる童顔だ。
無邪気に笑う顔に手を振る。徐々に遠くなる背中を見て、僕は呆然と立ち尽くした。
虹くんはアイドル級のイケメンでも特別色気やオーラがあるわけではない。ただ虹くんを深く知ってしまったら、一度良さを知ってしまったらこの世界の誰もがきっと虹くんを好きになると思う。
いつか、こんな日がくると思ってた。
鼻の奥がツンとした数秒後、視界が滲む。
「虹くん……」
涙が落ちないように上を向く。
なに泣こうとしているんだ僕は。僕がまずやるべきことはその彼女とやらが虹くんに相応しいかどうか、見極めることだろう。
失恋なんかじゃない。虹くんが幸せならこの恋は、この想いは叶ったといえる。だから僕は泣いている暇なんかないんだ。
ひとつ頷いて、堂々と歩き出す。聞き慣れた午後5時半を告げる街のチャイムが鼓膜を揺らした。

