「忙しい時に呼び出して、ごめん」
「別にいいよ、どうしたの?」
開け放たれた窓の向こう、風に運ばれて耳に届いた声は紛れもない爽君と灯のものだった。
揺れるカーテンの隙間から執事服の一端が見えて、僕はその場でしゃがみ込む。
近づけばバレてしまう、そんな絶妙な距離で僕は再び二人の会話を盗み聞きする事になった。
あの日はケンカ別れの現場だったけど……。
今回は、きっと違う。
僕の額からぽたりと冷たい汗が流れた。
「俺達が別れて……いや、俺が一方的にムキになってお前に『別れよう』って言ってから一年が経ったよな」
どこか固い口調の爽君に、彼の緊張が表れている。
ドクン、ドクンと心臓が嫌な跳ね方をして、落ち着かせるようにキュッと胸元で拳を握った。
「あの日から、ずっと後悔してた。だからまた前を向くために――俺自身のために、もう一度……正面から伝えさせてほしい」
その瞬間、遠くでヒューと音が鳴る。
「灯、俺は今でもお前が大好きだ」
爽君の告白。
それと同時に、明るくなる窓の外。
ドンッ――と打ち上がった花火が、カーテン越しの二人のシルエットを鮮やかに照らしていた。
見開かれた僕の両目。
渇いたノドの奥から声にならない吐息が漏れた。
両手で口を押さえて、視線を逸らす。
「――ありがとう、爽」
聞こえてきた灯の優しい声。
その先の言葉を聞きたくなくて、僕は力無くその場をあとにする。
とめどなく溢れてくる涙だけが、空き教室の床に染みて消えていった。



