「ボクも同じ気持ちだけど――その前に、ホワイトデーでしょ?」
その言葉に僕は「えっ?」と目を丸くする。
それを見た灯がからかうような眼差しでニヤリと唇の端をつり上げた。
「今日貰ったチョコのお返し、期待してて」
トクトクと高鳴る胸に、キュッと拳を握る。
モヤモヤとした苦い塊が、甘く溶かされていくような感覚が心を支配していく。
おかしいね、本当に。
灯のたった一言で、こんなにも感情が忙しい。
ホワイトデーのお返しだなんて。
――これも“恋人ごっこ”の延長戦だから、してくれるの?
そうやって今すぐにでも灯に問いたい衝動を懸命に抑える。
だってそれを聞いて……もし、灯から距離を置かれたら?
きっと、その瞬間にこの関係が終わってしまう。
そんな気がして、怖かった。
期待なんかしたらダメだ。
分かってるのに、それでも止められない。
ごっこ遊びでもいいから、いつ終わるかも分からない期間限定の関係でもいいから……一日でも長く灯の“恋人”でいたい。
そんな淡い願いを隠すようにニコッと笑った。
「うん、期待しとく!」
鼻をすすったのは、きっと冬の寒さのせいだ。


