「えっ……ああ、アイツは――」
僕は灯に、改めて元恋心であるアイツの事を話した。
突然に現れて声をかけてきた事も。
体の関係だけを迫られた事も。
チョコを踏みつけられた事も。
「本当、僕って男運ないよね」
へらりと笑って呟く。
自分勝手で非常識で、僕の事なんてお構いなしで……なんであんなの好きだったんだろう。
恋は盲目なんて言うけど、顔だけは良かったアイツに告白された事が嬉しくて舞い上がっていたのかもしれない。
すっかり冷やされた手首から保冷剤とタオルが離れ、灯が持ってきていた救急箱から包帯を取り出した。
それを手慣れた様子で僕の手首に巻きながら、彼がポツリと呟く。
「……ボクならそんな酷い事、しないのに」
「え……?」
「ううん、なんでもない……ねえ千冬。もしもまたアイツが絡んできたら、すぐにボクの所においで」
――そしたら、絶対に守ってあげる。
そう告げた灯の顔がいつになく真剣で、まるで何かを決意したような気迫を感じた。
「うん、ありがとう」
僕ははにかみながら、手当てが終わった手首をさすった。
自分の中の灯の存在がどこまでも大きくなっていく。
それがとても幸せだった。
灯に心配してもらえる事も、こうして彼を想える事も、リビングに二人きりの今の時間も……何もかもが尊くて涙が出そうになるくらい。
ようやく微笑んだ灯と見つめ合い、場に甘い雰囲気が流れる。
しかし。
それを断ち切るかのようにガチャリと廊下側のドアが開いた。


