靴を揃えて脱ぎ、板張りの廊下を歩く。
その先のドアを灯が開けると、そこはリビングと繋がっていた。
「千冬、ここに座って待ってて?」
大きなテレビの前、間にローテーブルを挟んで設置された革張りのソファに案内され、言われた通りにそこへ座る。
それを見届けて部屋を去って行く灯。
その後ろ姿が見えなくなり、僕はソワソワしながら辺りを見渡した。
綺麗に整頓されたシックな空間。
黒い棚の上に置かれていたスティック状のルームフレグランスからシトラスの爽やかな香りが広がり、リビング全体に満ちていた。
母さんの趣味に任せた、甘ったるい花の香りがする僕の家とは大違い。
「お待たせ……って、そんなにキョロキョロしてどうかした?まさか何か変な物でもあった?」
「い、いや……良いお家だなぁーって……!」
「そう?父さんの趣味だから自信なかったけど……それなら良かった。それじゃあ、手当てするね。捻った方の手首を見せてくれる?」
「うん」
手首を見せると、灯は持ってきていた薄手のタオルをぐるりと巻いて、その上から大きめの保冷剤をあてた。
ひんやりとした冷気が熱を帯びた患部を包み込む。
それが気持ちよくて、緊張していた肩の力がフッと抜けていく。
ふと保冷剤を持っていない方の、灯の手のひらが僕の頬に触れた。
何かを迷うように揺らいだ伏し目がちな瞳が、ちらりと僕を見つめる。
「思い出させるのも嫌だけど……さっきのあの男ってさ、千冬とどういう関係?」


