僕らフラれた受け同士


「災難だったね、あんなのに絡まれるとか……本当に大丈夫だった?」


「うん、灯のおかげだよ!ありがとう」


差し出してくれた手を握り、立ち上がりながら笑う僕を見て灯が悔しげに顔を曇らせる。

その視線は赤みを帯びた僕の手首を見つめていた。


「保健室に行こう、千冬……歩ける?」


「うん、平気」


僕の返事を聞いて灯が歩き出す。

気遣うように腰に添えられた灯の手に、不快感は全く湧かない。

むしろアイツのせいで冷め切った心と体が温かく書き換えられていって……安心する。

そのままドアに向かうのかと思ったけど、灯の足は違う方向へ歩みを進めた。

その先には、潰れたチョコの袋。

灯はそれに近寄ると、丁寧に拾い上げてホコリを指先で優しくはたいた。


「千冬、これってボクにくれるはずだったチョコでしょ?」


「えっ……あ……えっと」


どうしよう。

そうだよって言いたいけど、こんなにグチャグチャにされてる物なんか渡せない。

僕が返事に困っていると、灯はおもむろに袋のラッピングを解き始めた。

そして目を丸くする僕の目の前で、形の崩れたチョコをつまんで口に運ぶ。


「……ん、美味しい」


ほころんだ灯の表情に胸がトクンと高鳴る。

それは同時に、今までの努力が報われた瞬間でもあった。

その場で完食されたチョコ。

残された袋を大切そうにスクールバッグにしまって灯が僕に向き直った。


「さ、保健室に行こうか。早く手当てしてもらおう」


繋がれた手のひらをキュッと握りしめながら、目的地までの短い距離を並んで歩く。

そこに他の生徒は誰もいなくて、僕達の廊下を進む音だけが響いていた。