「ちょっと待てって~、千冬ばっかりじゃなくて俺とも話そうぜ?」
そう言いながら馴れ馴れしく灯の手首を掴む元彼の姿に冷や汗が滲む。
立ち上がろうとして床に手をつくけど、痛みで顔を歪ませた。
「……離してくれる?アンタと話してるヒマ、ないんだ」
灯の冷ややかな目が突き刺すようにアイツを睨みつける。
「そんな睨むなって!トモくんだっけー?今からさぁ、千冬と“いい事”して遊ぼうとしてたんだけどよかったらお前も――」
アイツの言葉が途切れたのと同時に、灯の手を掴んでいた手が角度を変えた。
灯がやつの手首をクルリと捻っている。
「痛っ!おい、コラ……っ!離しやがれ!」
「この程度でわめかないでくれる?カッコ悪いよ……というかアンタさ、目障りだからさっさと消えてくれない?」
どこまでも淡々とした灯の口調に、僕の元彼が声を荒げた。
「なんだと!?痛み目見ないと分かんねぇみたいだな!!」
やつが灯に向かって腕を振り上げる。
僕は真っ青になって叫んだ。
「と、灯――!!」
よけて……逃げて!
声にならない震えた叫びが辺りに消える。
振り下ろされた拳が灯の顔面に当たろうとした――その瞬間。
灯が素早く身を翻し、攻撃をかわした。
空を切った拳に重心がブレたのか、やつの体勢が崩れる。
その隙を狙って灯の足が、傾いた軸足を払いのけた。
いとも簡単に、大きく音を立てて倒れ込むアイツを冷えきった目で見下ろしながら、灯が不愉快そうに顔を歪ませた。
「二度も言わせるな……帰れ。二度と千冬とボクの前に現れるな」


