「おっと……」
その瞬間、やつがよろめく。
手にしていたチョコの袋が床に落ちた。
その上に体勢を崩した元彼の右足が迫る。
「あっ――!」
慌てて手を伸ばす。
だけど拾い上げる事は間に合わずに、無慈悲な音を立ててチョコはそのラッピングごと潰された。
ぐにゃりと曲がったカゴと、ぺちゃんこになったチョコが視界に入る。
そ……そんな……!
数週間にも及ぶ努力の結晶は、なんとも哀れな姿に変わってしまった。
「お前……!な、に……するんだよっ……!」
悲しさと悔しさの混ざるそれは、怒声となって目の前の元彼に降り注ぐ。
「は?お前がいきなり抵抗するからだろ……たかがチョコ1個で面倒くせぇな」
悪びれる素振りすら見せないソイツの足は、まだチョコの上に置かれている。
まるで僕の事を踏みにじられているみたいな感覚に、鼻の奥がツンとする。
ぼやけて滲み出す視界に、自分が泣きそうになっていると気づく。
元彼は心底呆れた様子で頭を掻いたあと、足元の潰れたチョコを指差して言った。
「つーかさぁ、コレ渡そうとしてたやつも来てねぇみたいだし。ドタキャンされたんだろ?ならちょうどよかったじゃん、捨てる手間が省けて」
どこまでも耳障りな声、態度、言葉。
今すぐにこの場から逃げ出したい感情に襲われた……まさにその時だった。
開けっ放しだったスライドドアの入り口から、待ち遠しかった声が聞こえたのは。
「千冬……?」


