「な……なに!?」
唇が近づいてくるのを見て顔を逸らす。
「あれー?もう俺とはキスもしてくれないんだ?」
「お前、彼女できたんだろ!なんのつもりだよ!」
「彼女?ああ……アイツ可愛いんだけど意外とガード高くてさー、困ってるんだよな~……」
元彼の下卑た視線が僕を捉えた。
無遠慮に伸ばされた手が僕の腰元をねちっこく撫でる。
「――っ!」
一瞬で血の気が引いていく。
全身に鳥肌が立ち、その手の動きから逃げるように体をくねらせた。
耳元でやつの熱っぽい声が囁きかける。
「なぁ千冬ぅ……俺達ってそういう相性は良かっただろ?もう一度してみない?アイツがさせてくれるまででいいからさー」
「ふざけんなっ……!離せよ!」
距離を詰める元彼の体を押しのけながら思いきり体を反らした。
その時、やつの指先が僕のズボンのポケットに触れる。
「ん?なんだコレ――って……へぇ~?」
勝手に人のポケットを探った指先が、何かをつまみ上げた。
それを見て僕は声を引きつらせる。
「そ……れ、は……!」
あの日、灯とカラオケに向かう前にポケットにねじ込んだアルミ箔の小袋がそこにあった。
目の前で嫌な笑みを浮かべる元彼に、じわりと汗を滲ませる。
「こんなモノ持ち歩いてるって事はさ、お前も欲求不満って事じゃん?ちょうどいいからさぁ、俺が相手してやるって……な、いいだろ?」
なんて気味の悪い勘違いをしてくれてるんだコイツ!
お前の忘れ物を拾っただけだっつーの!
僕の服の中へ忍び込もうとする骨張った手を払いのける。
そのままの勢いで、元彼の体を力の限り押しのけた。


