「見えたじゃん、幸運の猫のお腹」
灯がニコリと笑って指を指した幸運の証。
それを見て、ある考えが頭をよぎった。
「…千冬?どうかしたの?」
灯が僕の顔を覗き込む。
視線が重なるなり、おもむろに口を開いた。
「僕と…“恋人ごっこ”してみない?」
目を丸くする灯。
ゴロゴロとノドをならす猫。
上空でカラスが「カァ」と間抜けに鳴いた。
夕日に照らされた灯の顔は、暑いのだろうか僅かに赤い。
「は?今…なんて?」
「だから、恋人ごっこをしよう。僕と一緒に」
「ちょっと待った千冬、何でそうなったの?」
灯がその場で立ち上がる。
それに驚いた幸運の猫が、再びブロック塀に上がって逃げていってしまった。
僕はその背中を見ながら頷く。
ありがとう、お前のおかげで良い案が浮かんだ。
「ねえってば、千冬…聞こえてる?」
「聞こえてるよ。いっておくけど僕、大真面目だからな」
「はあ…?」
ポカンと口を開けた灯の手を引っ張り、先を急ぐ。
交差点を渡った先に、目的地が見えてきた。
カラオケボックス“歌の広場”…ここは近くの学生達の行きつけの遊び場の一つ。
僕も友人とよく歌って遊んでいたけれど、灯はどうだろう。
とにもかくにも、期間限定の恋人ごっこで灯に自信をつけさせてみせる…!
フラれた者同士、この恋人ごっこで悪い所を見直して次の出会いに繋げようじゃないか。
僕は自分に課した突飛な使命に胸を熱くしていた。

