幸運の猫は僕を見て警戒したように距離を取る。
「驚かせちゃったよな、ごめんな~」
慌てて手を伸ばし、その頭を触ろうとした。
だけど時すでに遅し。
猫は遠回りして僕を避け、灯の近くに行ってしまった。
「あぁ~…猫ぉ…!」
項垂れる僕の姿を見て、灯がぷっと吹き出す。
「落ち込みすぎだよ、猫にフラれただけだろ?」
「今日だけで二回もフラれたからショック受けてんだよ!」
「まあまあ…ほら、こうやるんだよ」
そう言って灯が静かにその場にしゃがみ込む。
すると視線が低くなった事で警戒が緩んだのか、猫が近づいてきた。
そのピンク色の鼻に向けて、灯がゆっくりと人差し指を伸ばす。
猫は穏やかな顔で鼻を近づけ、そして。
その匂いを嗅ぎ、指にすり寄った。
「よしよし…いいこだな、お前」
気づけば、猫は灯に首筋を撫でられてゴロゴロとご機嫌にノドを鳴らしていた。
その慣れたような手つきと接し方に、僕は目を輝かせる。
「スゴ…え、もしかして家で猫とか飼ってる?」
「ううん、父さんが猫ダメだからボクは飼ってないよ」
「そうなんだ…でも__」
その触り方は、明らかに慣れた人間のそれだった。
僕の言いかけた言葉を察してくれたのか、灯が呟く。
「爽の…元恋人の家に猫がいたから、こうして触るのに慣れてるんだ」
元恋人。
そう言った瞬間、灯の目が伏せられたのを僕は見逃さなかった。

