残り香の湯、雨のジンガ

 夏の湿った夜風が、カーテンを頼りなく揺らしている。


 高校二年生になった私の体は、あの頃とは比べものにならないほど、瑞々しく、そして重く熟れていた。


 昼間、縁側でお姉ちゃんが漏らした言葉が、耳の奥で何度もリピートされる。


『……本当に大きかったわ。あんな猛々しい生命の塊、もう二度と抱くことはないんだろうな』
 
 お姉ちゃんはもう、それを「終わったこと」として懐かしんでいる。けれど、私は違う。


 私は今でも毎日、庭でジンガを刻んでいる。ステップを踏むたびに、太腿の筋肉が擦れ合い、あの雨の日の風呂場で見せつけられた、ダニエウの圧倒的な「雄」の記憶が全身を駆け巡るのだ。


 私はベッドの上で、Tシャツを捲り上げた。


 カポエイラで引き締まった腹筋のすぐ上、中学生の時よりもずっと豊かに、重くなった胸。その先端が、夜の冷気に触れてキュッと硬くなる。


(……ねえ、ダニエウ。私はもう、お姉ちゃんを追い越したかな)


 私は目を閉じ、震える指先を脚の付け根へと滑り込ませた。
 脳裏に浮かぶのは、あの風呂場の蒸気。水滴の滴る褐色の肌。そして、私の細い腕よりも太く、猛々しく反り立っていたあの熱。
 

 指を動かすリズムは、自然とジンガのテンポになる。

 一、二、三。一、二、三。

 腰を浮かせるたびに、あの日、私の唇が触れたあの硬い感触が、今まさにそこにあるかのような錯覚に陥る。


「……っ、ん……あ、ダニエウ……」


 お姉ちゃんは、これを受け止めていたんだ。
 あの細い体で、あの巨大な生命を、何度も、何度も。


 そう思うと、お姉ちゃんへの嫉妬と、それを超えるほどの激しい渇望が溢れ出し、下腹部が熱く、せり上がるように疼いた。


 お姉ちゃんは彼と別れてしまった。
 なら、今はもう、誰にも遠慮はいらないはずだ。

 
 一回だけでいい。一回だけでいいから、あの時、私の唇を震わせたあの大きさを、今度はこの奥底で受け止めてみたい。


 私のこの、鍛え上げられたしなやかな体で、あなたのすべてを絞り尽くしてみたい。


(お姉ちゃんが知らないあなたの熱を……私なら、もっと、もっと……)


 激しくなる呼吸。
 指先が、あの日彼から教わった最も激しい蹴りのように、私の中の「蕾」を突き破ろうと暴れる。


 脳裏でダニエウの低い声が響く。「ワカハ、筋がいいよ」——。


 その幻聴に導かれるように、私は体を弓なりに反らせ、シィカお姉ちゃんがかつて障子の向こうで漏らしたような、甘く、壊れた声を夜の闇に放った。


 やがて訪れる静寂の中で、私は自分の体温に包まれながら、荒い息を整える。


 指先に残る熱。それは、お姉ちゃんから譲り受けた万年筆のインクよりも濃く、私の人生に刻まれている。


 お姉ちゃんは知らない。
 私が今でもカポエイラを続けている本当の理由。


 それは、いつかダニエウが現れた時、世界で一番激しいリズムで、彼という巨大な熱を抱きしめるためなのだ。



吾(あ)が肉(しし)に 刻みしリズム 指に写(うつ) 君が太根(おね)をば 夢寐(むび)に抱きつつ



 ワカハは、独り、消えない熱を噛みしめるように、再びゆっくりと、心の中でジンガを刻み始めた。