✻ ✻ ✻
警察に直でタレこむと、橘がつながる情報筋に迷惑だ。そこがつぶれては今後こちらも困る。なので偶然をよそおって摘発してもらおう。そんな計画。
「とかいって、うまくいくかしらね……」
斎は夕暮れて暗くなりかけた繁華街をひとり歩いていた。いつものナチュラル系とは違い少しおしゃれをしている。気軽な合コンぐらいの雰囲気で、髪もゆるくアップにした。
このイメチェンで、女性に興味がなく不愛想な橘なら斎に気づかないのではなかろうか。
今日はこれから橘が動く。らしい。
はっきり教えてくれない橘は、斎の忠犬失格だ。
しかもどうやら実行日を斎の店が休みじゃないところに設定したようなのが腹立たしい。だからその裏をかいてやる。
「私には臨時休業って手があるのよ……!」
斎は不敵に微笑んだ。どうせひとりで気ままにやっている店だし、なんの問題もないのだ。
橘は最終的には斎に逆らわない。世間話の中で誘導し聞き出せば、橘の行動を探り出すことは可能だ。
つまり、
「ねえねえ、いつ連中を追いつめるの?」
「ううんミュウちゃんがかわいそうなだけ。いつまで我慢しなよ、とか言ってあげられたらなって」
「そうだ橘、暇があったら付き合ってほしい店があるんだけど」
「忙しいの? んー、なら待ってる。いつ空く? ああいいの、そこには橘と行きたいんだもん」
など、ご褒美をチラつかせて予定を聞き出す。斎とのお出掛けがエサになると思っている時点で斎も相当傲慢だが。
しかしそんな橘への理解は正しかったのだ。
斎が考えた通り、さりげなく通りの端にたたずむ橘を発見した。雑踏の中に居酒屋の前で人待ち顔をしてスマホをながめるフリをしている。
橘は売人の方を押さえるつもりなのだと斎にはわかった。バイトが手にするクスリだけでは意味がない。人間を捕まえて突き出さなくては。
でも本当に危ないことは自分でどうにかするのが橘だ。橘ならば、相手を物陰に引きずり込んで気絶させておき警察に拾わせるぐらいしかねなかった。
「……そうはさせないんだから」
橘が斎を守りたいと思っているのと同じぐらい、斎だって橘を危険にさらしたくない。橘に何か起こるとすれば、それは斎を守った時だけでなくては。
斎は街路樹に隠れ、橘の死角をキープした。
心結の店に通っていた男の顔は把握している。そいつに近づく普通の大学生っぽい男がバイトだろう。
「てなわけで、突撃」
ニッコリと斎は動き出した。橘の立ち位置を避けて一本裏通りから回り込む。
おしゃれした女がダッシュするとか何事だと思われただろう。でも表に出るところで息をととのえ普通の歩調へ戻す。
見ればちょうどバイトが男から離れていくところだった。すぐ橘が動く。しかしその視線が売人を挟んで反対から近づく斎の上に止まり――目を見開かれた。
(え。まさか私を判別したの? この距離で? 雰囲気変えたのに!)
焦る斎は小走りになった。ごく普通によそ見していたせいで男に突き当たる。だがこれは予定通り。
「ああん? 気をつけろや!」
いきなりぶつかられて男は怒鳴った。当然の反応。しかし斎は大きな悲鳴をあげる。
「きゃあぁぁっ!」
グッと足を踏ん張る姿勢で体をよじる。
何もしていないのに叫ばれて被害者ぶられ、男は反射的に手を出した。いつものクセってものだ。
「なんだおまえ!」
「やめてっ!」
いや、相手は何もしていない。
しかし斎はカバンを抱えて守るようなフリで泣き声をあげてみせる。苛立った男が本気でつかみかかった。
――今だ。
「ぐおっ」
バシィッ!
電流が流れて男の動きが止まった。崩れ落ちる。痛み――というより筋肉をうまく動かせず力が入らないのだ。
その前で驚きに目を見開いている、という風情で立ちすくむ斎の手にはスタンガン。
「どうしましたか!」
他人のような口ぶりで駆けつけたのは、もちろん橘だ。
テキパキと男を制圧しながら斎に向けたその視線の奥底には怒りが秘められている。
「こりゃ後が面倒かも」と斎は愛想笑いした。
警察に直でタレこむと、橘がつながる情報筋に迷惑だ。そこがつぶれては今後こちらも困る。なので偶然をよそおって摘発してもらおう。そんな計画。
「とかいって、うまくいくかしらね……」
斎は夕暮れて暗くなりかけた繁華街をひとり歩いていた。いつものナチュラル系とは違い少しおしゃれをしている。気軽な合コンぐらいの雰囲気で、髪もゆるくアップにした。
このイメチェンで、女性に興味がなく不愛想な橘なら斎に気づかないのではなかろうか。
今日はこれから橘が動く。らしい。
はっきり教えてくれない橘は、斎の忠犬失格だ。
しかもどうやら実行日を斎の店が休みじゃないところに設定したようなのが腹立たしい。だからその裏をかいてやる。
「私には臨時休業って手があるのよ……!」
斎は不敵に微笑んだ。どうせひとりで気ままにやっている店だし、なんの問題もないのだ。
橘は最終的には斎に逆らわない。世間話の中で誘導し聞き出せば、橘の行動を探り出すことは可能だ。
つまり、
「ねえねえ、いつ連中を追いつめるの?」
「ううんミュウちゃんがかわいそうなだけ。いつまで我慢しなよ、とか言ってあげられたらなって」
「そうだ橘、暇があったら付き合ってほしい店があるんだけど」
「忙しいの? んー、なら待ってる。いつ空く? ああいいの、そこには橘と行きたいんだもん」
など、ご褒美をチラつかせて予定を聞き出す。斎とのお出掛けがエサになると思っている時点で斎も相当傲慢だが。
しかしそんな橘への理解は正しかったのだ。
斎が考えた通り、さりげなく通りの端にたたずむ橘を発見した。雑踏の中に居酒屋の前で人待ち顔をしてスマホをながめるフリをしている。
橘は売人の方を押さえるつもりなのだと斎にはわかった。バイトが手にするクスリだけでは意味がない。人間を捕まえて突き出さなくては。
でも本当に危ないことは自分でどうにかするのが橘だ。橘ならば、相手を物陰に引きずり込んで気絶させておき警察に拾わせるぐらいしかねなかった。
「……そうはさせないんだから」
橘が斎を守りたいと思っているのと同じぐらい、斎だって橘を危険にさらしたくない。橘に何か起こるとすれば、それは斎を守った時だけでなくては。
斎は街路樹に隠れ、橘の死角をキープした。
心結の店に通っていた男の顔は把握している。そいつに近づく普通の大学生っぽい男がバイトだろう。
「てなわけで、突撃」
ニッコリと斎は動き出した。橘の立ち位置を避けて一本裏通りから回り込む。
おしゃれした女がダッシュするとか何事だと思われただろう。でも表に出るところで息をととのえ普通の歩調へ戻す。
見ればちょうどバイトが男から離れていくところだった。すぐ橘が動く。しかしその視線が売人を挟んで反対から近づく斎の上に止まり――目を見開かれた。
(え。まさか私を判別したの? この距離で? 雰囲気変えたのに!)
焦る斎は小走りになった。ごく普通によそ見していたせいで男に突き当たる。だがこれは予定通り。
「ああん? 気をつけろや!」
いきなりぶつかられて男は怒鳴った。当然の反応。しかし斎は大きな悲鳴をあげる。
「きゃあぁぁっ!」
グッと足を踏ん張る姿勢で体をよじる。
何もしていないのに叫ばれて被害者ぶられ、男は反射的に手を出した。いつものクセってものだ。
「なんだおまえ!」
「やめてっ!」
いや、相手は何もしていない。
しかし斎はカバンを抱えて守るようなフリで泣き声をあげてみせる。苛立った男が本気でつかみかかった。
――今だ。
「ぐおっ」
バシィッ!
電流が流れて男の動きが止まった。崩れ落ちる。痛み――というより筋肉をうまく動かせず力が入らないのだ。
その前で驚きに目を見開いている、という風情で立ちすくむ斎の手にはスタンガン。
「どうしましたか!」
他人のような口ぶりで駆けつけたのは、もちろん橘だ。
テキパキと男を制圧しながら斎に向けたその視線の奥底には怒りが秘められている。
「こりゃ後が面倒かも」と斎は愛想笑いした。



