世界を望みはしないけど

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「ヤカラな客の調べ、つきました」

 数日して雑貨店閉店間際のところへ現れた橘は、いつものように表情を変えないまま告げた。斎が片眉を上げる。

「早いじゃない。さすがね」
「ありがとうございます。もっと言ってください」
「ウンウン、スゴイスゴイー」

 雑に褒めたのだが、橘はそれでもほんのり微笑んだ。勝手に入り口を閉めながら話を続ける。

「アズサを指名している男は末端ですが構成員ですね。連れ歩いてる連中はそこらのチンピラでした」
「なあに、取り巻きはイキってるけど一般人なの」
「そいつらもクスリを流したりはしてますよ」
「あら。白い粉?」
「錠剤です。グレーなのと区別がつきにくいやつを若者に売る」

 「違法性はなく安心」「ちょっと気分がアガる」程度のうたい文句で安く売りつけ、顧客になれば次第に値を吊り上げる手口だ。最初は知らずに手を出したのにクスリが切れるとダウナーになるため抜けられなくなる沼。

「そんなのの売買に関わっているのでチンピラの方も罪に問えます。むしろ服役中も出所後も組織からのサポートがない、いちばん不遇な立場ですよ」
「哀れだねぇ……」

 と言う斎の顔は、いっさい憐れんでいない。むしろ叩きつぶしてやろうと思っている目だ。橘はいちおう口添えした。

「お嬢は手出し無用です。公権力に任せてください」
「それじゃおもしろくないでしょ」
「あまり好戦的なのはよろしくない態度かと。お嬢はただの雑貨店店主ですよ」

 たしなめられて斎は肩をすくめた。この商売は会社員だと融通がきかなくなるので始めた隠れ蓑なのに。でも橘が言うのは、斎を心配しているからだと伝わっている。

「無茶はしないってば」
「しかし相手が組織ですから。今回はおとなしくしてください」
「……じゃあ誰がどうするのよ」
「バイトを雇おうかと」

 サラリと言われて斎は目を細めた。

「……どゆこと?」
「クスリを売りさばいている場所と時間はおおむね把握しています。そこにバイトを差し向け購入させて、現物を押さえます」
「いや、そんなのわかってるなら警察が動けばいいじゃない」

 斎の疑問を橘は無表情にしりぞける。

「いえ、警察じゃない筋からの情報なので」
「あんたね……」
「なので私とのつながりが見えないバイトを使います。TSUKASA には迷惑をかけませんのでご安心を」
「そういうことじゃなくってさ」
「あ、バイトは普通っぽい男子を選びますので」
「……なんで男子?」
「女性を危険にさらすと、お嬢が怒りますし。私はお嬢さえ安全ならそれでいいのですがね……」

 あくまで斎しか見ていない橘なのだった。