言葉より雄弁な僕らの恋愛事情。

ピピ――――ッ!!
「ゴール!! 城南高校エース、2年鷹白隼斗! 決めました、決勝ゴール! 城南高校優勝! インターハイ出場決定です!」
「すごい! やったぁー!」

実況の放送に負けない歓声が場内に響いて、僕も拳を上げて勝利を喜んだ。

(すごい、すごい! さすが鷹白くんだ。かっこいい! なんてかっこいいんだろう!)

さきほどの決勝ゴール。味方からのパスを正確に受け取ると、あっという間にボールを敵陣に蹴り込んで守備を攪乱していた。そして相手の隙を突いての華麗なミドルシュート。
僕はシャッターを押す指が止まらなかった。
どの一瞬も撮り落とせないほど素晴らしくて、全ての瞬間を焼き付けなければという使命感にも似た興奮で、僕はカメラを構え続け、彼を写真におさめた。
今日の試合だけで何百枚撮ったか分からないけど、全く悔いはない。
仲間たちと健闘を称え合う彼をファインダー越しに見つめる。
高身長に相応しいすらりと伸びた手足、汗を纏ってキラキラと輝く黒髪、普段は切れ長の目は今は嬉しそうに笑んでいる。
僕は思わずまたシャッターを切ってしまった。
鷹白くんは眩しいほどの笑顔の爽やかイケメンっぷりで周囲にきらきらを振りまき、周りも今日の功労者を称えながら勝利を喜びあっている。
それからスタンドにいる応援団の方に選手たちが視線を向ける。
そのとき、――バチッ。

「っ!?」

僕は勢いよくファインダーから顔を離した。

(え、今、めっ、目が合った……?)

いや、いやいやそんなわけない。この距離だし、それに鷹白くんは僕のことなんか知らないはずだ。
同じ高校、同じ学年だけどクラスが一緒になったこともない。どこにでもいるような平凡、モブAみたいな僕のことなんて、知るはずない。
鷹白隼斗くんは入学当初から有名だった。容姿が抜群によくて、サッカー特待生で、勉強は中の上くらいだけど、明るくてムードメーカーで、まさに1軍キラキラエース。彼の周りはいつも人で溢れてる。
方や僕、黒川由稀は高くも低くもない身長、イケメンじゃないけどブサイクでもない顔、太ってもないし瘦せすぎでもない、中肉中背。運動はまあまあ、勉強はそこそこ、性格は温厚と数少ない友人に言われるけど、要は面倒ごとを避けたいだけのほぼ陰キャ、平々凡々。
教室の隅にいたっけなくらいの存在感の僕と、教室でも部活でもなんなら学校の中心人物といっても過言ではないくらいの鷹白くん。
接点なんてないし、僕が一方的に憧れて遠くから見ているだけ。
もう一度、鷹白くんを見てみると、もうこちらを見てはいなくて、ピッチから移動するところだった。
優勝チームを、そして勝利の立役者であるエースストライカーを讃える歓声を浴びながら、彼は爽やかにグランドを去って行った。

***

決勝戦も終わったことだし、僕も帰ろう。帰ってさっそく撮った写真を確認しなくては。
愛用の一眼レフをカメラバッグにしまい、立ち上がる。
周りは友人、知人と先ほどの試合について熱く語らっているが、僕はひとりでその喧騒から離れて行った。

(同じ学校の人、いっぱいいるはずなんだけど、まあ僕、友達いないしね……)

高校生活も1年と半年近く過ぎてるというのに、僕が友達と呼べる人は片手が余るほど少ない。別に僕だって友好関係を広げたくないわけじゃない。入学当初はそれなりにクラスメートと打ち解けようとしてみた。
でも、駄目だった。何故って、ともかく話が合わないのだ。というか、会話のスピードが合っていないということに気づいた。
みんなが話していることに頷いてはいるが、理解するまでに話題が次へと移っていて変なタイミングで返事をしたり、問いかけに答えようと考えている時間が長くて、無視していると思われたりする、ということが多々あった。
いつまでもそんなふうで、会話も容姿もオール平凡、なんなら鈍くさそうな奴はおよびじゃない。
こうしてライトでフランクな高校生のノリっていうものに、ついて来られないと早々に判定された僕は、クラスでぼっちになってしまったのだった。
地元の中学校から進学した友達はクラスが違うし、部活で親しくなった友達もクラスが違う。2年生になってもそれは変わらずだったので、僕は頑張って友達を増やすのは諦めた。
別にクラスに友達がいなくてもそんなに困らなかったからだ。おひとりさま結構。親しくできる人とだけ、親しくするくらいの交友関係が僕にはちょうどいい。
それに僕には好きなことがある。
写真だ。
これは僕の唯一の特技といってもいいかもしれない。
運動も勉強もそこそこで、取り柄といえるものがあまり思いつかない僕だけど、写真だけは少し自信がある。
去年、コンテストでも良い賞をもらえたし、写真部の活動も好きだし、部員のみんなもいい人ばかりだ。中学生まではただの趣味だったけど、近所に住んでいる幼馴染でもある先輩が部活に誘ってくれて、本当によかった。これがなければ、学校生活はすごく退屈なものになっていただろうし、ああやって鷹白くんを撮ることもきっとなかっただろう。
僕は元々、風景や静止画ばかり撮っていたのだ。人物を撮るのも、ましてやあんなに動きの激しいものを撮るのも鷹白くんが初めてだった。
僕はカメラを取り出し、先ほど撮ったばかりの写真のデータを眺める。

(あぁ~、かっこいい。うん、我ながらよく撮れてるな)

軽やかな走り、ボールを自由自在に動かしているような足捌き、そして華麗なゴールフォーム。
僕は最高にかっこいい鷹白くんの姿を、画面上で満足げに眺めてニヤついていたものだから、周りの様子に全然気が回っていなかった。

「へへ、かっこい……ぅぶっ!」

画面ばかり見ていて何かにぶつかってしまった。鼻が痛い。

「いたた……って、ん? ご、ごめんなさいっ!」

鼻が痛い割には感触が電柱とか固いものとは明らかに違う。なんだろう。
不思議に思って前を見ると、誰か人にぶつかったのだと分かって、慌てて謝った。誰か分からないが、思いきり胸板にダイブしたみたいになってしまっている。

「あ、いえ、こちらこそ。すみません」
「大丈夫、で……す、か……えっ?」

上から声が降ってきて、自分より15センチくらい頭上を見上げたら、開いた口が塞がらなくなった。
そこにいたのは、さっきまでファインダー越しに、いや、画面上で食い入るように見ていた鷹白隼斗くん、その人だった。