ファインダー越しの、

「真崎」
 部活終わりに声をかける。
「お疲れ様。由良」
 へらっと笑う真崎に対して、もう何年も前からの親しみと「俺は真崎のことをよく知らないはず」という両方の感情が沸く。
 今日は決めてきたのだ。
 心臓がドクドクと激しく脈打つ。
「俺を、撮ってくれないか」
 真崎は目を見張る。
「え、撮りたいのは僕で」
「うん。撮らせてあげるから、撮ってほしい」
 何が何やらと混乱していそうな真崎の腕を引っ張り、グラウンドをずんずんと歩かせた。わわっと戸惑いながら引っ張らせてくれる真崎。
「近くで、撮ってほしい」
「でも……」
 まだ少し人が残っていたので真崎は戸惑っている様子だった。こんなときにいいつけを守らなくてもいい。
「いいから」
 ゆるゆるとカメラを構え『俺』に照準を合わせる。
 視線が交錯する。ああ、その『瞳』だ。
 真崎の視線がファインダーを突き破って、俺の心臓を射抜く。
 この間、真崎は何も言わず、ただじっと俺を見つめていた。その視線に心臓がさらに跳ね上がる。
「俺の知らない俺を、撮ってくれ」
 真崎は一瞬動きを止め、艶やかに笑うとシャッターを切り始めた。
 まだ跳ぶ準備をしていないぞと思ったがこれも始まりだ。
 自然を味方につけ、跳躍する。
 足のバネは踊るように、腕は水をかくように。
 何度も何度も繰り返した。
 カラン、とバーの音が幾度も鳴り、足がもつれる。
 助走、踏み切り、跳躍。
 助走、踏み切り、そして跳躍。
「……あれ」
 バーが揺れることなく、体はマットの上に落ちていた。
 気付けば日は暮れ、周囲には真崎しかおらず、真崎もカメラを外しぽかんと口を開けている。
「……はは、まぐれ」
 眉を八の字にして情けなく笑う。
 高揚感も達成感もなかった。
 俺は俺のために跳び、外部から示された目標を達成した。
 渇いた心を自覚した。
 真崎が無言で近づいてくると――いとも簡単に自分の体はぎゅっと抱きしめられた。
「ふふ、なんだよ」
「……うん」
 汗でじっとり濡れている体を離そうとしても真崎は力を緩めなかった。新聞部は文化系の部活動にしては体力が必要なんだろうか。
 諦めて体を預ける。はじめから真崎の体にすっぽりとはまるようにできていたみたいだ。
「……由良」
 ん?と体を起こすと唇をとらえられた。
「……」
 それはお互いにとって自然な行為だった。
「また、由良を撮ってもいい?撮りたい。撮らせてほしい」
「……うん」
 ぼすんと真崎の肩に額を擦り付ける。
 不思議だった。
 こうしていることが、お互いにとって決められていたことのような気がしていた。
 つい最近まで俺は真崎に興味すら抱いていなかったのに。
「……帰ろうか」
 真崎が立ち上がり、微笑を浮かべる。
 はじめに囚われたのは俺か、真崎なのか。
 そんなことはどうでもいい。
 俺は差し伸べられた彼の手を掴み、立ち上がった。