ファインダー越しの、

「なに、どういうこと、それで許しちゃったわけ?」
 昼休み、B組にやってきた中村が紙パックのストローを噛みながら大げさに非難の声をあげる。
 あれからすぐにそれぞれの担任がやってきた。方や陸上部の部長、方や気の弱そうなカメラマン。接点のない組み合わせに首を傾げられたものの、新聞部の記事に協力していたと半ばむりやり誤魔化し、廊下を走るな、という叱責程度で済んだ。日頃の行いのおかげか。
 
 綺麗だと言われたことがむず痒く「いい写真が撮れそうと直感しシャッターを切ってしまったらしい」と中村には説明した。
「でもいつも通りバーに引っかかってたろ?直感は合ってなかったわけだ」
 苦笑で応える。記録を越えてみたいという思いはとうの昔に消えた。日本の記録、世界の記録。高校生男子の記録を上回ることはできないと、自分にそれを乗り越える情熱が無いと気付いたときに感じた感情は、自らへの失望だったろうか。
 それでも跳ぶことを辞めなかった。
 この記録を塗り替えられないことを知っている。
 でも、跳躍の喜びを知っているから。
「アマちゃんの由良ちゃんだねえ。どんな理由であろうと勝手に撮られてあんまいい気しねえけどな。で、その写真、てかデータは?」
「……消してもらったよ」
「ふうん。でもデータだろ?あの場で削除させてたらまだ安心だったけどコピーしてたら意味ないよな。新聞部の『スクープ!陸上部部長のあられもない失敗姿!』に使われたり?」
 新聞部はそんな下世話な部活なんだろうか。
「新聞部用にも使わなせないよう約束をしておいた。……なあ、中村」
 どことなく不満げな顔をしている。
「俺はナルシシストなんだろうか」
 と聞くと中村は目を丸くした。
 あの写真を見たときに感じた高揚感。
 ――跳躍の瞬間の永遠かと思う開放。それを彼はカメラ越しに捉えた。接点のなかった俺と彼だけの共有。
 恥ずかしい想像に自然と頬が熱くなり、下を向いて頬杖をついた。
 中村にしては珍しく、口の中で言葉にもならない声を小さく転がしていた。
 「由良がナルシシストかどうかはわからないけど、お前が好きなタイプは、お前のことを好きなやつだよ」
 横顔から表情が読み取れない。
 なぜ俺の好きなタイプの話をしているのだろう。
 「……中村?」
 思わず名前を呼んでも、中村は目を合わせてくれなかった。