その少女、縁を切る。

 翌日、ティハナはクラバス家の屋敷へと足を運んでいた。アリアナに呼ばれたからだ。
 それ自体にはなんら不満はない。むしろティハナとしても、依頼を完遂させるには必要なことだと思っていた。
 ただひとつ、問題があるとすれば、
「なんでボクがこんな恰好をしないといけないんだ……」
 ぼやきながら、ティハナはスカートの端を指でつまみながら眉根を寄せた。そんな彼女に、アリアナはご満悦の表情を向ける。
「あら、よく似合っていてよ」
 ティハナの服装――それは昨日とは違った。黒いワンピースの上と、控えめなフリルのついた純白のエプロンドレス。そして頭部には同じく白いキャップ。どこからどう見てもメイド服姿だった。
「執事の服装でもよかったんじゃないのか。正直、動きにくいんだが」
「そうはいきませんわ。貴女はわたくしが雇った臨時の使用人ということになっておりますのよ? それが男性となれば変に怪しまれてしまいますわ」
「そりゃごもっともだね」
 かといって、屋敷内を動き回るには昨日までの服装というわけにはいかない。そんなことをすれば不審者として警備している者にすぐさまつまみ出されてしまう。
「それに、先ほどお伝えしたでしょう? わたくしの計画のためにも、貴女にはきちんとメイドに扮していただきませんと」
「……ああ。もちろんわかってるよ」
 ティハナとて遊びでここに来ているわけではない。
「では、まずは部屋の掃除からお願いできるかしら?」
「は?」
 今なんて? 驚きが強すぎてティハナはさすがに思ったことを口に出す。
「ボクはここにメイドとして就職しにきたわけじゃないんだけど」
 今しがた自分で言ったばかりじゃないか。ティハナがメイドの姿でいるのは自信の『計画』のためだと。これじゃあ中身まで召し使いじゃないか。
「言われなくてもわかっていますわ。ですが、その恰好でいる以上、屋敷を徘徊しているだけというわけにもいきませんでしょう? さすがに他の使用人から怪しまれてしまいますわ」
「そんなの、雇用主のお嬢さまが口添えしておいてくれればいいんじゃないか」
「あら。使用人相手にどうしてわたくしがそこまでしないといけないんですの?」
「…………」
「それに、そんなことをして万が一誰かに勘付かれてしまったらどうしますの。わたくしが立てた完璧な『計画』が崩れてしまいますわ」
 何か反論しようとも思ったが、やめた。何であれ依頼人の意向はできるだけ尊重しないといけない。そういう意味ではティハナがこんな服装なのもなんだか笑えてくる。
 ご主人さまと使用人の関係とたいして変わらない、か。
「わかったよ」
 ティハナは息を吐く。これ以上問答を続けていてもしょうがない。本来の仕事の話を進めよう。
「確認だけど、決行は三日後に開かれるパーティ、でよかったんだよな?」
「ええ、そちらは先ほどお話した通り、ステラとの連携をお願いすることになりますから、あの子とも段取りをよく確認しておいてくださいな」
「かしこまりました、お嬢さま。それじゃあ早いところステラを呼んでもらえるか? ふたりで部屋の掃除をするんだろ?」
「何を言ってますの。貴女ひとりですわよ」
「……マジで言ってる?」
 ステラはアリアナお付きのメイドだったはず。なら彼女こそアリアナの身の回りの世話をするのが役目なんじゃないのか。
「大マジですわ。あの子には別のことを命じておりますもの」
「それはわかったけど、さすがにボクひとりでいきなり掃除は」
「では、わたくしは社交ダンスの稽古がありますの。あとは頼みましたわよ」
「あ、おい――」
 いくらなんでもそれは、と言おうとしたが遅かった。アリアナは耳を傾けるさま子など一切なく、部屋を出て行ってしまった。
「……やるしかない、か」