折り紙少女と不思議な力 ~君の手の上で、私の折り紙は動き出す~

 ポチはせっせとあちこちを嗅ぎ回っているけど、イヤリングはなかなか見つからない。
 だんだん日が暮れ始めてきて、私は内心で焦っていた。
「見つからないね……」
 そりゃそうだよ。本物の警察と警察犬ならともかく、私たちはただの中学生と折り紙だもの。
 雪谷くんも見つからないことに苛立ってきているようだった。でも、その方向性は私とは違った。
「おっかしいな。ばあちゃんだったら、もっと簡単に見つけられたと思うんだけどな」
「そんなにすごかったの?」
 雪谷くんは目を見開いた。
「ああ、すごかったよ。鳥はビュンビュン飛び回ってたし、ゴリラは物を持ち上げるくらいの力があった」
「ええ……?」
 さすがにそれは信じられないな。子どもの頃の記憶を美化しているのか、それとも話を盛っているのか。
 でも、それがもし本当なのだとしたら……。
「……私の折り紙だと、いまいちなのかな」
 私はぽつりと言った。
 ポチは動いてくれている。ちゃんと頑張って探してくれている。
 でも、見つからない。
 私と雪谷くんのおばあちゃんは、何が違うんだろう。
「なんだろう、もっと上手に折らないとダメかな……」
「違う」
 雪谷くんは突然大きな声を出した。
 私はびっくりして雪谷くんの方を向いた。
「荻目の折り紙は上手だよ。ダメじゃない」
「でも、おばあちゃんのはすごかったんでしょ」
「ああ。でも、上手とか上手じゃないとか、そういうすごさじゃなかった気がするんだよな……」
 そう言って、雪谷くんは考え込んでしまった。
 私はポチをそっとつかみ上げた。
「ねえポチ。私は加藤くんのイヤリング、どうしても見つけたいの。大切なイヤリングなの」
 ポチは首をかしげた。
 寂しがり屋の加藤くんのために、お姉ちゃんがあげたイヤリング。
 そして、それを今でも肌身離さず着けている加藤くん。
 二人の間の愛情を思うと、胸がキュッとなる。
「どうか、お願い……!」
 ポチは私の手の中で、少しだけ震えた。まるで「わかった」と返事をするみたいに。
 すると、ポチはふわっと温かくなり、少しだけ光を帯びた気がした。
 ポチは私の手を飛び降りた。そして、鼻をふんふんと鳴らしながら、力強く歩き始めた。
 明らかに、ポチの動きが変わった。はっきりと、探し物という目的を持って歩いているように見える。
「おい、ポチどうした」
 雪谷くんが驚いてその後を付いていく。
 少し歩いてから、ポチは立ち止まってこちらを見た。
 そして、ワン! と力強く吠えた。
 慌てて雪谷くんがそれを制する。
「しーっ! 吠えなくてもわかるから!」
「ねえ、ここって……」
 ポチが示した場所は、私たちのクラスの教室だった。
「さっきも来なかったっけ?」
 しかし、ポチが迷いなく教室の中へ入っていくので、私たちもそれに従う。
 ポチは教室を隅々まで嗅ぎまわっている。
 教卓の前に立ったポチは、細長い足を床との隙間に差し込んだ。
 すると、出てきた。金色の小さな輪っかが。
「うお! これ!」
 雪谷くんはそれを拾い上げて、しっかりと確認した。
「多分あいつのイヤリングだ……!」
「本当⁉」
「ああ、この細い感じ、きっとそうだと思う。うちのクラスでイヤリングしてるやつ、他にいないし」
「よかった……! すごいよポチ!」
「ワン‼」
「しーっ!」

 加藤くんに連絡をすると、学校の外のお店で時間をつぶしていると言っていた。
 イヤリングが見つかったことを伝えて、外で合流する。
「これだろ」
「マジか!」
 イヤリングを渡された加藤くんは、飛び上がりそうなほどに驚き、そして喜んでいた。
「ありがとう! マジでありがとう!」
「ポチのおかげだよ」
 私は鞄からポチを取り出し、加藤くんに手渡した。
「おお、そうか! お前は名犬だな! 本当にありがとう!」
 ポチも嬉しそうに尻尾を振っていた。
「えへへ、お姉ちゃんの大事なイヤリング、見つかって本当によかったよ」
 私がそう言うと、加藤くんは目を見開き、石のように固まってしまった。
「……淳だな?」
 加藤くんは雪谷くんをギロリとにらんだ。雪谷くんはニヤニヤしている。
「人に話すなって言っておいただろ」
「おいおい、見つける手伝いをしたんだぞ。荻目にはそのくらい話したって構わねえだろ」
「うん、きょうだいを大切に思う気持ちは素敵だと思うよ」
 私が肯定すると、加藤くんの顔は赤く染まり、
「うるせー」
 そう言って雪谷くんのことを蹴った。
「なんで俺」
「知るか!」
「あはは」
 私はその様子を見ていて、思わず笑いがこみあげてしまった。
 本当によかった。加藤くんが嬉しそうで。
 加藤くんのために、私の折り紙が役に立って。
 私は晴れ晴れとした気持ちで、言い争う二人の後を付いて歩いた。