「加藤、ちょっとじっとしてて」
雪谷くんはそう言うと、折り紙の犬を加藤くんの首筋に近づけた。
「こいつの匂いを覚えてくれ」
折り紙の犬はクンクンと匂いを嗅いでいる。そして、ワン、と一度だけ鳴いた。
雪谷くんは私の方を見た。
「よし。これで準備オッケー。荻目、一緒に来てくれる?」
「うん、行くよ」
「よっしゃ探すぞ!」
加藤くんも勢いよく言ったが、雪谷くんに止められてしまった。
「お前は待っててくれ」
「なんでだよ! 俺のイヤリングだぞ」
「いいか、匂いをたどって探すんだ。お前本人がいたら、犬に匂いがわからなくなるかもしれないだろ」
そう言われて、加藤くんは不服そうな顔をした。
「出たよ。淳の正論モード。まあいいや、わかったよ。近くにいるから、何かあったら連絡してくれ」
加藤くんは私たちに背を向けて、手をひらひらさせながら去っていった。
私と雪谷くんは、折り紙の犬を連れて校内のあちこちを回った。
折り紙の犬はまさに現実の犬のようで、尻尾を振ったり、突然くるくる回ったりしていて可愛い。
でも、立ち止まって壁を見つめたときはちょっと怖かった。
「よし、犬。ここはどうだ?」
廊下を歩きながら、折り紙の犬は示された教室の入り口をクンクンと嗅ぎまわる。そして、こちらを振り向いて首を横に振った。
こうして順番に教室を確認しているけど、折り紙の犬は首を横に振るばかりだ。
「ダメか。じゃあ次だ」
「ねえ雪谷くん。犬って呼ぶの、なんか変じゃない?」
「でも猫じゃないだろ」
「そういうことじゃなくて。現実のワンちゃんにさ、『おい、犬』って呼びかけないでしょ」
雪谷くんは立ち止まり、面倒くさそうな顔をしてこちらを見た。
「じゃあポチ。これでいいね」
そして、またすたすたと歩き始めた。
「……雪谷くんってさ」
黙ってるとかっこいいけど、喋ると可愛くないよね。
うっかりそんな言葉を口から放ちそうになったけど、ぐっと飲み込んだ。
「何?」
「なんでもない」
「あるだろ」
「なくなりました」
私はそう言って雪谷くんの一歩前を歩きだした。
ケンカみたいな言い争いだったのに、不思議なことに私は少し楽しい気分だった。
クラスの雲の上の存在だった雪谷くんと、こうして対等に自然体で話せていることが楽しいのかもしれないな。
「……あのイヤリング」
雪谷くんが私に追い付くと、彼はまじめなトーンで話し始めた。
「加藤は本当に大切にしているんだよ」
「思い入れがあるんだね」
「そう。あれは元々あいつの姉ちゃんのものだったんだ」
「……形見?」
「生きてるよ。勝手に殺すな」
雪谷くんは柔らかく笑った。
「俺、あいつと付き合いが長くてさ。あのイヤリング、小学生の時にもらったんだよ」
雪谷くんは懐かしそうな顔で話を続けた。
「あいつの姉ちゃんが中学に上がった時、一緒に登校できなくなったから、寂しがってたの。で、寂しくならないようにって、姉ちゃんの持ってたイヤリングをもらったんだって。だからまあ、形見ってのはちょっとだけ合ってるのかも」
その話を聞いて、私の加藤くんに対する見方ががらりと変わった。
何それ、めっちゃ可愛いところあるじゃん……!
チャラチャラした男子なのかと思っていたけど、実は寂しがり屋のチワワだったのかもしれない。
「お姉ちゃん子だったんだね」
「そう。でも本人にそれを言うとめっちゃ恥ずかしがって怒る」
「ええ?」
私は首を傾げた。
「それって、そんなに恥ずかしいものかな? 私も自分のお姉ちゃんが大好きだけど、別に恥ずかしくないよ」
「それはまあ、男子と女子の違いなのかもしれないな」
でも、私にはピンとこなかった。
それよりも、加藤くんのお姉ちゃんに対する思いを知ったことで、イヤリングを見つけたい気持ちがますます高まってきた。
雪谷くんはそう言うと、折り紙の犬を加藤くんの首筋に近づけた。
「こいつの匂いを覚えてくれ」
折り紙の犬はクンクンと匂いを嗅いでいる。そして、ワン、と一度だけ鳴いた。
雪谷くんは私の方を見た。
「よし。これで準備オッケー。荻目、一緒に来てくれる?」
「うん、行くよ」
「よっしゃ探すぞ!」
加藤くんも勢いよく言ったが、雪谷くんに止められてしまった。
「お前は待っててくれ」
「なんでだよ! 俺のイヤリングだぞ」
「いいか、匂いをたどって探すんだ。お前本人がいたら、犬に匂いがわからなくなるかもしれないだろ」
そう言われて、加藤くんは不服そうな顔をした。
「出たよ。淳の正論モード。まあいいや、わかったよ。近くにいるから、何かあったら連絡してくれ」
加藤くんは私たちに背を向けて、手をひらひらさせながら去っていった。
私と雪谷くんは、折り紙の犬を連れて校内のあちこちを回った。
折り紙の犬はまさに現実の犬のようで、尻尾を振ったり、突然くるくる回ったりしていて可愛い。
でも、立ち止まって壁を見つめたときはちょっと怖かった。
「よし、犬。ここはどうだ?」
廊下を歩きながら、折り紙の犬は示された教室の入り口をクンクンと嗅ぎまわる。そして、こちらを振り向いて首を横に振った。
こうして順番に教室を確認しているけど、折り紙の犬は首を横に振るばかりだ。
「ダメか。じゃあ次だ」
「ねえ雪谷くん。犬って呼ぶの、なんか変じゃない?」
「でも猫じゃないだろ」
「そういうことじゃなくて。現実のワンちゃんにさ、『おい、犬』って呼びかけないでしょ」
雪谷くんは立ち止まり、面倒くさそうな顔をしてこちらを見た。
「じゃあポチ。これでいいね」
そして、またすたすたと歩き始めた。
「……雪谷くんってさ」
黙ってるとかっこいいけど、喋ると可愛くないよね。
うっかりそんな言葉を口から放ちそうになったけど、ぐっと飲み込んだ。
「何?」
「なんでもない」
「あるだろ」
「なくなりました」
私はそう言って雪谷くんの一歩前を歩きだした。
ケンカみたいな言い争いだったのに、不思議なことに私は少し楽しい気分だった。
クラスの雲の上の存在だった雪谷くんと、こうして対等に自然体で話せていることが楽しいのかもしれないな。
「……あのイヤリング」
雪谷くんが私に追い付くと、彼はまじめなトーンで話し始めた。
「加藤は本当に大切にしているんだよ」
「思い入れがあるんだね」
「そう。あれは元々あいつの姉ちゃんのものだったんだ」
「……形見?」
「生きてるよ。勝手に殺すな」
雪谷くんは柔らかく笑った。
「俺、あいつと付き合いが長くてさ。あのイヤリング、小学生の時にもらったんだよ」
雪谷くんは懐かしそうな顔で話を続けた。
「あいつの姉ちゃんが中学に上がった時、一緒に登校できなくなったから、寂しがってたの。で、寂しくならないようにって、姉ちゃんの持ってたイヤリングをもらったんだって。だからまあ、形見ってのはちょっとだけ合ってるのかも」
その話を聞いて、私の加藤くんに対する見方ががらりと変わった。
何それ、めっちゃ可愛いところあるじゃん……!
チャラチャラした男子なのかと思っていたけど、実は寂しがり屋のチワワだったのかもしれない。
「お姉ちゃん子だったんだね」
「そう。でも本人にそれを言うとめっちゃ恥ずかしがって怒る」
「ええ?」
私は首を傾げた。
「それって、そんなに恥ずかしいものかな? 私も自分のお姉ちゃんが大好きだけど、別に恥ずかしくないよ」
「それはまあ、男子と女子の違いなのかもしれないな」
でも、私にはピンとこなかった。
それよりも、加藤くんのお姉ちゃんに対する思いを知ったことで、イヤリングを見つけたい気持ちがますます高まってきた。



