折り紙少女と不思議な力 ~君の手の上で、私の折り紙は動き出す~

 放課後、雪谷くんに呼び出された通りに体育館裏に行くと、そこには加藤くんもいた。
「これで揃ったな」
 雪谷くんは言った。でも、加藤くんは何のことだかわからないという様子だ。
「おい淳、いい加減ちゃんと説明しろよ」
「わりい、説明したら来ないかもと思ってな。これからイヤリングを探すぞ」
「はあ? 別にいいって言っただろ」
「いいや、よくない。お前があれを大切に思っていることはよく知ってる。だから探したいんだ」
 雪谷くんは真剣な顔で言った。
 その姿から、私は二人の間の強い友情を感じた。なんだか眩しい。
 それを見た加藤くんは、やれやれ、と肩をすくめた。
「はっ……わかったよ。でもどうすんだ。あんなに小さいもの、そう簡単には見つからないだろ」
 すると、雪谷くんは人差し指を立ててニヤリと笑った。
「そこで俺にいい考えがある。鼻を使うんだ。お前の匂いをたどれば、落とし物を見つけられるかもしれない」
 雪谷くんは自信たっぷりに言った。
 でも、私と加藤くんはピンときていない。
「何それ? 警察犬じゃねえんだから」
「そう。そういうこと」
 雪谷くんは私の方を向いた。
「なあ荻目、犬って折れる?」
 私はようやく理解した。なるほど、私の折り紙の犬を使って、イヤリングを探すのか!
 でも。
「折れるけど……折り紙の犬でしょ。匂いなんてわかるの?」
「多分大丈夫。ばあちゃんの折った折り紙は、その動物の性質も持ってた。だから、荻目が折った犬でもできるんじゃないかな」
 へえ、そうなんだ! それが本当なら、すごいな。
 そこで「わかった、やるよ!」と本当は言いたかった。
 けど、私は周囲を見回した。ここは体育館裏だ。
 まったく……雪谷くんはわかってない。
 折り紙ってのはね、机に向かって折るものなんですよ。
「言いたいことはわかったけどさ……ここで折れっていうんだね。椅子も机もないけど」
 私は雪谷くんをじろりと見た。
 雪谷くんはハッとした顔になった。
「ああ、そっか、すまん」
「まあ、いいよ」
 私は体育館のドアの前にある、コンクリートの小さな階段に腰をかけた。
「なんなの?」
「まあ見てな」
 怪訝な顔をしている加藤くんに対して、雪谷くんはひとことで返事を済ませた。
 さて。私はコンクリートの上に座ったまま考えた。
 犬なら折れる。でもきっと、ただの犬ではダメだ。
 さっき加藤くんが言ってたな。警察犬。そうだ、落とし物を探すなら、そういう犬がいいに違いない。
 ようし、決まったぞ。
 私はざらざらとしたコンクリートの上に折り紙を広げ、破れないように慎重に折り始めた。
 加藤くんのイヤリングを見つけてあげたい。私も、力になりたい。
 そう思うと、胸の中に炎が灯ったように熱くなってきた。
 私はそんな気持ちを込めて手を動かした。
「なあ、もう帰っていい?」
「いいから」
 状況が飲み込めていない加藤くん。でも雪谷くんは相変わらずの様子だ。
 雪谷くんって、いつもこう。大事なことほど簡単に言う。
 多分、口で説明するよりも、見てもらった方が早いと思っているんだろうな。
「できたよ」
 数分かかって、折り紙の犬が完成した。足が細長く、顔はきゅっと縦長。
「シェパードをイメージしてみた。どう?」
「ドーベルマンかと思った」
 そんなやり取りをする私たちに、不信の目を向ける加藤くん。
「二人そろって馬鹿にしてんの?」
 私は、折り紙の犬を雪谷くんへ渡した。
 そういえば、どうやって動かすのか。私もその瞬間を初めて見る。
 雪谷くんは両手で犬を持った。
「さっきから何やってんのさ」
「うるさい。集中できないから黙ってろ」
 雪谷くんは折り紙の犬を見つめて、ふうっと息を吹きかけた。
 そのとき、折り紙の犬が温かい光に包まれた。
 そして、犬の鳴き声が聞こえた。
「ワン!」
 それは、紙がこすれるような控えめな鳴き声だったけど、確かに犬の鳴き声だった。
 鳴くのは私も想定外だった。動くだけでもすごく不思議なのに、まさか声までするなんて!
 折り紙の犬は雪谷くんの手のひらを飛び出し、ワンワンと鳴きながら地面を駆け回り始めた。
「しーっ! 静かに! バレちまうだろ!」
 そう言って雪谷くんは折り紙の犬を捕まえた。
 それを目の当たりにした加藤くんは、顎が外れそうなほどに口を開けて叫びだした。
「い、犬だ! 折り紙なのに! 鳴いてる! か、紙! 紙が走って!」
「静かにしろよ。お前は犬よりうるさいな」
 騒ぐ加藤くんを、雪谷くんは笑いながらたしなめた。
「とにかく、こういうこと。荻目の折り紙を、俺は動かすことができるんだ」
「はああ⁉ マジかよ……やば……」
 加藤くんの興奮はまだ収まらない。
「お前らって……何? 魔法使いか何か?」
「さあな。俺にもよくわからん。じゃあさっさと始めるぞ」
 加藤くんは全く納得していない様子だったけど、私も細かい議論をする時間はもったいないと思ったので、黙って二人のことを見ていた。