「荻目」
「はい……」
「見たよな」
「は、はい……」
放課後、私は雪谷くんに呼ばれて、人のいない体育館裏に来ていた。
これが少女マンガだったら何かが始まりそうなシーンだけど、今の私は不良に絡まれているような気分だった。
雪谷くんはいつも穏やかで優しそうだけど、声が低いから今はちょっと怖い。
「あれ、黙っててくれよな」
「わかりました……」
今日、折り紙のカマキリが動いた。どうやら雪谷くんは、そのことを秘密にしてほしいらしい。
でもさ、ちょっとくらい説明してくれてもいいんじゃない?
「ねえ、あのカマキリ、見せてもらってもいい?」
「なんで」
「あれは私が折った折り紙だよ。私にも知る権利はあるでしょ」
すると、雪谷くんは諦めた顔をして、鞄から折り紙のカマキリを取り出した。
それはどう見ても折り紙のはずなのに、まるで生きているかのように動いている。
ていうか、めっちゃ虫だ。……怖い。
「も、もういいです」
私が手のひらを見せて拒絶すると、雪谷くんは笑いながらカマキリをしまった。
「虫が苦手なのにカマキリを折ったの?」
「だって、動かない折り紙は怖くないもん……。それよりも、どうしてカマキリは動き出したの?」
すると、雪谷くんはバツの悪そうな顔をした。
「教えてやるけど、笑うなよ」
「うん」
「俺……折り紙が動かせるんだよ」
雪谷くんは床を見つめている。
次の言葉を待ったが、雪谷くんは口を開かなかった。
私はとうとうしびれを切らした。
「……え、それだけ? 私が聞きたかったのはさ、どうして折り紙を動かせるのかってことだよ」
雪谷くんは、ああ、という顔をした。もしかして、彼ってちょっとズレてる?
「うーん、なんつったらいいかな。もともと、俺のばあちゃんがそういう人だったんだよ。折り鶴が空を飛んだりしてさ。今はもう死んじゃってて、いないんだけど」
「ええ、すごいね。魔法使いの家系なの?」
「いや、ばあちゃんだけ。で、こないだ夢にばあちゃんが出てきてさ、淳にもできるよ、って言われたの」
ちょっと信じられない話だった。だけど、実際にカマキリが動いていたんだから、信じるしかない。
「でもさ、俺が自分で折るとほとんど動かないんだよ」
「そうなの?」
「ああ。多分、ばあちゃんみたいにうまく折れないから。でさ、荻目のキーホルダーを見たときに、もしかしたらお前の折ったやつなら動くかな、って直感的に思ったんだ」
そう言われて、私の胸がとくんと鳴った。
私は、あのキーホルダーに運命的な出会いを感じて買った。
そして、それは雪谷くんの不思議な秘密につながった。
私は割と現実的な方だけど、これには運命というやつを感じずにはいられないな。
「まあとにかく、このことは秘密にしといて。普通じゃないから」
「うん、わかった」
「それじゃ、よろしく。俺もう帰るね」
雪谷くんはそう言って去っていった。
なんだか、今日はすごい日だったな……。
その日の夜、スマホに雪谷くんから初めてメッセージが来た。
『カマキリが動かなくなった』『あんまり長時間は持たないし、二度目はないみたいだな』
そうなんだ。ずっと動き続けるのかと思ってた。
私は、部屋の中で折り紙のカマキリが動き続ける様子を想像してぞっとした。
うん、いつかは止まってくれる方がいいね……。
その後、メッセージの返信の文章に悩み、入力と削除を繰り返してからようやく送った。
『大丈夫、また作ってあげるよ』
また、だって。えへへ。
すると、サンキュ、と書かれた猫のスタンプが返ってきた。
今後また雪谷くんと、折り紙のことで話す機会があるかもしれない。
そう思うと、私は体がポカポカとしてきた。
なんとなく、今年はいろんなことが起こりそうな気がするな。
そんな予感を胸に抱いて、私はベッドに横たわった。
「はい……」
「見たよな」
「は、はい……」
放課後、私は雪谷くんに呼ばれて、人のいない体育館裏に来ていた。
これが少女マンガだったら何かが始まりそうなシーンだけど、今の私は不良に絡まれているような気分だった。
雪谷くんはいつも穏やかで優しそうだけど、声が低いから今はちょっと怖い。
「あれ、黙っててくれよな」
「わかりました……」
今日、折り紙のカマキリが動いた。どうやら雪谷くんは、そのことを秘密にしてほしいらしい。
でもさ、ちょっとくらい説明してくれてもいいんじゃない?
「ねえ、あのカマキリ、見せてもらってもいい?」
「なんで」
「あれは私が折った折り紙だよ。私にも知る権利はあるでしょ」
すると、雪谷くんは諦めた顔をして、鞄から折り紙のカマキリを取り出した。
それはどう見ても折り紙のはずなのに、まるで生きているかのように動いている。
ていうか、めっちゃ虫だ。……怖い。
「も、もういいです」
私が手のひらを見せて拒絶すると、雪谷くんは笑いながらカマキリをしまった。
「虫が苦手なのにカマキリを折ったの?」
「だって、動かない折り紙は怖くないもん……。それよりも、どうしてカマキリは動き出したの?」
すると、雪谷くんはバツの悪そうな顔をした。
「教えてやるけど、笑うなよ」
「うん」
「俺……折り紙が動かせるんだよ」
雪谷くんは床を見つめている。
次の言葉を待ったが、雪谷くんは口を開かなかった。
私はとうとうしびれを切らした。
「……え、それだけ? 私が聞きたかったのはさ、どうして折り紙を動かせるのかってことだよ」
雪谷くんは、ああ、という顔をした。もしかして、彼ってちょっとズレてる?
「うーん、なんつったらいいかな。もともと、俺のばあちゃんがそういう人だったんだよ。折り鶴が空を飛んだりしてさ。今はもう死んじゃってて、いないんだけど」
「ええ、すごいね。魔法使いの家系なの?」
「いや、ばあちゃんだけ。で、こないだ夢にばあちゃんが出てきてさ、淳にもできるよ、って言われたの」
ちょっと信じられない話だった。だけど、実際にカマキリが動いていたんだから、信じるしかない。
「でもさ、俺が自分で折るとほとんど動かないんだよ」
「そうなの?」
「ああ。多分、ばあちゃんみたいにうまく折れないから。でさ、荻目のキーホルダーを見たときに、もしかしたらお前の折ったやつなら動くかな、って直感的に思ったんだ」
そう言われて、私の胸がとくんと鳴った。
私は、あのキーホルダーに運命的な出会いを感じて買った。
そして、それは雪谷くんの不思議な秘密につながった。
私は割と現実的な方だけど、これには運命というやつを感じずにはいられないな。
「まあとにかく、このことは秘密にしといて。普通じゃないから」
「うん、わかった」
「それじゃ、よろしく。俺もう帰るね」
雪谷くんはそう言って去っていった。
なんだか、今日はすごい日だったな……。
その日の夜、スマホに雪谷くんから初めてメッセージが来た。
『カマキリが動かなくなった』『あんまり長時間は持たないし、二度目はないみたいだな』
そうなんだ。ずっと動き続けるのかと思ってた。
私は、部屋の中で折り紙のカマキリが動き続ける様子を想像してぞっとした。
うん、いつかは止まってくれる方がいいね……。
その後、メッセージの返信の文章に悩み、入力と削除を繰り返してからようやく送った。
『大丈夫、また作ってあげるよ』
また、だって。えへへ。
すると、サンキュ、と書かれた猫のスタンプが返ってきた。
今後また雪谷くんと、折り紙のことで話す機会があるかもしれない。
そう思うと、私は体がポカポカとしてきた。
なんとなく、今年はいろんなことが起こりそうな気がするな。
そんな予感を胸に抱いて、私はベッドに横たわった。



