「折ってきました」
翌日、私は鞄から三つの折り紙作品を出した。
それぞれ、ウサギ、タコ、カマキリ。いずれもそこそこ凝った作品だ。
せっかく人に作ってあげるのだから、少しでも見栄えの良さそうなものを、と思って、手持ちの折り紙の本を隅から隅まで読んだうえで決めた。
そして、雪谷くんが喜んでくれるように、気持ちを込めてせっせと折ったのだ。
「これ、どうかな……?」
私はドキドキしながら言った。
これらの作品は、雪谷くんのお眼鏡にかないますか?
すると、
「あたしに聞いてどうすんだ」
と、綾奈は白けた顔をしてきた。
「それは雪谷くんにあげるやつでしょ」
「いや、まあ、それはそうなんだけど……」
私は雪谷くんのいる男子グループをちらりと見た。
雪谷くんに加藤くん、さらにその他二名の、クラス内ヒエラルキー高めな男子軍団である。
それが私には雄ライオンの群れに見えてしまい、近づくことがためらわれる。
「あの中に割って入るの、キツすぎるでしょ……」
「確かに」
綾奈は頷きつつ、真剣な顔で言った。
「でも、きっと雪谷くんは待ってても来ないよ。『昨日言ってた折り紙、できたからあげるねぇ』って、こっちから猫なで声で言ってやらないと」
「なんで猫なで声なんだよ……」
綾奈は少しふざけているけど、確かに待っていてもしょうがない。
私は綾奈に付いてきてもらいながら、果敢に雄ライオンの群れに飛び込んだ。
「ゆ、雪谷くん」
私がそう言うと、四頭の雄ライオンの視線が一斉にこちらに向いた。
思わず心臓がバクバクと鳴る。
「おっす荻目。どした?」
雪谷くんが穏やかな笑顔で迎え入れてくれたので、私は少しだけ緊張が和らいだ。
「あの、これ。昨日話してた折り紙。ちょっと折ってみたんだけど、どうかな?」
私は折ってきた作品を雪谷くんに見せた。
「え、すご! うま! もう折ったの? しかも三つも」
雪谷くんは目を丸くして、感嘆の声を上げた。
よっしゃ、と私は心の中でガッツポーズを決めた。
他の男子も興味津々のようだ。
「なんで折り紙?」
「俺がお願いしたんだよ。見ての通り、折り紙がうまいらしくてさ」
ほう、見ての通り、か。えへへ。
雪谷くんに折り紙を褒められて、私はすっかり機嫌がよくなってきた。
「ええ、いいなぁ。俺にも一つちょうだいよ。三つもあるわけだし」
一人の男子が調子よく言った。
「おい勝手なこと言うなよ。わざわざ折ってくれたんだぞ」
雪谷くんは友人をたしなめた。
「あの、私、そういうの何個でも折れるし、雪谷くんさえよければ、誰にあげても構わないよ」
私はそう言った。まあ、本当は全部、雪谷くんのためだけに折ったものなんだけどね……。
「あ、そう? じゃあお前らにもやるよ。俺はカマキリな」
そして、ウサギとタコは他の男子の手に渡った。
ここで、ずっと黙って見ていた加藤くんも口を開いた。
「はは、出遅れちまったな。ねえ荻目さん、何か追加で折って、俺にもくれなぁい?」
片目をつぶり、おねだりのポーズをしながら言った。
雪谷くんは呆れた顔をしている。
「やめろよ、荻目に迷惑だろ」
「ううん、平気。何か今すぐ折るよ」
私は走って席に戻り、折り紙を一枚持ってきた。
「何がいいかな?」
「折り鶴とかでもいいよ」
加藤くんは笑顔で言った。
彼なりに気を遣って、ハードルを下げてくれたのかもしれないけど、折り鶴なんてド定番でつまらない。
そう思ったら、私のやる気に火が着いた。
「いいよ、じゃあ折り鶴ね。でも一瞬では折れないから、少しだけ待っててね」
私はすぐに折り始めた。これまで、折り鶴はさんざん折ってきた。
手が完全に記憶している。私は呼吸をするように、手慣れた手つきでどんどん折り進めた。
最初は真四角だった紙が、三角、また真四角、そして細いひし形へと、次々に形を変える。
そして完成した折り鶴を机に置いた。
「はい、これ。加藤くん」
「何これ……やば」
加藤くんは目を丸くして驚いている。やったぜ。
私が折ったのは、折羽鶴と呼ばれる作品。その名の通り、羽が段々になっている、ちょっと変わった折り鶴だ。
「いや、荻目さんってすげーな! 何も見ずにこんなの折って。ありがたくもらいますわ」
「えへへ……どうも」
加藤くんがあんまり喜ぶものだから、私は照れてしまった。
「あの、もしまた何か欲しかったら、いつでも言ってね」
私はそう言って、綾奈と一緒に自分の席へ戻った。
すると、ほっとしたせいか、突然全身に疲労感が襲ってきた。
「ああ……緊張した……」
「嘘でしょ? ちょっと華香、あんためっちゃすごかったじゃん! あんなに折り紙が折れるなんて知らなかったわ」
綾奈は私の背中をバシバシと叩いた。いてーな。
「イケてる男子軍団に一目置かれちゃってさ、もう今年は安泰ですな」
「何それ」
綾奈が変なことを言うので、私は笑ってしまった。
でも、みんなに折り紙を褒められて、いい気分だったことは確かだ。
へへ、私、折り紙やっててよかったな。
すると予鈴が鳴ったので、私は現実へ引き戻された。
こっそりと斜め前の席の雪谷くんを見ると、私が折ったカマキリをしげしげと眺めていた。
気に入ってくれたのかな?
そう思うと、私は胸の中が少しだけ温かくなってきた。
なんて思っていたら、折り紙のカマキリが動いて、こちらを見たのだ。
いったいこれは、どういうこと……?
翌日、私は鞄から三つの折り紙作品を出した。
それぞれ、ウサギ、タコ、カマキリ。いずれもそこそこ凝った作品だ。
せっかく人に作ってあげるのだから、少しでも見栄えの良さそうなものを、と思って、手持ちの折り紙の本を隅から隅まで読んだうえで決めた。
そして、雪谷くんが喜んでくれるように、気持ちを込めてせっせと折ったのだ。
「これ、どうかな……?」
私はドキドキしながら言った。
これらの作品は、雪谷くんのお眼鏡にかないますか?
すると、
「あたしに聞いてどうすんだ」
と、綾奈は白けた顔をしてきた。
「それは雪谷くんにあげるやつでしょ」
「いや、まあ、それはそうなんだけど……」
私は雪谷くんのいる男子グループをちらりと見た。
雪谷くんに加藤くん、さらにその他二名の、クラス内ヒエラルキー高めな男子軍団である。
それが私には雄ライオンの群れに見えてしまい、近づくことがためらわれる。
「あの中に割って入るの、キツすぎるでしょ……」
「確かに」
綾奈は頷きつつ、真剣な顔で言った。
「でも、きっと雪谷くんは待ってても来ないよ。『昨日言ってた折り紙、できたからあげるねぇ』って、こっちから猫なで声で言ってやらないと」
「なんで猫なで声なんだよ……」
綾奈は少しふざけているけど、確かに待っていてもしょうがない。
私は綾奈に付いてきてもらいながら、果敢に雄ライオンの群れに飛び込んだ。
「ゆ、雪谷くん」
私がそう言うと、四頭の雄ライオンの視線が一斉にこちらに向いた。
思わず心臓がバクバクと鳴る。
「おっす荻目。どした?」
雪谷くんが穏やかな笑顔で迎え入れてくれたので、私は少しだけ緊張が和らいだ。
「あの、これ。昨日話してた折り紙。ちょっと折ってみたんだけど、どうかな?」
私は折ってきた作品を雪谷くんに見せた。
「え、すご! うま! もう折ったの? しかも三つも」
雪谷くんは目を丸くして、感嘆の声を上げた。
よっしゃ、と私は心の中でガッツポーズを決めた。
他の男子も興味津々のようだ。
「なんで折り紙?」
「俺がお願いしたんだよ。見ての通り、折り紙がうまいらしくてさ」
ほう、見ての通り、か。えへへ。
雪谷くんに折り紙を褒められて、私はすっかり機嫌がよくなってきた。
「ええ、いいなぁ。俺にも一つちょうだいよ。三つもあるわけだし」
一人の男子が調子よく言った。
「おい勝手なこと言うなよ。わざわざ折ってくれたんだぞ」
雪谷くんは友人をたしなめた。
「あの、私、そういうの何個でも折れるし、雪谷くんさえよければ、誰にあげても構わないよ」
私はそう言った。まあ、本当は全部、雪谷くんのためだけに折ったものなんだけどね……。
「あ、そう? じゃあお前らにもやるよ。俺はカマキリな」
そして、ウサギとタコは他の男子の手に渡った。
ここで、ずっと黙って見ていた加藤くんも口を開いた。
「はは、出遅れちまったな。ねえ荻目さん、何か追加で折って、俺にもくれなぁい?」
片目をつぶり、おねだりのポーズをしながら言った。
雪谷くんは呆れた顔をしている。
「やめろよ、荻目に迷惑だろ」
「ううん、平気。何か今すぐ折るよ」
私は走って席に戻り、折り紙を一枚持ってきた。
「何がいいかな?」
「折り鶴とかでもいいよ」
加藤くんは笑顔で言った。
彼なりに気を遣って、ハードルを下げてくれたのかもしれないけど、折り鶴なんてド定番でつまらない。
そう思ったら、私のやる気に火が着いた。
「いいよ、じゃあ折り鶴ね。でも一瞬では折れないから、少しだけ待っててね」
私はすぐに折り始めた。これまで、折り鶴はさんざん折ってきた。
手が完全に記憶している。私は呼吸をするように、手慣れた手つきでどんどん折り進めた。
最初は真四角だった紙が、三角、また真四角、そして細いひし形へと、次々に形を変える。
そして完成した折り鶴を机に置いた。
「はい、これ。加藤くん」
「何これ……やば」
加藤くんは目を丸くして驚いている。やったぜ。
私が折ったのは、折羽鶴と呼ばれる作品。その名の通り、羽が段々になっている、ちょっと変わった折り鶴だ。
「いや、荻目さんってすげーな! 何も見ずにこんなの折って。ありがたくもらいますわ」
「えへへ……どうも」
加藤くんがあんまり喜ぶものだから、私は照れてしまった。
「あの、もしまた何か欲しかったら、いつでも言ってね」
私はそう言って、綾奈と一緒に自分の席へ戻った。
すると、ほっとしたせいか、突然全身に疲労感が襲ってきた。
「ああ……緊張した……」
「嘘でしょ? ちょっと華香、あんためっちゃすごかったじゃん! あんなに折り紙が折れるなんて知らなかったわ」
綾奈は私の背中をバシバシと叩いた。いてーな。
「イケてる男子軍団に一目置かれちゃってさ、もう今年は安泰ですな」
「何それ」
綾奈が変なことを言うので、私は笑ってしまった。
でも、みんなに折り紙を褒められて、いい気分だったことは確かだ。
へへ、私、折り紙やっててよかったな。
すると予鈴が鳴ったので、私は現実へ引き戻された。
こっそりと斜め前の席の雪谷くんを見ると、私が折ったカマキリをしげしげと眺めていた。
気に入ってくれたのかな?
そう思うと、私は胸の中が少しだけ温かくなってきた。
なんて思っていたら、折り紙のカマキリが動いて、こちらを見たのだ。
いったいこれは、どういうこと……?



