折り紙少女と不思議な力 ~君の手の上で、私の折り紙は動き出す~

 文化祭が終わってしばらくしたころ、私たちはまた音楽室に集まっていた。
 折り鶴の一件からしばらくは、私は雪谷くんと目を合わせることができなかった。
 でも、彼は普段通りに接してくれた。綾奈にはさんざん泣き言を聞いてもらったし、加藤くんも優しかったから、私は少しずつ前を向くことができた。
 今日もこうして、音楽室でみんなと平和に過ごしている。
「まさか、淳も折り紙をやるようになるとはね」
 加藤くんは雪谷くんの作品を手に取りながら言った。
 それは幾何学的な立体だった。数学好きの雪谷くんらしい作品だ。
「たまには動物とかも折れば?」
「俺はこういうのが好きなの」
 雪谷くんはすました顔で言った。
「それに、動物だったら荻目が折ってくれるやつがいいよ」
 雪谷くんはそう言って私を見た。
 私の胸は小さくトクンと鳴った。
 今でも、雪谷くんのことを考えて胸が苦しくなるときがある。
 でも、雪谷くんが私のことを特別な友達だと思ってくれて、こうして一緒にいる時間が持てるというだけでも、幸せなことなのかもしれないな。
「何か折ろうか?」
「ああ、お願い」
 私は笑顔で折り紙を広げた。
 雪谷くんが喜んでくれるように、心を込めて、今度は迷いなく折り始めた。
 文化祭が終わると、私たち三年生には卒業や受験の足音が迫る。
 地元の公立高校に行く私と違って、成績のいい雪谷くんは県内の私立高校への進学を志望している。
 だから、雪谷くんと一緒にいられるのは、この中学を卒業するまでだ。
 あと何回、こうして雪谷くんのために折り紙を折れるんだろう。
「はい、できたよ」
 細長い足に、太い首。私は馬の折り紙を折った。
「いいね。ありがとう」
 雪谷くんはそれを受け取ると、ふうっと息を吹きかけた。
 温かい光に包まれた折り紙の馬は、ヒヒン、という鳴き声とともに力強く走り出した。
 私は、ずっと考えていた疑問を口にした。
「ねえ、どうして私の折り紙は動くのかな」
「俺はわかる気がするよ」
 雪谷くんは微笑んだ。
「きっと、荻目は人のことを本気で思って折り紙を折れるからだよ」
 私は照れて目を伏せた。
「えへへ、そうかな」
「ああ」
 雪谷くんの言葉は、私の胸の中にすうっと入って、全身を駆け巡ったような気がした。
 
 折り紙に込めた想いは、人の心も動かす。
 あの不思議な力も、きっとそこから生まれたんだろう。

 じゃあ、次は何を折ろうかな。