その日の帰り道。私は雪谷くんのことを考えていた。
私は、雪谷くんのことが、好き……なのか?
金魚の折り紙のキーホルダーを見て、私が折り紙が得意だと思った雪谷くん。
私が折った折り紙を、すごいと褒めてくれた雪谷くん。
不思議な力で、私の折り紙を動かす雪谷くん。
折り紙の感情を感じ取ることができる雪谷くん。
そこで、私は突然気がついた。
もし私が雪谷くんのことを好きなら……折り紙を通じて、伝わっちゃってるんじゃ……⁉
そ、それは、
「それはダメっ!」
私は思わず叫んだ。
近くにいたおばさんが驚いて振り向き、私に白い目を向けた。ご、ごめんなさい……。
私は冷静に、これまでのことを思い返す。
私は何度か雪谷くんに折り紙を渡した。でも、雪谷くんへの好きの気持ちを込めて折り紙を折ったことは……多分、ない。だから、セーフ……だよね?
そもそも、彼女がいるし。好きになるなんて、ありえないし……。
私はもんもんとした気持ちで家に帰った。
翌日の朝。いつものように教室で綾奈と喋っていると、雪谷くんが登校してきた。
ゆ、雪谷くんだ……!
昨日の綾奈との話のせいか、雪谷くんのことが頭から離れず、夜はなかなか寝付けなかった。
今日も雪谷くんのことを変に意識してしまう。
いつも通り、雪谷くんは私たちに挨拶をした。
「おはよ」
「おはよー」
「はよ……」
私は雪谷くんと目を合わせられなかった。今、自分はどんな顔をしているんだろう。
でも、雪谷くんは気がつかなかったらしく、まっすぐ自分の席に向かっていった。
綾奈はニヤニヤしてこちらを見た。
「どうしたのかな〜?」
「何もないし」
私は反論してみたものの、綾奈の視線が耐えられなくなり、ぷいと顔を背けた。
私の席から、雪谷くんの背中が見える。背が高い雪谷くんの体は、なぜか昨日までよりも大きく見えた。
*
ある日、また私たちは音楽室に集まっていた。
相変わらず文化祭の話題が多く、三上くんや小森さんを呼ぶなどの話をそわそわしながら聞いていた。
「そういえば、淳の文化祭の展示はできたの?」
「ああ、後はでっかく印刷して終わり」
「見せてよ」
加藤くんに促されて、雪谷くんはスマホを渡して見せてくれた。
それはまさに数学のレポートといった感じで、正方形や辺の長さなどの図や説明が淡々と書かれていた。
すごく雪谷くんっぽいけど……。数学が苦手な私は、すぐに読むのを諦めた。
「何これ、教科書かよ。全然折り紙っぽくないじゃん」
加藤くんは笑った。
「うるせーな。数研の展示なんだから、こんなので十分なんだよ」
「なあ、レポートに関係なくてもいいからさ、何か作品を添えてみたら? その方がキャッチーで、みんな読みたくなると思うよ。華香ちゃんもそう思うでしょ?」
加藤くんは私に話を振った。きっと、雪谷くんのレポートを読んで難しい顔をしていたことに気がついたんだ。
「うーん、確かに、ちょっと難しい感じがしちゃうから、何かで飾った方がいいかも」
「だよね。華香ちゃんだったら、何を飾る?」
「そうだなあ。まあ、この手の定番は花かな。パネルの端っこにくっつけるだけでも、見栄えが良くなると思う」
でも、雪谷くんは渋い顔をした。
「花は、ちょっと嫌かも。女子っぽいし、選挙で当選した人みたいだし」
それもそうか。選挙速報で、当選者の名前にバラのシールを貼っているのを見たことがある。
「じゃあ、分かりやすさ重視で、定番の折り鶴なんてどう?」
そう、折り鶴。キング・オブ・折り紙。
恐らく、何か一つ折り紙を思い浮かべてください、などと言われたら、大半の日本人は折り鶴を思い浮かべるだろう。
「それなら、まあ、いいよ」
そんなに気乗りしていなそうだったけど、雪谷くんは了承してくれた。
「淳は折り鶴を折れるの?」
「そのくらいは折れるよ。けど……」
雪谷くんは私の方を見た。
「荻目に折ってもらおうかな」
「え、なんで?」
「俺が折るよりも、絶対にきれいで見栄えがいいでしょ。だから頼むよ」
そう言って雪谷くんは私に笑顔を向けた。
私の答えはもちろん、
「任せてよ! 折り紙なら張り切って折るよ!」
折り紙を誰かに頼まれることは、私にとって誇らしい。
しかも雪谷くんのためなら、なおさらだ。
ん?
なんで、雪谷くんのためだと、こんなにやる気になるんだ?
すると急に、先日の綾奈との会話を思い出してしまった。
――好きって、なんだろうね?
――その人のために、何かやってあげたい、って思うとかね。
すると、私の心臓がバクバクと暴れだした。
え、マジ⁉
ここまでくると、それはもう疑いようがなかった。
私は、雪谷くんに喜んでほしい。
雪谷くんが困っていたら助けたい。
そして……小森さんを見ると胸が痛い。
ってことは、やっぱり、私は、雪谷くんが……⁉
雪谷くんのことが、好き……⁉
「どうした荻目」
雪谷くんに声をかけられて、私はハッとした。
「急に元気がなくなったな」
私は気持ちを悟られないように、努めて普通に返事をした。
「いやあ、元気、デスヨ」
「本当か? なんか顔赤くない?」
雪谷くんは私の顔を覗き込んだ。や、やめてください……。
「それにしても楽しみだな」
加藤くんが言葉を挟んだので、雪谷くんは私を見るのをやめた。た、助かった……。
「華香ちゃんが折るってことは、淳の力で動かせるね。展示の中で一番目立つな」
「やらねえよ。あれは秘密なんだよ」
その言葉を聞いて、赤くなった私の顔は青ざめた。
完全に忘れてた。雪谷くんの、不思議な力。
もし、今の私が折った折り鶴を渡したら、気持ちがバレちゃうのでは……⁉
「まあとにかく、よろしくな」
雪谷くんに笑顔でお願いされて、私も笑顔を返した。
でも、それは少しひきつった表情だったかもしれない。
私は、雪谷くんのことが、好き……なのか?
金魚の折り紙のキーホルダーを見て、私が折り紙が得意だと思った雪谷くん。
私が折った折り紙を、すごいと褒めてくれた雪谷くん。
不思議な力で、私の折り紙を動かす雪谷くん。
折り紙の感情を感じ取ることができる雪谷くん。
そこで、私は突然気がついた。
もし私が雪谷くんのことを好きなら……折り紙を通じて、伝わっちゃってるんじゃ……⁉
そ、それは、
「それはダメっ!」
私は思わず叫んだ。
近くにいたおばさんが驚いて振り向き、私に白い目を向けた。ご、ごめんなさい……。
私は冷静に、これまでのことを思い返す。
私は何度か雪谷くんに折り紙を渡した。でも、雪谷くんへの好きの気持ちを込めて折り紙を折ったことは……多分、ない。だから、セーフ……だよね?
そもそも、彼女がいるし。好きになるなんて、ありえないし……。
私はもんもんとした気持ちで家に帰った。
翌日の朝。いつものように教室で綾奈と喋っていると、雪谷くんが登校してきた。
ゆ、雪谷くんだ……!
昨日の綾奈との話のせいか、雪谷くんのことが頭から離れず、夜はなかなか寝付けなかった。
今日も雪谷くんのことを変に意識してしまう。
いつも通り、雪谷くんは私たちに挨拶をした。
「おはよ」
「おはよー」
「はよ……」
私は雪谷くんと目を合わせられなかった。今、自分はどんな顔をしているんだろう。
でも、雪谷くんは気がつかなかったらしく、まっすぐ自分の席に向かっていった。
綾奈はニヤニヤしてこちらを見た。
「どうしたのかな〜?」
「何もないし」
私は反論してみたものの、綾奈の視線が耐えられなくなり、ぷいと顔を背けた。
私の席から、雪谷くんの背中が見える。背が高い雪谷くんの体は、なぜか昨日までよりも大きく見えた。
*
ある日、また私たちは音楽室に集まっていた。
相変わらず文化祭の話題が多く、三上くんや小森さんを呼ぶなどの話をそわそわしながら聞いていた。
「そういえば、淳の文化祭の展示はできたの?」
「ああ、後はでっかく印刷して終わり」
「見せてよ」
加藤くんに促されて、雪谷くんはスマホを渡して見せてくれた。
それはまさに数学のレポートといった感じで、正方形や辺の長さなどの図や説明が淡々と書かれていた。
すごく雪谷くんっぽいけど……。数学が苦手な私は、すぐに読むのを諦めた。
「何これ、教科書かよ。全然折り紙っぽくないじゃん」
加藤くんは笑った。
「うるせーな。数研の展示なんだから、こんなので十分なんだよ」
「なあ、レポートに関係なくてもいいからさ、何か作品を添えてみたら? その方がキャッチーで、みんな読みたくなると思うよ。華香ちゃんもそう思うでしょ?」
加藤くんは私に話を振った。きっと、雪谷くんのレポートを読んで難しい顔をしていたことに気がついたんだ。
「うーん、確かに、ちょっと難しい感じがしちゃうから、何かで飾った方がいいかも」
「だよね。華香ちゃんだったら、何を飾る?」
「そうだなあ。まあ、この手の定番は花かな。パネルの端っこにくっつけるだけでも、見栄えが良くなると思う」
でも、雪谷くんは渋い顔をした。
「花は、ちょっと嫌かも。女子っぽいし、選挙で当選した人みたいだし」
それもそうか。選挙速報で、当選者の名前にバラのシールを貼っているのを見たことがある。
「じゃあ、分かりやすさ重視で、定番の折り鶴なんてどう?」
そう、折り鶴。キング・オブ・折り紙。
恐らく、何か一つ折り紙を思い浮かべてください、などと言われたら、大半の日本人は折り鶴を思い浮かべるだろう。
「それなら、まあ、いいよ」
そんなに気乗りしていなそうだったけど、雪谷くんは了承してくれた。
「淳は折り鶴を折れるの?」
「そのくらいは折れるよ。けど……」
雪谷くんは私の方を見た。
「荻目に折ってもらおうかな」
「え、なんで?」
「俺が折るよりも、絶対にきれいで見栄えがいいでしょ。だから頼むよ」
そう言って雪谷くんは私に笑顔を向けた。
私の答えはもちろん、
「任せてよ! 折り紙なら張り切って折るよ!」
折り紙を誰かに頼まれることは、私にとって誇らしい。
しかも雪谷くんのためなら、なおさらだ。
ん?
なんで、雪谷くんのためだと、こんなにやる気になるんだ?
すると急に、先日の綾奈との会話を思い出してしまった。
――好きって、なんだろうね?
――その人のために、何かやってあげたい、って思うとかね。
すると、私の心臓がバクバクと暴れだした。
え、マジ⁉
ここまでくると、それはもう疑いようがなかった。
私は、雪谷くんに喜んでほしい。
雪谷くんが困っていたら助けたい。
そして……小森さんを見ると胸が痛い。
ってことは、やっぱり、私は、雪谷くんが……⁉
雪谷くんのことが、好き……⁉
「どうした荻目」
雪谷くんに声をかけられて、私はハッとした。
「急に元気がなくなったな」
私は気持ちを悟られないように、努めて普通に返事をした。
「いやあ、元気、デスヨ」
「本当か? なんか顔赤くない?」
雪谷くんは私の顔を覗き込んだ。や、やめてください……。
「それにしても楽しみだな」
加藤くんが言葉を挟んだので、雪谷くんは私を見るのをやめた。た、助かった……。
「華香ちゃんが折るってことは、淳の力で動かせるね。展示の中で一番目立つな」
「やらねえよ。あれは秘密なんだよ」
その言葉を聞いて、赤くなった私の顔は青ざめた。
完全に忘れてた。雪谷くんの、不思議な力。
もし、今の私が折った折り鶴を渡したら、気持ちがバレちゃうのでは……⁉
「まあとにかく、よろしくな」
雪谷くんに笑顔でお願いされて、私も笑顔を返した。
でも、それは少しひきつった表情だったかもしれない。



