雪谷くんたちから少し離れた場所で、加藤くんは私にこそっと聞いた。
「もしかして、華香ちゃんってさ……小森さんのこと、その……あんまり好きじゃないでしょ」
私は驚いた。小森さんが、好きじゃない?
「そんなことないよ……いい人そうだし」
「でも、華香ちゃんが小森さんを見るとき、いつも変な顔をしてるよ」
私はハッとして、また顔を触った。
確かに、小森さんのことを考えると、もやもやとした気持ちになっていた。
でも、嫌いになる理由が見当たらない。
「そんなこと、ないと思う……」
「淳の彼女」
加藤くんが突然そう言うと、私の心臓が小さく跳ねた。
「顔に出てるよ」
「……何が?」
そうは言ったものの、さすがに自分でもわかった。
確かに。私は、小森さんが、ちょっとだけ、嫌かも。
それはきっと、雪谷くんの彼女だから。
私の友達の雪谷くんの、私の知らないところを知ってる小森さん。
雪谷くんが、私には見せない顔を向ける小森さん。
それが嫌じゃないと言えば、嘘になる。
「華香ちゃん、小森さんのために折るのが難しかったらさ、淳のために折ったら?」
「雪谷くんのため?」
「うん。あいつからのお願いで来てるわけだから、あいつのことだけ考えてやってみなよ」
そう言われて、私は雪谷くんのことを考えた。
不思議な力を持つ雪谷くん。
顔と声がよくて、クラスでモテてる。
私の折り紙の上手さを見抜いて、声をかけてくれた。
そして、加藤くんの落とし物や、綾奈の恋愛相談など、二人で力を合わせてトラブル解決に取り組んだ。
喋ると少しぶっきらぼうだけど、本当は優しいところが好き。
……ん?
私は頭をぶんぶんと振った。
違う。雪谷くんには彼女がいる。
だから、そういう好きじゃない。人として、友達として、ね。
とにかく、私は雪谷くんの力になりたい。
彼が困っているなら、全力で助けたい。
そのことは間違いない。
そう思ったら、次はできそうな気がしてきた。
「加藤くん、ありがとう。できるかも」
「さすが華香ちゃん」
加藤くんはにっこりと笑った。
「雪谷くん、お待たせ。もう一度やりたいんだけど、いいかな?」
「荻目がいいならいいけど、大丈夫?」
「うん、きっと大丈夫」
私はそう言って、テーブルに折り紙を広げて折り始めた。
これは、雪谷くんからのお願いなんだ。
小森さんのことは……すごく気になるけど、それはしょうがない。
雪谷くんは、川にキーホルダーが落ちたことで困っている。
それを見つけて、雪谷くんに笑顔になってもらいたい!
私はそんな気持ちを込めて、またイルカの折り紙を作った。
「はい、これ」
それを雪谷くんに渡すと、また息を吹きかけられて動き出した。
「おお、さっきまでよりも良さそうだな」
見た目の違いはないと思うけど、雪谷くんはそう言った。
「よし、今度こそ。頼むぞ!」
折り紙のイルカを川に放つと、すぐに深く潜り、水草の中をかき分けていった。
「すごい! 本当にいい感じだ!」
その様子を見て、加藤くんははしゃいだ。
私は祈った。潜るだけじゃ駄目なんだ。落としたキーホルダーを見つけないと。
お願い、イルカさん。頑張って……!
折り紙のイルカは、しばらく川の中に潜ったままだった。
「大丈夫かな……?」
川の中の様子は見えない。私はだんだん心配になってきた。
すると、ばしゃん、と音を立てて、折り紙のイルカが水面を飛び上がった。
「ああっ!」
小森さんが声を上げた。
「キーホルダー!」
折り紙のイルカは、口に銀色の四角いキーホルダーをくわえていた。
「やった!」
雪谷くんも興奮している。
川岸まで泳いできたイルカを手ですくい上げて、キーホルダーを手に取った。
「ああ、これだ! 小森さん!」
「すごい、淳くん!」
二人は大喜びだ。
「よかった……」
私はホッとして力が抜けた。
一時はどうなることかと思ったけど、どうにか見つけることができた。
「さすが華香ちゃん」
加藤くんがそう言うと、小森さんは私の手を握ってぶんぶんと振った。
「うん! 華香ちゃんも本当にありがとう!」
「は、はい」
私はどうすればいいかわからず、オロオロしてしまった。
「よっぽど大切なキーホルダーだったんスね」
加藤くんが笑顔で聞くと、小森さんは照れた顔をした。
「うん……ね、淳くん」
そして、小森さんは雪谷くんのことを上目遣いで見た。
雪谷くんはあからさまに目を逸らした。
詳しいことはわからないけど、どうやらあのキーホルダーは二人にとって大切なものだったんだな。
……なんか、複雑な気持ちになってきた。先に聞かなくてよかったかも。
「荻目」
雪谷くんはにっこりと笑って言った。
「今日は助かったよ。ありがとな」
「へへ、どういたしまして」
うん、とにかくよかった。
雪谷くんに喜んでもらえて。雪谷くんの笑顔が見られて。
私も心から嬉しくなった。
*
雪谷くんは小森さんを送って行ってしまった。
私と加藤くんは、二人で駅に向かった。
「あの二人、仲が良さそうだったね」
「そうだな」
なんだか気に入らないけど、あの二人は誰が見てもお似合いのカップルだった。
「そういえば」
加藤くんは私の方を見た。
「華香ちゃんってさ、彼氏とか欲しいって思う?」
「うーん、ちょっとわかんないかな……」
雪谷くんのことが気にならないわけではない。
でも、彼氏にしたいかと言われると、よくわからない。そもそも彼女持ちだし。
「ちなみに俺は、今フリーだよ。彼女いない歴一か月」
加藤くんはおどけて言った。
「そうなんだ」
別のクラスの子と噂になっていたけど、もう別れちゃったのか。
でも、加藤くんは優しくてイケてるから。
「加藤くんなら、またすぐに彼女ができるよ」
私は優しい笑顔で応援してあげた。
「……おう、よくわかってんね」
ははっ、と加藤くんは笑った。
そして両手をポケットに突っ込み、私の少し前を歩き出した。
その様子は、いつもの明るい加藤くんらしくないような気がした。
「もしかして、華香ちゃんってさ……小森さんのこと、その……あんまり好きじゃないでしょ」
私は驚いた。小森さんが、好きじゃない?
「そんなことないよ……いい人そうだし」
「でも、華香ちゃんが小森さんを見るとき、いつも変な顔をしてるよ」
私はハッとして、また顔を触った。
確かに、小森さんのことを考えると、もやもやとした気持ちになっていた。
でも、嫌いになる理由が見当たらない。
「そんなこと、ないと思う……」
「淳の彼女」
加藤くんが突然そう言うと、私の心臓が小さく跳ねた。
「顔に出てるよ」
「……何が?」
そうは言ったものの、さすがに自分でもわかった。
確かに。私は、小森さんが、ちょっとだけ、嫌かも。
それはきっと、雪谷くんの彼女だから。
私の友達の雪谷くんの、私の知らないところを知ってる小森さん。
雪谷くんが、私には見せない顔を向ける小森さん。
それが嫌じゃないと言えば、嘘になる。
「華香ちゃん、小森さんのために折るのが難しかったらさ、淳のために折ったら?」
「雪谷くんのため?」
「うん。あいつからのお願いで来てるわけだから、あいつのことだけ考えてやってみなよ」
そう言われて、私は雪谷くんのことを考えた。
不思議な力を持つ雪谷くん。
顔と声がよくて、クラスでモテてる。
私の折り紙の上手さを見抜いて、声をかけてくれた。
そして、加藤くんの落とし物や、綾奈の恋愛相談など、二人で力を合わせてトラブル解決に取り組んだ。
喋ると少しぶっきらぼうだけど、本当は優しいところが好き。
……ん?
私は頭をぶんぶんと振った。
違う。雪谷くんには彼女がいる。
だから、そういう好きじゃない。人として、友達として、ね。
とにかく、私は雪谷くんの力になりたい。
彼が困っているなら、全力で助けたい。
そのことは間違いない。
そう思ったら、次はできそうな気がしてきた。
「加藤くん、ありがとう。できるかも」
「さすが華香ちゃん」
加藤くんはにっこりと笑った。
「雪谷くん、お待たせ。もう一度やりたいんだけど、いいかな?」
「荻目がいいならいいけど、大丈夫?」
「うん、きっと大丈夫」
私はそう言って、テーブルに折り紙を広げて折り始めた。
これは、雪谷くんからのお願いなんだ。
小森さんのことは……すごく気になるけど、それはしょうがない。
雪谷くんは、川にキーホルダーが落ちたことで困っている。
それを見つけて、雪谷くんに笑顔になってもらいたい!
私はそんな気持ちを込めて、またイルカの折り紙を作った。
「はい、これ」
それを雪谷くんに渡すと、また息を吹きかけられて動き出した。
「おお、さっきまでよりも良さそうだな」
見た目の違いはないと思うけど、雪谷くんはそう言った。
「よし、今度こそ。頼むぞ!」
折り紙のイルカを川に放つと、すぐに深く潜り、水草の中をかき分けていった。
「すごい! 本当にいい感じだ!」
その様子を見て、加藤くんははしゃいだ。
私は祈った。潜るだけじゃ駄目なんだ。落としたキーホルダーを見つけないと。
お願い、イルカさん。頑張って……!
折り紙のイルカは、しばらく川の中に潜ったままだった。
「大丈夫かな……?」
川の中の様子は見えない。私はだんだん心配になってきた。
すると、ばしゃん、と音を立てて、折り紙のイルカが水面を飛び上がった。
「ああっ!」
小森さんが声を上げた。
「キーホルダー!」
折り紙のイルカは、口に銀色の四角いキーホルダーをくわえていた。
「やった!」
雪谷くんも興奮している。
川岸まで泳いできたイルカを手ですくい上げて、キーホルダーを手に取った。
「ああ、これだ! 小森さん!」
「すごい、淳くん!」
二人は大喜びだ。
「よかった……」
私はホッとして力が抜けた。
一時はどうなることかと思ったけど、どうにか見つけることができた。
「さすが華香ちゃん」
加藤くんがそう言うと、小森さんは私の手を握ってぶんぶんと振った。
「うん! 華香ちゃんも本当にありがとう!」
「は、はい」
私はどうすればいいかわからず、オロオロしてしまった。
「よっぽど大切なキーホルダーだったんスね」
加藤くんが笑顔で聞くと、小森さんは照れた顔をした。
「うん……ね、淳くん」
そして、小森さんは雪谷くんのことを上目遣いで見た。
雪谷くんはあからさまに目を逸らした。
詳しいことはわからないけど、どうやらあのキーホルダーは二人にとって大切なものだったんだな。
……なんか、複雑な気持ちになってきた。先に聞かなくてよかったかも。
「荻目」
雪谷くんはにっこりと笑って言った。
「今日は助かったよ。ありがとな」
「へへ、どういたしまして」
うん、とにかくよかった。
雪谷くんに喜んでもらえて。雪谷くんの笑顔が見られて。
私も心から嬉しくなった。
*
雪谷くんは小森さんを送って行ってしまった。
私と加藤くんは、二人で駅に向かった。
「あの二人、仲が良さそうだったね」
「そうだな」
なんだか気に入らないけど、あの二人は誰が見てもお似合いのカップルだった。
「そういえば」
加藤くんは私の方を見た。
「華香ちゃんってさ、彼氏とか欲しいって思う?」
「うーん、ちょっとわかんないかな……」
雪谷くんのことが気にならないわけではない。
でも、彼氏にしたいかと言われると、よくわからない。そもそも彼女持ちだし。
「ちなみに俺は、今フリーだよ。彼女いない歴一か月」
加藤くんはおどけて言った。
「そうなんだ」
別のクラスの子と噂になっていたけど、もう別れちゃったのか。
でも、加藤くんは優しくてイケてるから。
「加藤くんなら、またすぐに彼女ができるよ」
私は優しい笑顔で応援してあげた。
「……おう、よくわかってんね」
ははっ、と加藤くんは笑った。
そして両手をポケットに突っ込み、私の少し前を歩き出した。
その様子は、いつもの明るい加藤くんらしくないような気がした。



