週末、私は雪谷くんや加藤くんと待ち合わせをした。小森さんのキーホルダーを探すためだ。綾奈は忙しくて来られないらしい。
「おっす」
待ち合わせ場所の駅に着くと、既に加藤くんが来ていた。
「ねえ、加藤くんは小森さんのことをよく知っているの?」
「いや、俺も会うのは初めてだな。先輩だと思ったら、ちょっと緊張するよな」
加藤くんはそう言って、おどけて笑った。
そうこうしていると、雪谷くんと小森さんが現れた。
「お待たせ」
「はじめまして、荻目さん、加藤くん」
小森さんは優しく笑った。その笑顔からは、人柄の良さがあふれていた。
「……はじめまして」
一方の私は固い笑顔で挨拶を返した。
すると、雪谷くんは呆れた顔をした。
「そんなに緊張するなよ。この人、中身はほぼ中学生だから」
「ちょっと淳くん! そんなことないでしょ!」
小森さんは笑いながら雪谷くんの肩を叩いた。
……ずいぶんと仲が良さそうですね。
「じゃ、さっそく現場に行こうか」
雪谷くんはくるりと向きを変えて歩き出した。
雪谷くんと小森さんが並んで歩く後ろを、私と加藤くんが付いていく。
目的最優先の雪谷くんは、何も言わずにすたすたと歩いている。
でも、ときどき小森さんが話しかけると、ちゃんと顔を見て、にっこりとしながら答えてあげていた。
どこからどう見ても、カップルだ。
私は小森さんの背中を見つめながら歩いた。
この人は、きっと私の知らない雪谷くんを知っているんだ。
しかも、雪谷くんの不思議な力のことも知っている。
私が初めてそれを見た時は「黙っててくれ」って言われたのに。私との二人だけの秘密だったのに。小森さんには自分から教えちゃうんだなあ。
「華香ちゃん」
加藤くんがこそっと話しかけてきた。
「今日、体調悪かったりする?」
「え、なんで」
「ちょっと怖い顔してたから。無理はしないでね」
え。
私は思わず自分の顔を触った。
どうして怖い顔なんか……。
「ありがとう、平気だよ」
そう答えたものの、私はなんとなく自信がなかった。
「ここだな」
しばらく川沿いを歩いて、橋までたどり着いた。
「この橋から落としたんだよな」
「うん」
私は川を見た。太陽の光が反射して、水の中はよく見えない。
目をこらしてみると、どうやら水草が生い茂っていて、川の流れに沿って真横になっていた。
「流されてるってことはないんスか?」
加藤くんが聞いた。
「大きめの金属製のキーホルダーだから、そんなに簡単には流されないと思う」
「じゃあ、さっさと始めようか」
雪谷くんはそう言って、鞄から折りたたみの椅子と簡易テーブルを出して広げた。
そんな用意のいいことをするとは思っておらず、私は驚いた。
「気が利くじゃん」
「またにらまれたら困るからな」
雪谷くんは笑った。それを見て、私はやる気が出てきた。
折りたたみ椅子に座って、考える。
世の中には、いろんな魚がいる。夏休みに、水族館で見た。まあ、どれも似たような形で、名前は覚えられなかったけど……。
今日は、水の中で探し物をする。それなら、泳ぎが得意で器用な生き物がいい。
ようし、決まったぞ。
私はテーブルにセロファンの折り紙を広げて折り始めた。一応、紙よりも水に強そうな素材だ。
小森さんのキーホルダーを見つけるために。
そう、小森さん。雪谷くんの彼女。
頭の奥に、さっき見た小森さんの背中が浮かんだ。
雪谷くんに親しげに話しかける小森さん。それに笑顔で答える雪谷くん。
なんだかもやもやしたまま、私は流れる手つきで折り紙を仕上げた。
「はい完成」
「すごい!」
小森さんは歓声を上げた。
「イルカだね! 上手!」
小森さんに勢いよく褒められた。でも、なんだか素直に喜べないのはどうしてだろう。
今回折ったのは、イルカ。水族館で見たパフォーマンスで、見事な芸を披露していた。
探し物をするなら、川魚なんかよりもずっと適任だと思ったのだ。
「イルカかあ、めっちゃいいね」
加藤くんはいつも通り、笑顔で私の折り紙を褒めてくれた。えへへ。
「川だから、てっきり鮎とか折ると思ったよ」
「……ごめん、鮎がどんな魚だったか、思い浮かばないかも」
私はあまり魚に詳しくなかった。
「よし、やろう」
私はいつも通り、折り紙のイルカを雪谷くんに渡した。
雪谷くんがふうっと息を吹きかけると、折り紙のイルカは優しく光ってから、ケケケっと鳴いた。
「いいか、川の中のキーホルダーを探すんだ。行ってこい!」
雪谷くんが折り紙のイルカを川に放つと、それはすいすいと泳いだ。
だけど、とてもキーホルダーを探しているようには見えない。ただ楽しそうに、水面を勢いよく泳いでいるだけだ。
「おい、イルカ! 真面目にやれ!」
雪谷くんからの叱責もむなしく、折り紙のイルカはすぐに動かなくなってしまった。
「どうしたの淳。今日調子悪い?」
「いや、いつも通りだけど」
加藤くんからの質問に、雪谷くんはむすっとして答えた。
「荻目はどうだ」
雪谷くんは私を見た。
「別に……いつも通り」
そう答えたけど、雪谷くんは疑うような目で私のことを見ている。
「もう一回折るね」
私はその視線を避けながら、もう一度イルカを作った。
雪谷くんの力を得たイルカは、勢いよく水面を泳いでから、また止まってしまった。
「ねえ、淳くん。大丈夫?」
小森さんが心配そうに聞いた。
「んー、ちょっと作戦会議しよう」
雪谷くんはそう言い、折り紙制作は一時中断することになった。
「やっぱり川魚の方がよかったのかな?」
「いや、そういうことじゃないと思う」
雪谷くんは真剣な顔で私を見た。
「なあ荻目、やっぱり今日のお前は何か変だよ」
「ええ? なんでよ。変なのは雪谷くんの力かもしれないじゃん」
しかし、雪谷くんは首を横に振った。
「あのさ、俺には折り紙の感情がわかるって、前に話したよな」
そういえば、そんな話があった。綾奈の恋愛相談のときだ。
「うん、そうだったね」
「今日のイルカは、いつもと違う。相手のためを思う、メラメラっと燃えるような感じがないんだよな。小森さんと初対面だから、やりづらいのかな?」
「そうなの?」
小森さんが口を挟んだ。
「ごめんね荻目さん。会ったこともないのに、いきなり探し物なんてお願いしちゃって。無理はしなくていいからね」
「いえ、別に……」
私は考え込んだ。うーん、本当にそうなのかな。
私は、小森さんを助けたいと思って、わざわざここまで来たつもりだったのにな……。
「あの、ちょっと」
加藤くんが手を上げた。
「華香ちゃんと話したいんだけど、いい?」
私は加藤くんに連れられて、雪谷くんたちから少し離れた場所に来た。
いったい、何を話すつもりなんだろう……?
「おっす」
待ち合わせ場所の駅に着くと、既に加藤くんが来ていた。
「ねえ、加藤くんは小森さんのことをよく知っているの?」
「いや、俺も会うのは初めてだな。先輩だと思ったら、ちょっと緊張するよな」
加藤くんはそう言って、おどけて笑った。
そうこうしていると、雪谷くんと小森さんが現れた。
「お待たせ」
「はじめまして、荻目さん、加藤くん」
小森さんは優しく笑った。その笑顔からは、人柄の良さがあふれていた。
「……はじめまして」
一方の私は固い笑顔で挨拶を返した。
すると、雪谷くんは呆れた顔をした。
「そんなに緊張するなよ。この人、中身はほぼ中学生だから」
「ちょっと淳くん! そんなことないでしょ!」
小森さんは笑いながら雪谷くんの肩を叩いた。
……ずいぶんと仲が良さそうですね。
「じゃ、さっそく現場に行こうか」
雪谷くんはくるりと向きを変えて歩き出した。
雪谷くんと小森さんが並んで歩く後ろを、私と加藤くんが付いていく。
目的最優先の雪谷くんは、何も言わずにすたすたと歩いている。
でも、ときどき小森さんが話しかけると、ちゃんと顔を見て、にっこりとしながら答えてあげていた。
どこからどう見ても、カップルだ。
私は小森さんの背中を見つめながら歩いた。
この人は、きっと私の知らない雪谷くんを知っているんだ。
しかも、雪谷くんの不思議な力のことも知っている。
私が初めてそれを見た時は「黙っててくれ」って言われたのに。私との二人だけの秘密だったのに。小森さんには自分から教えちゃうんだなあ。
「華香ちゃん」
加藤くんがこそっと話しかけてきた。
「今日、体調悪かったりする?」
「え、なんで」
「ちょっと怖い顔してたから。無理はしないでね」
え。
私は思わず自分の顔を触った。
どうして怖い顔なんか……。
「ありがとう、平気だよ」
そう答えたものの、私はなんとなく自信がなかった。
「ここだな」
しばらく川沿いを歩いて、橋までたどり着いた。
「この橋から落としたんだよな」
「うん」
私は川を見た。太陽の光が反射して、水の中はよく見えない。
目をこらしてみると、どうやら水草が生い茂っていて、川の流れに沿って真横になっていた。
「流されてるってことはないんスか?」
加藤くんが聞いた。
「大きめの金属製のキーホルダーだから、そんなに簡単には流されないと思う」
「じゃあ、さっさと始めようか」
雪谷くんはそう言って、鞄から折りたたみの椅子と簡易テーブルを出して広げた。
そんな用意のいいことをするとは思っておらず、私は驚いた。
「気が利くじゃん」
「またにらまれたら困るからな」
雪谷くんは笑った。それを見て、私はやる気が出てきた。
折りたたみ椅子に座って、考える。
世の中には、いろんな魚がいる。夏休みに、水族館で見た。まあ、どれも似たような形で、名前は覚えられなかったけど……。
今日は、水の中で探し物をする。それなら、泳ぎが得意で器用な生き物がいい。
ようし、決まったぞ。
私はテーブルにセロファンの折り紙を広げて折り始めた。一応、紙よりも水に強そうな素材だ。
小森さんのキーホルダーを見つけるために。
そう、小森さん。雪谷くんの彼女。
頭の奥に、さっき見た小森さんの背中が浮かんだ。
雪谷くんに親しげに話しかける小森さん。それに笑顔で答える雪谷くん。
なんだかもやもやしたまま、私は流れる手つきで折り紙を仕上げた。
「はい完成」
「すごい!」
小森さんは歓声を上げた。
「イルカだね! 上手!」
小森さんに勢いよく褒められた。でも、なんだか素直に喜べないのはどうしてだろう。
今回折ったのは、イルカ。水族館で見たパフォーマンスで、見事な芸を披露していた。
探し物をするなら、川魚なんかよりもずっと適任だと思ったのだ。
「イルカかあ、めっちゃいいね」
加藤くんはいつも通り、笑顔で私の折り紙を褒めてくれた。えへへ。
「川だから、てっきり鮎とか折ると思ったよ」
「……ごめん、鮎がどんな魚だったか、思い浮かばないかも」
私はあまり魚に詳しくなかった。
「よし、やろう」
私はいつも通り、折り紙のイルカを雪谷くんに渡した。
雪谷くんがふうっと息を吹きかけると、折り紙のイルカは優しく光ってから、ケケケっと鳴いた。
「いいか、川の中のキーホルダーを探すんだ。行ってこい!」
雪谷くんが折り紙のイルカを川に放つと、それはすいすいと泳いだ。
だけど、とてもキーホルダーを探しているようには見えない。ただ楽しそうに、水面を勢いよく泳いでいるだけだ。
「おい、イルカ! 真面目にやれ!」
雪谷くんからの叱責もむなしく、折り紙のイルカはすぐに動かなくなってしまった。
「どうしたの淳。今日調子悪い?」
「いや、いつも通りだけど」
加藤くんからの質問に、雪谷くんはむすっとして答えた。
「荻目はどうだ」
雪谷くんは私を見た。
「別に……いつも通り」
そう答えたけど、雪谷くんは疑うような目で私のことを見ている。
「もう一回折るね」
私はその視線を避けながら、もう一度イルカを作った。
雪谷くんの力を得たイルカは、勢いよく水面を泳いでから、また止まってしまった。
「ねえ、淳くん。大丈夫?」
小森さんが心配そうに聞いた。
「んー、ちょっと作戦会議しよう」
雪谷くんはそう言い、折り紙制作は一時中断することになった。
「やっぱり川魚の方がよかったのかな?」
「いや、そういうことじゃないと思う」
雪谷くんは真剣な顔で私を見た。
「なあ荻目、やっぱり今日のお前は何か変だよ」
「ええ? なんでよ。変なのは雪谷くんの力かもしれないじゃん」
しかし、雪谷くんは首を横に振った。
「あのさ、俺には折り紙の感情がわかるって、前に話したよな」
そういえば、そんな話があった。綾奈の恋愛相談のときだ。
「うん、そうだったね」
「今日のイルカは、いつもと違う。相手のためを思う、メラメラっと燃えるような感じがないんだよな。小森さんと初対面だから、やりづらいのかな?」
「そうなの?」
小森さんが口を挟んだ。
「ごめんね荻目さん。会ったこともないのに、いきなり探し物なんてお願いしちゃって。無理はしなくていいからね」
「いえ、別に……」
私は考え込んだ。うーん、本当にそうなのかな。
私は、小森さんを助けたいと思って、わざわざここまで来たつもりだったのにな……。
「あの、ちょっと」
加藤くんが手を上げた。
「華香ちゃんと話したいんだけど、いい?」
私は加藤くんに連れられて、雪谷くんたちから少し離れた場所に来た。
いったい、何を話すつもりなんだろう……?



