折り紙少女と不思議な力 ~君の手の上で、私の折り紙は動き出す~

 夏休みが終わり、二学期が始まった。
 それにしても、今年の夏休みは楽しかったなあ。
 綾奈はとうとう三上くんから告られて、二人は付き合い始めた!
 二人でどこに行った、何をした、という話を、私はドキドキしながら聞いていた。
 また、雪谷くんや加藤くんともすっかり仲良くなり、綾奈も入れた四人で水族館に行った。
 たくさんの魚が泳いでいるのを見て、今度は魚の折り紙もいいな、なんて思った。
 紙だけど、雪谷くんの力なら水の中を泳げるようになるのかな?

 今日は始業式。雪谷くんたちに会うのは水族館以来だ。
 久しぶりに顔を合わせた私たちは、夏休みの思い出を語り合った。
「はいこれハワイ土産」
 加藤くんは私たちにパイナップルの形をしたクッキーをくれた。
 夏休みに家族でハワイに行ったらしい。というか、毎年行っているらしい。すごいな。
 私も家族旅行の話をした。国内だけど。
 綾奈は、付き合い始めた三上くんの話ばっかり。でも男子二人はあまり興味がないらしく、適当なところで話を切り上げられてしまった。
 次は雪谷くんの順番だ。
「淳はさ、夏休みに小森(こもり)さんと出かけたりしたの?」
「ああ、遊園地とかに行ったよ。めっちゃ暑かった」
 突然知らない名前が出てきて、私と綾奈は顔を見合わせた。
「小森さんって誰?」
「部活の先輩だった人。もう卒業したけど」
「え、雪谷くんって部活やってるの?」
 夏休みの思い出よりも、そっちの方が気になった。私は雪谷くんのことを帰宅部だと思い込んでいた。
「数学研究部。まあ、文化祭前くらいしかまともな活動をしないから、ほぼ帰宅部だよ」
 何それ、部活なの? 勉強なの? そんな部活があったなんて全く知らなかったな……。
「っていうかさ」
 加藤くんはニヤニヤしながら言った。
「淳の彼女でしょ」
「ええっ⁉」
 私と綾奈は飛び上がって驚いた。
「ちょっと! 彼女いるなら言ってよ! しかも高校生なの⁉」
 恋バナ好きな綾奈がはしゃぎだした。
「そんなのいちいち言うかよ。俺は黒田みたいな色ボケとは違うんだよ」
「んなっ! 誰が色ボケか!」
 綾奈が吠えて、加藤くんはけらけらと笑った。
 その後、興味津々の綾奈は雪谷くんを質問攻めにして、いろいろなことを聞き出した。
 小森さんの卒業の直前に告られて付き合い始めたこと。年上だから、付き合ってからもさん付けで呼んでいること。週末によく会っていること。
 雪谷くんは照れているのか、あまり積極的には恋人の話をしたくない様子だった。
 私は、そのやり取りをどこか遠い話のように聞いていた。
 ……そっか。雪谷くんに、彼女か。
 なんだかんだ顔がよくて、ぶっきらぼうだけど根は優しいし、彼女くらいいても不思議じゃない。
 でも、なんだろう。
 雪谷くんが、私の知らない女の子と一緒にいる姿は、なぜかイメージしづらかった。
 そのせいか、胸の中がもやもやする。
「写真見せてよ!」
「はいはい」
 雪谷くんは渋々といった感じでスマホを開いた。
 そこには、笑顔の雪谷くんと一緒に、眼鏡をかけた女の人も笑顔で写っていた。
「……おー、いいね」
 綾奈の反応が鈍い。多分、私と同じことを考えている。
 雪谷くんの彼女で、しかも高校生ということで、私は勝手にすごい人を想像していた。
 でも小森さんは、思っていたより普通、というか地味な人だった。
 そして、そんな恋人の横に立つ雪谷くんの笑顔は、なんだか眩しくて見ていられなかった。

 *
 
 数日後、雪谷くんに呼びかけられて、私たちは久々に音楽室に集まった。
「あの……ちょっと助けてほしくて」
 雪谷くんは真剣な顔で言った。そんなことを言うなんて、珍しい。
「なんでも言ってよ。私たちでよければ力になるから」
 私は張り切って言った。綾奈や加藤くんも同じようなことを言った。
「ありがとう。実は、探し物を手伝ってほしいんだよ」
「お! じゃあまた華香ちゃんの出番じゃない?」
 加藤くんは嬉しそうに言った。以前、加藤くんのイヤリングを見つけてあげたことがあるので、その印象からだろう。
「ああ、俺もそう思ってる。実は、川にキーホルダーを落としたらしくて。川に入って探すわけにいかないから、荻目の折り紙でなんとかならないかなって考えたんだよ」
 なるほど、魚の折り紙とかで、川の中を探したいってことか。そんなことできるのかな?
 でも、私にはそれよりも引っかかる部分があった。
「ねえ、ちょっと待って。『らしくて』って何? 雪谷くんの話じゃないの?」
「ああ……うん。小森さん」
 雪谷くんはぼそっと言った。
「ええ? 小森さんにも不思議な力のことを話したの? 秘密なんじゃなかったっけ」
 加藤くんはニヤニヤしながら言った。雪谷くんは加藤くんのことをじろりと見た。
「いいや、話してない。これから話す」
「いやどっちでも同じだから!」
 そんな二人のやり取りは、また遠くで聞こえているような感覚だった。
 ふーん、そっか。小森さん、か。
 雪谷くんの、彼女さん。前に写真で見た、あの眼鏡の人。
 会ったこともない人だけど、困っているみたいだし、助けてあげたいよね。
「うん、わかった。私、頑張るよ」
「本当? ありがとう」
 雪谷くんはにっこりと笑った。
 それは、もう何度も見たことがある笑顔のはずなのに、なぜか目の前の雪谷くんは私の知らない人のように感じられた。