そして数週間後に、綾奈から三上くんのことで相談が来た。
「返信が来ないんです……もう一週間以上なんです……」
綾奈は机に突っ伏したまま言った。
あの陽気な綾奈は、どこに行ってしまったのか。
「塾では会わないの?」
「会う。そして喋るけど、前よりちょっとギクシャクしてる気がするんだよ……」
うーん、それは確かに心配だけど。
前に聞いた話はとても仲がよさそうだったから、何かの間違いなんじゃないの?
私はそう思ったけど、綾奈は深刻に捉えているようだった。
「しつこかったかな……塾では周囲を気にして喋ってくれるだけで、内心は私のこと嫌なんじゃないかな……」
綾奈は突っ伏したまま頭を抱えた。
「聞いてみたらいいじゃない。送ったメッセージ届かなかった? って」
綾奈は顔を上げた。この世の終わりみたいな表情をしている。
「それって、嫌われてることの答え合わせだよね……『ごめん、黒田さん。もうメッセージ、送ってこないでほしいんだ』って。うぐう」
綾奈は最悪の事態を想像して、自らダメージを受けてしまった。もう重症だ。
これはちょっと、私一人の手に負えないかも……。
そう思ったときに、いいことを思い付いた。
そうだ、私には、モテて経験豊富そうな友達がいたんだ!
*
私は、音楽室に雪谷くんと加藤くんを呼び出した。綾奈の恋愛相談のためだ。もちろん綾奈も一緒。
クラスのイケメンツートップの二人はモテる。彼らなら、恋愛の話には強いだろうと踏んだのだ。
「……というわけなんだけど、どう思う?」
私が事情を説明すると、加藤くんは顎に手を置いて考え込んだ。
一方の雪谷くんはすぐに答えを出した。
「聞けば終わりじゃね?」
「バカ言わないで! 嫌われてたらどうするの!」
綾奈は思わず叫んだ。私は頭を抱えた。
「雪谷くん、それができないから悩んでるんでしょ」
「……そっか、ごめん」
どうやら私は相談する相手を完全に間違えたようだ。
「あの、想像でしかないけどさ」
加藤くんが口を開いた。
「俺が聞いた限りでは、嫌ってるって感じはしないんだよな。だって、ちょっと急すぎるでしょ」
「じゃあなんで返信がないの!」
綾奈はまた弾けた。
「いや、それはわかんないけど……その人の事情があるかもしれないじゃん」
「事情ってなんなの……」
今度はしぼんでしまった。
ああ、こんな感じになるなら、加藤くんと二人きりで話し合った方がよかったかな……。
すると、綾奈は私を見て言った。
「ねえ、華香の折り紙って、飛べたよね? 三上くんの様子、探ったりできないかな……?」
「えええ⁉」
綾奈のとんでもない提案に、私は飛び上がりそうになってしまった。
「そんな、ストーカーみたいなことはちょっと……」
「そもそも、折り紙を飛ばしたところで、何かわかるかね?」
加藤くんはそう言ってみんなの顔を見た。
確かにその通りだ。動いたり、鳴いたり、匂いを嗅いだりはできるかもしれないけど、遠隔カメラのようなすごいことはできない気がする。
「まあ、感情を探ったりはできるかもしれないな」
「感情を探る?」
雪谷くんが不思議なことを言うので、私は思わず聞いた。
「ああ、折り紙の感情が伝わってくるだろ? だから、折り紙を飛ばして見てきてもらって、その感情を読めば何かわかるんじゃないかな」
私と他の二人は、雪谷くんの話を聞いてぽかんとしていた。
「え、感情が、伝わってくる……?」
「うん。……あれ、俺だけ?」
「多分、そうだね……」
それは雪谷くんにとっての当たり前なのかもしれないけど、私たちには全然違う。
綾奈は私に向き直り、手を取った。
「華香、お願い。やってみてよ」
綾奈は私の目をまっすぐ見た。その目から必死さが伝わってくる。
「ええ? もう、わかったよ……」
はあ、とため息をついてから、綾奈のためだ! と心の中で気合を入れた。
机に向かって、何を折るべきかを考える。
空を飛ぶ生き物といえば、鳥。
綾奈は、三上くんの気持ちが知りたい。だから、人の気持ちを伝える鳥がいい。
ようし、決まったぞ。
私はグレーの折り紙を広げ、流れるような手つきで折り始めた。
どうか、綾奈が安心できますように。
そんな想いを込めて、私は鳩を折った。
「伝書鳩っていうでしょ。手紙を送ったりする鳩。人の気持ちを伝えたりするなら、これがいいと思ったの」
「いいチョイスだね。さすが華香ちゃん」
加藤くんはにっこりと笑って言った。その素直な褒め言葉に、私は誇らしい気持ちになった。
いつも通り、折り紙の鳩を雪谷くんに手渡した。
雪谷くんが息を吹きかけると、鳩は温かい光に包まれて、クルックーと鳴いた。
「いいか、三上くんの様子を見てくるんだ。終わったら帰ってきてくれ。そら行けっ!」
すると、折り紙の鳩はふわりと飛び立ち、窓から外へゆっくりと飛んで行った。
雪谷くんは綾奈を見た。
「時間がかかりそうだな。今日のところはここまでかな」
「……うん、みんな、ありがとう」
綾奈はまだ心配そうな顔をしている。
「大丈夫だよ、きっと」
私は本心からそう言った。
きっとこれは何かの間違い。ああ、どうか、早くいつもの綾奈に戻りますように。
「返信が来ないんです……もう一週間以上なんです……」
綾奈は机に突っ伏したまま言った。
あの陽気な綾奈は、どこに行ってしまったのか。
「塾では会わないの?」
「会う。そして喋るけど、前よりちょっとギクシャクしてる気がするんだよ……」
うーん、それは確かに心配だけど。
前に聞いた話はとても仲がよさそうだったから、何かの間違いなんじゃないの?
私はそう思ったけど、綾奈は深刻に捉えているようだった。
「しつこかったかな……塾では周囲を気にして喋ってくれるだけで、内心は私のこと嫌なんじゃないかな……」
綾奈は突っ伏したまま頭を抱えた。
「聞いてみたらいいじゃない。送ったメッセージ届かなかった? って」
綾奈は顔を上げた。この世の終わりみたいな表情をしている。
「それって、嫌われてることの答え合わせだよね……『ごめん、黒田さん。もうメッセージ、送ってこないでほしいんだ』って。うぐう」
綾奈は最悪の事態を想像して、自らダメージを受けてしまった。もう重症だ。
これはちょっと、私一人の手に負えないかも……。
そう思ったときに、いいことを思い付いた。
そうだ、私には、モテて経験豊富そうな友達がいたんだ!
*
私は、音楽室に雪谷くんと加藤くんを呼び出した。綾奈の恋愛相談のためだ。もちろん綾奈も一緒。
クラスのイケメンツートップの二人はモテる。彼らなら、恋愛の話には強いだろうと踏んだのだ。
「……というわけなんだけど、どう思う?」
私が事情を説明すると、加藤くんは顎に手を置いて考え込んだ。
一方の雪谷くんはすぐに答えを出した。
「聞けば終わりじゃね?」
「バカ言わないで! 嫌われてたらどうするの!」
綾奈は思わず叫んだ。私は頭を抱えた。
「雪谷くん、それができないから悩んでるんでしょ」
「……そっか、ごめん」
どうやら私は相談する相手を完全に間違えたようだ。
「あの、想像でしかないけどさ」
加藤くんが口を開いた。
「俺が聞いた限りでは、嫌ってるって感じはしないんだよな。だって、ちょっと急すぎるでしょ」
「じゃあなんで返信がないの!」
綾奈はまた弾けた。
「いや、それはわかんないけど……その人の事情があるかもしれないじゃん」
「事情ってなんなの……」
今度はしぼんでしまった。
ああ、こんな感じになるなら、加藤くんと二人きりで話し合った方がよかったかな……。
すると、綾奈は私を見て言った。
「ねえ、華香の折り紙って、飛べたよね? 三上くんの様子、探ったりできないかな……?」
「えええ⁉」
綾奈のとんでもない提案に、私は飛び上がりそうになってしまった。
「そんな、ストーカーみたいなことはちょっと……」
「そもそも、折り紙を飛ばしたところで、何かわかるかね?」
加藤くんはそう言ってみんなの顔を見た。
確かにその通りだ。動いたり、鳴いたり、匂いを嗅いだりはできるかもしれないけど、遠隔カメラのようなすごいことはできない気がする。
「まあ、感情を探ったりはできるかもしれないな」
「感情を探る?」
雪谷くんが不思議なことを言うので、私は思わず聞いた。
「ああ、折り紙の感情が伝わってくるだろ? だから、折り紙を飛ばして見てきてもらって、その感情を読めば何かわかるんじゃないかな」
私と他の二人は、雪谷くんの話を聞いてぽかんとしていた。
「え、感情が、伝わってくる……?」
「うん。……あれ、俺だけ?」
「多分、そうだね……」
それは雪谷くんにとっての当たり前なのかもしれないけど、私たちには全然違う。
綾奈は私に向き直り、手を取った。
「華香、お願い。やってみてよ」
綾奈は私の目をまっすぐ見た。その目から必死さが伝わってくる。
「ええ? もう、わかったよ……」
はあ、とため息をついてから、綾奈のためだ! と心の中で気合を入れた。
机に向かって、何を折るべきかを考える。
空を飛ぶ生き物といえば、鳥。
綾奈は、三上くんの気持ちが知りたい。だから、人の気持ちを伝える鳥がいい。
ようし、決まったぞ。
私はグレーの折り紙を広げ、流れるような手つきで折り始めた。
どうか、綾奈が安心できますように。
そんな想いを込めて、私は鳩を折った。
「伝書鳩っていうでしょ。手紙を送ったりする鳩。人の気持ちを伝えたりするなら、これがいいと思ったの」
「いいチョイスだね。さすが華香ちゃん」
加藤くんはにっこりと笑って言った。その素直な褒め言葉に、私は誇らしい気持ちになった。
いつも通り、折り紙の鳩を雪谷くんに手渡した。
雪谷くんが息を吹きかけると、鳩は温かい光に包まれて、クルックーと鳴いた。
「いいか、三上くんの様子を見てくるんだ。終わったら帰ってきてくれ。そら行けっ!」
すると、折り紙の鳩はふわりと飛び立ち、窓から外へゆっくりと飛んで行った。
雪谷くんは綾奈を見た。
「時間がかかりそうだな。今日のところはここまでかな」
「……うん、みんな、ありがとう」
綾奈はまだ心配そうな顔をしている。
「大丈夫だよ、きっと」
私は本心からそう言った。
きっとこれは何かの間違い。ああ、どうか、早くいつもの綾奈に戻りますように。



