「全員集合〜」
野球部の顧問である山田先生が、放課後の練習前にグラウンドへ現れて部員を集合させた。
「えー、知ってる奴もいるかと思うが、黒峰が今日から野球部に入部する」
山田先生は黒峰先輩の入部が余程嬉しいのか、顔がふやけていた。いつも優しくて大らかな先生の顔がさらに、だ。
「黒峰聡です。二年です。中学の終わりに肩を怪我してから、あんま投げれてないけどピッチャーです。よろしくお願いします」
黒峰先輩は淡々と挨拶をして、三年生や二年生、僕たち一年生を見回して、軽くお辞儀をした。
「……っ、黒峰〜!!!お前ー!やっと入部してくれるのかっ!」
キャプテンの丸田先輩は嬉しさのあまり、黒峰先輩に抱きついた。
「う、うわっ」
その拍子に黒峰先輩はグラっとよろけた。
「くろみねぇ〜、この時期に入ってくれるなんて……お前は本当に神様だよぉ。ありがとなぁ」
泣きながら喋る清河先輩は腕に巻いたギプスで涙を拭っている。
「え、まじ?黒峰先輩、入ってくれんの」
「うそうそうそ、俺らあの人と野球できんの」
同級生の星野と宮下も驚いて、僕の肩を揺さぶっている。
「なっ、なんで入部してくれたんですか」
星野が嬉しさの勢い余って黒峰先輩に質問をした。
「そこのふわふわ頭の熱量に負けた」
「ふわふわ頭って?」
さらに星野が首を傾げる。
「佐藤楓。俺は楓がいるから、野球部に入ることにした」
「まじ……っすか」
今度は宮下が目をぱっちりと開いて返事をした。
「佐藤〜!!!お前、俺たちが知らないうちに黒峰を勧誘し続けてくれてたんだな」
丸田先輩が僕の頭をガシガシと撫でた。
さらに、星野と宮下も僕の肩を掴んで揺らすから、僕の視界はぐわんぐわんと揺れまくる。
「はい。ストップ。楓に触るのは終わり」
突然、視界の揺れが収まったかと思うと、誰かの胸元にぐいっと引き寄せられた。
かと思うと、すぐに頭の上にずしりと重たい何かが乗った。
「く、黒峰先輩!?」
「んー?」
僕の頭の上に、のしっと顎を乗せた黒峰先輩が返事をした。
それに、チームメイトの方を見ると、みんなキョトンと目を丸くしている。
「あんま楓をベタベタ触って欲しくないなーって」
「へ!?さわっ……え?」
黒峰先輩は何を言い出しているのだろう。
一生懸命、理解しようとするのに頭が追いつかない。
「ぷっ、ふふっ」
「あははははっ」
「くくくっ」
僕と黒峰先輩のやり取りを見ていたみんなが突然笑い始めた。
「え、なになに。なんでみんな笑って……」
「いやー、佐藤。でっかい猫ちゃんに気に入られちゃったな」
丸田先輩が爆笑しながら言った。
「猫というか、狼っぽいけどね」
続けて、清河先輩まで笑った。
「あのっ、ええ!?」
「昨日、覚悟しとけって言っただろー」
僕が戸惑っていると、黒峰先輩が僕の頭上でぼそりと言った。
「覚悟ってそういう……てっきり、野球だけかと」
「んなわけ。野球も恋愛も、全部だよ」
「……っ」
あまりにも黒峰先輩がまっすぐに甘い言葉を投げつけてくるから、心臓がびくんっと跳ねた。
「そう……ですか」
こういうことに免疫がない僕は、過剰に反応してしまう。
「佐藤、顔真っ赤になってんぞ」
宮下が僕に向かって言った。
「そりゃ、こんな男前にバックハグされてみ、誰だってドキドキすんだろ」
そう言って、丸田先輩が笑った。
「ま、たしかにそっすね。うわー、俺もそんな男になりてえー」
宮下は丸田先輩の言葉を聞くと、頭を抱えて叫んだ。
「ははっ。じゃ、野球部の練習、再開しますか」
丸田先輩が嬉しそうに大きな声でみんなに向けて言った。
「はいっ!」
僕は黒峰先輩に包まれながら、元気に返事をして、黒峰先輩も「はい」と短く返事をした。
それから数週間が経ち、公式戦に向けてたった10人の野球部員で一生懸命活動をしている。
黒峰先輩の肩は調子が良いらしく、ビシビシとキレのあるボールを投げまくっていた。
ただ、山田先生が黒峰先輩の肩に無理がないようにっていう配慮をしたらしく、黒峰先輩を僕専属の技術指導担当に任命した。
だけど、下手くそな僕に教える先輩は厳しくて甘い。
「あーもう、だから違うって。そこは腕をもっと上げんだよ」
「こうですかっ」
「……違う。それは上げたんじゃなくて、伸ばしただけ」
黒峰先輩に今日も特別指導をしてもらってるのに、下手くそが改善されそうにない。
「うぅ……すみません……こんなに教えてもらってるのに全然できなくて」
「別にいいんだよ。うまく出来たらできたで嬉しいし、できなかったらそれはそれで可愛いからな」
黒峰先輩はすぐに僕をこうして甘やかそうとする。
「それ、止めてください!」
「なんで。本心なのに」
「ド、ドキドキして集中できなくなる……」
「公式戦本番なんてもっとドキドキするけど?」
「うるさいですっ、先輩も僕にドキドキすれば良いのに」
「十分してる」
「えっ」
連日の練習で少し日焼けをした黒峰先輩を見上げると、優しく僕を見て微笑んでいた。
その姿は僕が中学生の頃に遠目で見た、野球帽を被り、クールな目元を細めて笑うかっこいい姿と同じだった。
僕が野球を始めたきっかけであり、僕の初恋の人。
当時はそんな人の隣に立っているなんて全く考えられなかった。
「あの!この場で言うことじゃないかもなんですけど。……先輩、好きです」
「あぁ。俺も好きだよ」
夏が始まりかけた放課後の練習。
汗をかいて、土にまみれて、必死に動いて。
僕は今日も大好きな黒峰先輩と部活をしています。
野球部の顧問である山田先生が、放課後の練習前にグラウンドへ現れて部員を集合させた。
「えー、知ってる奴もいるかと思うが、黒峰が今日から野球部に入部する」
山田先生は黒峰先輩の入部が余程嬉しいのか、顔がふやけていた。いつも優しくて大らかな先生の顔がさらに、だ。
「黒峰聡です。二年です。中学の終わりに肩を怪我してから、あんま投げれてないけどピッチャーです。よろしくお願いします」
黒峰先輩は淡々と挨拶をして、三年生や二年生、僕たち一年生を見回して、軽くお辞儀をした。
「……っ、黒峰〜!!!お前ー!やっと入部してくれるのかっ!」
キャプテンの丸田先輩は嬉しさのあまり、黒峰先輩に抱きついた。
「う、うわっ」
その拍子に黒峰先輩はグラっとよろけた。
「くろみねぇ〜、この時期に入ってくれるなんて……お前は本当に神様だよぉ。ありがとなぁ」
泣きながら喋る清河先輩は腕に巻いたギプスで涙を拭っている。
「え、まじ?黒峰先輩、入ってくれんの」
「うそうそうそ、俺らあの人と野球できんの」
同級生の星野と宮下も驚いて、僕の肩を揺さぶっている。
「なっ、なんで入部してくれたんですか」
星野が嬉しさの勢い余って黒峰先輩に質問をした。
「そこのふわふわ頭の熱量に負けた」
「ふわふわ頭って?」
さらに星野が首を傾げる。
「佐藤楓。俺は楓がいるから、野球部に入ることにした」
「まじ……っすか」
今度は宮下が目をぱっちりと開いて返事をした。
「佐藤〜!!!お前、俺たちが知らないうちに黒峰を勧誘し続けてくれてたんだな」
丸田先輩が僕の頭をガシガシと撫でた。
さらに、星野と宮下も僕の肩を掴んで揺らすから、僕の視界はぐわんぐわんと揺れまくる。
「はい。ストップ。楓に触るのは終わり」
突然、視界の揺れが収まったかと思うと、誰かの胸元にぐいっと引き寄せられた。
かと思うと、すぐに頭の上にずしりと重たい何かが乗った。
「く、黒峰先輩!?」
「んー?」
僕の頭の上に、のしっと顎を乗せた黒峰先輩が返事をした。
それに、チームメイトの方を見ると、みんなキョトンと目を丸くしている。
「あんま楓をベタベタ触って欲しくないなーって」
「へ!?さわっ……え?」
黒峰先輩は何を言い出しているのだろう。
一生懸命、理解しようとするのに頭が追いつかない。
「ぷっ、ふふっ」
「あははははっ」
「くくくっ」
僕と黒峰先輩のやり取りを見ていたみんなが突然笑い始めた。
「え、なになに。なんでみんな笑って……」
「いやー、佐藤。でっかい猫ちゃんに気に入られちゃったな」
丸田先輩が爆笑しながら言った。
「猫というか、狼っぽいけどね」
続けて、清河先輩まで笑った。
「あのっ、ええ!?」
「昨日、覚悟しとけって言っただろー」
僕が戸惑っていると、黒峰先輩が僕の頭上でぼそりと言った。
「覚悟ってそういう……てっきり、野球だけかと」
「んなわけ。野球も恋愛も、全部だよ」
「……っ」
あまりにも黒峰先輩がまっすぐに甘い言葉を投げつけてくるから、心臓がびくんっと跳ねた。
「そう……ですか」
こういうことに免疫がない僕は、過剰に反応してしまう。
「佐藤、顔真っ赤になってんぞ」
宮下が僕に向かって言った。
「そりゃ、こんな男前にバックハグされてみ、誰だってドキドキすんだろ」
そう言って、丸田先輩が笑った。
「ま、たしかにそっすね。うわー、俺もそんな男になりてえー」
宮下は丸田先輩の言葉を聞くと、頭を抱えて叫んだ。
「ははっ。じゃ、野球部の練習、再開しますか」
丸田先輩が嬉しそうに大きな声でみんなに向けて言った。
「はいっ!」
僕は黒峰先輩に包まれながら、元気に返事をして、黒峰先輩も「はい」と短く返事をした。
それから数週間が経ち、公式戦に向けてたった10人の野球部員で一生懸命活動をしている。
黒峰先輩の肩は調子が良いらしく、ビシビシとキレのあるボールを投げまくっていた。
ただ、山田先生が黒峰先輩の肩に無理がないようにっていう配慮をしたらしく、黒峰先輩を僕専属の技術指導担当に任命した。
だけど、下手くそな僕に教える先輩は厳しくて甘い。
「あーもう、だから違うって。そこは腕をもっと上げんだよ」
「こうですかっ」
「……違う。それは上げたんじゃなくて、伸ばしただけ」
黒峰先輩に今日も特別指導をしてもらってるのに、下手くそが改善されそうにない。
「うぅ……すみません……こんなに教えてもらってるのに全然できなくて」
「別にいいんだよ。うまく出来たらできたで嬉しいし、できなかったらそれはそれで可愛いからな」
黒峰先輩はすぐに僕をこうして甘やかそうとする。
「それ、止めてください!」
「なんで。本心なのに」
「ド、ドキドキして集中できなくなる……」
「公式戦本番なんてもっとドキドキするけど?」
「うるさいですっ、先輩も僕にドキドキすれば良いのに」
「十分してる」
「えっ」
連日の練習で少し日焼けをした黒峰先輩を見上げると、優しく僕を見て微笑んでいた。
その姿は僕が中学生の頃に遠目で見た、野球帽を被り、クールな目元を細めて笑うかっこいい姿と同じだった。
僕が野球を始めたきっかけであり、僕の初恋の人。
当時はそんな人の隣に立っているなんて全く考えられなかった。
「あの!この場で言うことじゃないかもなんですけど。……先輩、好きです」
「あぁ。俺も好きだよ」
夏が始まりかけた放課後の練習。
汗をかいて、土にまみれて、必死に動いて。
僕は今日も大好きな黒峰先輩と部活をしています。



