「黒峰先輩っ!!今日こそ野球部に入ってくださいっ」
「嫌だけど」
春の放課後。軽やかな風が教室のカーテンを揺らす中、佐藤楓のお願いは、今日も黒峰先輩に受け入れてもらえないらしい。
*
この春、高校1年生になった僕は、入学してから真っ先に野球部への入部届を出した。
「は、はじめましてっ。僕、佐藤楓と言います!野球は、ほぼ初心者であんまり……というか、すっごく下手ですが、頑張りたいと思ってます!よろしくお願いしますっ」
放課後になり、僕は初めて会う野球部の先輩と同級生に向かって、地毛である茶色くて、ふわっとした頭を深く下げた。
「おう、よろしくな!」
キャプテンの丸田先輩が爽やかな笑顔で、元気よく頷いてくれた。
「ただな、新入生の3人にはかなーり言いづらいんだが、俺たち野球部は人数不足だ!というか、試合に出れるか微妙なくらいだ」
相変わらず爽やかな顔をした丸田がはっきりと言った。
「え?……人数不足?」
僕は丸太先輩の言ってる意味が分からず、今日初めて会った先輩だというのにタメ口で返事をしてしまった。
「佐藤たちが入ってくれて、ちょうど9人になったんだけど。今、清河が怪我で試合はできないんだよ」
丸田先輩がちらっと視線を向けた先には、申し訳なさそうに頭を掻く清河先輩がいた。
「でもまあ、あれだ。佐藤は野球が下手だって言ってたけど、俺たち3年にとっては入部してくれて本当に嬉しいよ。ありがとうな!」
せっかく、中学からの念願だった野球部に入れたと思ったのに、試合に必要な9人さえ揃っていないとは思わなかった。
「……あ、はい。でも僕は本当に下手くそで」
何の役にも立てそうに無いです、と言おうとしたけど、丸田先輩や清河先輩の表情は嬉しそうだったから、ごくりと言葉を飲み込んだ。
練習が始まってからは、慣れない野球部の練習に必死に食らいついた。
日が暮れた頃に練習が終わり、へとへとになりながら片付けをする。
校舎の方まで転がっていったボールを拾っていると、背後から声をかけられた。
「これ、ボール」
低くて、ぶっきらぼうな声の方へ振り返ると、168cmの僕よりも10〜15cmくらい背が高い人が立っていた。
「うわぁ……」
背の高さに驚いたのはもちろんだけど、僕が中学の頃に憧れた……いわゆる初恋に近い感情を抱いた人にそっくりだったから思わず声を出してしまった。
「なに」
「い、いえっ。なにも!ボール!ありがとうございます」
僕は片言になりながら両手を差し出し、上からポンっと落とされた野球ボールを受け取った。
その時にチラッと見上げて見たけど、見れば見るほど憧れの人にそっくりだった。
スッと太く通った鼻筋に、シャープだけど角張った顎のライン。
クールな目元にはっきりした眉。
腕と足は身長に相応しい長さで、男子のブレザーの制服が映えまくっている。
小柄で女顔の僕とは真逆な風貌に憧れと同時にドキドキと胸がときめいてしまう。
「ボール、校舎の方まで転がしたんなら、ちゃんと拾いに行けよ。下手くそ」
僕は耳が壊れたのかと思った。
今、このイケメンは何て言ったのだろう。
「ポカンとしてんじゃねーよ。普通にボール見失うだろ」
「え、あぁ」
「お前が余計なところに転がしたんなら、まず先に練習を続行させる前に拾いに行け。できないなら野球なんてするな」
イケメンはムスッとしたまま刺々しい言葉を次々と投げつけてくる。
「わ、わかってますよ!ちゃんとしますもん。というか、誰ですか!そんなに言わなくても」
僕の初恋の人とそっくりな顔で、何て冷たいことを言うんだこの人は。
もう鬼かと思った。
「わかったならいい。道具大事にしろよ。じゃあな」
そう言って、イケメンは僕の目の前からあっさりと去って行った。
なんだったんだ、あの人は。
いくら顔もスタイルも良いからって、僕に言い過ぎだろう。
それに、僕が校舎の方へ転がしたなんて確証はないくせに。
「んん……でも、かっこ良かったな。何年生だろう、あの人」
僕はムカムカとする気持ちを抱えながらも、校門に向かうイケメンの後ろ姿を見つめながら、ぼそっと呟いた。
「嫌だけど」
春の放課後。軽やかな風が教室のカーテンを揺らす中、佐藤楓のお願いは、今日も黒峰先輩に受け入れてもらえないらしい。
*
この春、高校1年生になった僕は、入学してから真っ先に野球部への入部届を出した。
「は、はじめましてっ。僕、佐藤楓と言います!野球は、ほぼ初心者であんまり……というか、すっごく下手ですが、頑張りたいと思ってます!よろしくお願いしますっ」
放課後になり、僕は初めて会う野球部の先輩と同級生に向かって、地毛である茶色くて、ふわっとした頭を深く下げた。
「おう、よろしくな!」
キャプテンの丸田先輩が爽やかな笑顔で、元気よく頷いてくれた。
「ただな、新入生の3人にはかなーり言いづらいんだが、俺たち野球部は人数不足だ!というか、試合に出れるか微妙なくらいだ」
相変わらず爽やかな顔をした丸田がはっきりと言った。
「え?……人数不足?」
僕は丸太先輩の言ってる意味が分からず、今日初めて会った先輩だというのにタメ口で返事をしてしまった。
「佐藤たちが入ってくれて、ちょうど9人になったんだけど。今、清河が怪我で試合はできないんだよ」
丸田先輩がちらっと視線を向けた先には、申し訳なさそうに頭を掻く清河先輩がいた。
「でもまあ、あれだ。佐藤は野球が下手だって言ってたけど、俺たち3年にとっては入部してくれて本当に嬉しいよ。ありがとうな!」
せっかく、中学からの念願だった野球部に入れたと思ったのに、試合に必要な9人さえ揃っていないとは思わなかった。
「……あ、はい。でも僕は本当に下手くそで」
何の役にも立てそうに無いです、と言おうとしたけど、丸田先輩や清河先輩の表情は嬉しそうだったから、ごくりと言葉を飲み込んだ。
練習が始まってからは、慣れない野球部の練習に必死に食らいついた。
日が暮れた頃に練習が終わり、へとへとになりながら片付けをする。
校舎の方まで転がっていったボールを拾っていると、背後から声をかけられた。
「これ、ボール」
低くて、ぶっきらぼうな声の方へ振り返ると、168cmの僕よりも10〜15cmくらい背が高い人が立っていた。
「うわぁ……」
背の高さに驚いたのはもちろんだけど、僕が中学の頃に憧れた……いわゆる初恋に近い感情を抱いた人にそっくりだったから思わず声を出してしまった。
「なに」
「い、いえっ。なにも!ボール!ありがとうございます」
僕は片言になりながら両手を差し出し、上からポンっと落とされた野球ボールを受け取った。
その時にチラッと見上げて見たけど、見れば見るほど憧れの人にそっくりだった。
スッと太く通った鼻筋に、シャープだけど角張った顎のライン。
クールな目元にはっきりした眉。
腕と足は身長に相応しい長さで、男子のブレザーの制服が映えまくっている。
小柄で女顔の僕とは真逆な風貌に憧れと同時にドキドキと胸がときめいてしまう。
「ボール、校舎の方まで転がしたんなら、ちゃんと拾いに行けよ。下手くそ」
僕は耳が壊れたのかと思った。
今、このイケメンは何て言ったのだろう。
「ポカンとしてんじゃねーよ。普通にボール見失うだろ」
「え、あぁ」
「お前が余計なところに転がしたんなら、まず先に練習を続行させる前に拾いに行け。できないなら野球なんてするな」
イケメンはムスッとしたまま刺々しい言葉を次々と投げつけてくる。
「わ、わかってますよ!ちゃんとしますもん。というか、誰ですか!そんなに言わなくても」
僕の初恋の人とそっくりな顔で、何て冷たいことを言うんだこの人は。
もう鬼かと思った。
「わかったならいい。道具大事にしろよ。じゃあな」
そう言って、イケメンは僕の目の前からあっさりと去って行った。
なんだったんだ、あの人は。
いくら顔もスタイルも良いからって、僕に言い過ぎだろう。
それに、僕が校舎の方へ転がしたなんて確証はないくせに。
「んん……でも、かっこ良かったな。何年生だろう、あの人」
僕はムカムカとする気持ちを抱えながらも、校門に向かうイケメンの後ろ姿を見つめながら、ぼそっと呟いた。



