コーチが鳴らすホイッスルを合図に、僕は走り出す。クロスバーが近づいた時。いち、に、と大きく踏み込み……さん! で地面を強く蹴る。
浮遊感。この一瞬だけ、飛んでいる感覚。
遠心力を使って体を仰向けにし、顔が太陽に照らされて一瞬眩しくなる。背を大きく逸らせ、だんだんと落ちていき……ボスッとマットの上に落ちた。
体を起こしてクロスバーを見るも……多少の揺れはあったものの落ちることはなかった。
「やったな、内海。自己新記録だ」
コーチが褒めてくれる。「ありがとうございます!」と頭を下げ元の場所に戻ろうとすると列に並んでいる男子生徒たちと目が合い、逸らされる。
(大会前だから……ピリピリしてるだけ、なんだろうな)
最近僕は調子良く新記録を伸ばすことが出来ていた。初めは仲間たちも「やったな!」と喜んでくれたが、飛ぶたびにクロスバーが高くなっていく僕を見て彼らは日に日に距離を取るようになってしまった。
だからと言って、手を抜くことは出来ない。僕は僕が手が届く範囲まで、飛ぶつもりだ。多少居心地が悪くても。
僕の次に飛ぶ生徒のためにクロスバーが低くなるのを見つめることが気まずくなり目線を逸せば、グラウンドの隅でデッサンをしている男子生徒を見つけた。
(またやってる……)
見かけてから1週間。そして手持ち無沙汰な時に見ると良く目が合う。なぜだ……と考え、もしかしたら彼は僕をモデルにしてくれているのでは⁉︎ と少し舞い上がる。
「おい、内海。ボーッとしてんなし。ここ片付けよろしく」
3年の先輩に声をかけられる。すぐ先にも大会に出る予定のない2年生たちが駄弁っているのに注意すらしない。僕にばかり面倒ごとを押し付けられている……のは気のせいだと思い込み「わかりました」とデッサンしている男子生徒から目を逸らし、もう使わないクロスバーやマットを片付けていく。
*
部活が終わった後、急いで制服に着替えてデッサンをしていた男子生徒の前まで向かう。幸いなことに彼はまだ描いていた。グラウンドにはもう誰もおらず、モデルになる人はいないのに。
夢中で鉛筆を走らせている彼に、しかも初対面だと今更気づき、なんて声をかけたら良いかと迷う。「いつも目合うよね?」……気のせいだったら僕がストーカーみたいになる。「初めまして、絵を見せてください」……も、図々しすぎる。背面跳び以外にあまり人と関わってこなかったことが仇になるとは思わなかった……と悔いながら、声をかける勇気は萎んでいき。
背後を通り過ぎるようにすれ違う形になった。それでも一瞬だけ見える絵。
「……クジラ?」
僕じゃなかったとしても、彼はこちらを見ていたのだから運動している誰かを描いているのだと思っていた。しかし実際に描かれていたのは海面から顔を出しジャンプしているクジラの姿だった。
声を出したことでデッサンしていた男子生徒は肩を跳ねさ僕を振り返り、目を真ん丸にする。
「び……くりした」
「わ、え、えっと……ごめん……勝手に覗いちゃって」
「……ううん。えと……陸上部の内海くんだよね。いつもここから見てるよ」
「アッ、やっぱ見てたんだ」
「気付いてた?」
「流石にあれだけ目が合えば」
「あはは、ごめん。内海くんが飛ぶ姿、俺好きで」
描いてたんだよね。
そう呟きながら、また鉛筆を動かしていく。僕の飛ぶ姿が好きで、僕の絵ではなく。クジラを描いている。
「……?」
「あっ。意味わかんないよね。内海くんが背面跳びする瞬間、クジラがジャンプしてるみたいで。描いてた」
「な……なるほど〜!」
写真や動画でよく見る、クジラが海面から飛び出し背中からバシャン! と水飛沫を上げる姿が諸に描かれている。
ネクタイの色が同じ色なことから、同じ2年生なはずだけれど名前がわからない……。
「名前、聞いてもいい……? 僕は内海 大輝。Eクラス」
「俺は小鳥遊 直哉。美術部。Cクラス」
「1週間前くらいからここでデッサンしてるよね。何かあるの?」
「もうすぐコンテストがあって。何を出そうか考えてて。美術部はほら、絵を描いていれば基本自由だからさ」
「そうか〜。……部活内ピリピリしない?」
「んー、どうかな。みんな絵を描いていて人間関係とかあまり関係ないかも」
「そっか。……羨ましいな」
陸上部は飛ぶ人以外待機だから。注目される分、妬まれてしまう。
気持ちが沈みそうになるのを誤魔化すように「このクジラの絵、いいじゃん。出してみたら?」と尋ねる。
「うーん……まだまだ力量が足りなくて……もっといいものを描きたいんだよね」
「十分上手いのに」
「はは、ありがとう。やっぱり内海くんは──」
「ん?」
小鳥遊は何かを言いかけ「ううん」と首を横に振り道具を片付け始めた。座っていたが立ち上がると案外背が高く、そして体も意外とガッシリしていることに驚く。美術部って小さくて細い子ばかりなイメージだったから。いや、僕が細いだけ? 小鳥遊は眼鏡をクイっと上げて「帰るね」と彼は言う。
「小鳥遊。……部活終わったら、またここに来てもいい?」
今日だけで終わるのは嫌だと、思ってしまった。初対面なのに、こんなに打ち解けることが出来るとは思わなかった。小鳥遊の絵をもっと見たい。間近で見てみたい。僕は部活ではぼっちだけど、ここは居心地がいい気がするから。
小鳥遊は少し驚いた顔した後「もちろん。明日も待ってる」と笑ってくれた。
それからは毎日、部活終わりに小鳥遊の元へ行って描いたものを見せてもらう日常になった。「またクジラじゃん」「内海くんが飛んでる姿だよ」と言う会話を何度も繰り返し、大会を2週間前にした日。
先輩や同級生にまた片付けを押し付けられ、1人で体育倉庫に入り。マットやクロスバーを黙々と片付けていたら扉がガチャン、と閉まる音がした。辺りが一気に薄暗くなり振り返ると鍵がかかる音。慌てて駆け寄り扉を叩いて「まだ! 残ってます!」と声をかけるも、すぐに開けられる気配はない。寧ろ、笑っている複数人の声に冷や汗が背中を伝う。
「自分だけいい気になりやがって」
「内海ぃ。ちょーっとだけ、お仕置きなァ?」
誰だろう。わからない。そこまで人間に興味なかったから。僕のことをよく思っていない人たち。
足音が小さくなっていく気配に「開けて! 開けてください!」と扉をドンドン叩くも、もう誰もいないようだった。
(どうしよう……スマホも、ない……まだ着替えてもないし、鞄も外に置きっぱなしだ……寒い……)
5月で昼間は暖かいとはいえ、夕方になると肌寒くなる。くしゃみをし、もう一度扉を手で押したり引いたりしても当然動かない。
(……ちょっとだけって言ってたけど……ちゃんと、開けてくれるよな……?)
西日が小さな窓から差し込んでいるが、それもだんだんと影っていき。視界は暗闇になっていく。閉じ込めた人たちが戻ってくる気配はない。鍵が職員室になければ教師たちが確認しに来てくれるだろうが、一向に来ないということは、閉じ込めた人がもう鍵を戻してしまったのかもしれない。
(一晩ここのままなのかな……朝も……体育の授業がなければ、放課後までずっとこのまま……いやだ……真っ暗……怖い……寒い……)
体力を消耗しないようにマットの上で体育座りをし、腕で体を摩る。せめて制服を着ていたらよかった。今はユニフォーム姿だから、手足が出ていて寒い。
遠くで学校のチャイムが聞こえた。18時。どんなに遅くても生徒は帰らないといけない。
(お願い、誰か気づいて……教室に置かれたままの鞄に気づいて……!)
追い討ちをかけるようにお腹が大きくなった。登校前に母から「今日はハンバーグよ」と教えてくれたのに。帰ることが出来ない。目を閉じればじわ、と目尻に涙が溜まる。
「だれかたすけて……っ」
────ザッ。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
「内海くん、いる⁉︎」
外から足音が聞こえたと思ったら、息を切らした様子の小鳥遊の声。
絶望し切っていた僕は顔を上げたものの、すぐに声を出すことが出来なくて。はくはくと、口をただ動かしている間にも「内海くん!」と小鳥遊は声を張る。
「……ひゅ、けほっ」
咳き込む。思ったよりも、声が乾いていた。いや、憔悴し切っている。声が、小鳥遊に届かない。焦って扉の方に向かおうとするも、そのまま体はうつ伏せに倒れてしまう。
──あ、まずい。限界かも。
扉を見上げることしか出来ずにいれば、鍵が差し込まれカチャ、と音がした。ギギギ……と開く音がし、中に入り込んできたのは。
「……内海くんッ!」
美術部なのに、案外しっかりしている腕に抱きかかえられる。寒さにぶるぶる震える体は、走り回っていたのかとても熱い小鳥遊の体に温められ、それだけでなんだかとても嬉しくて涙がぶわっと溢れた。
「う、うぅ……っ」
「内海くん、ごめん、ごめんね。見つけるの、遅くなった……! ごめんね、ごめんね……!」
申し訳なさそうに、小鳥遊は僕に謝る。違うのに。とても感謝しているのに。今日もデッサンしながら僕を待ってくれていたのか右手の手のひらは真っ黒だった。
小鳥遊の絵、見たかったな。
なんとか救出された僕はそのまま小鳥遊に付き添われて家に帰り。寒い中放置されたことで翌朝は高熱を出して学校を休むことになってしまった。
学校を休むことは小鳥遊と連絡先を帰り道に交換したから心配させることはない。
だけど。
僕はあの日以降、部活に参加出来なくなってしまった。
浮遊感。この一瞬だけ、飛んでいる感覚。
遠心力を使って体を仰向けにし、顔が太陽に照らされて一瞬眩しくなる。背を大きく逸らせ、だんだんと落ちていき……ボスッとマットの上に落ちた。
体を起こしてクロスバーを見るも……多少の揺れはあったものの落ちることはなかった。
「やったな、内海。自己新記録だ」
コーチが褒めてくれる。「ありがとうございます!」と頭を下げ元の場所に戻ろうとすると列に並んでいる男子生徒たちと目が合い、逸らされる。
(大会前だから……ピリピリしてるだけ、なんだろうな)
最近僕は調子良く新記録を伸ばすことが出来ていた。初めは仲間たちも「やったな!」と喜んでくれたが、飛ぶたびにクロスバーが高くなっていく僕を見て彼らは日に日に距離を取るようになってしまった。
だからと言って、手を抜くことは出来ない。僕は僕が手が届く範囲まで、飛ぶつもりだ。多少居心地が悪くても。
僕の次に飛ぶ生徒のためにクロスバーが低くなるのを見つめることが気まずくなり目線を逸せば、グラウンドの隅でデッサンをしている男子生徒を見つけた。
(またやってる……)
見かけてから1週間。そして手持ち無沙汰な時に見ると良く目が合う。なぜだ……と考え、もしかしたら彼は僕をモデルにしてくれているのでは⁉︎ と少し舞い上がる。
「おい、内海。ボーッとしてんなし。ここ片付けよろしく」
3年の先輩に声をかけられる。すぐ先にも大会に出る予定のない2年生たちが駄弁っているのに注意すらしない。僕にばかり面倒ごとを押し付けられている……のは気のせいだと思い込み「わかりました」とデッサンしている男子生徒から目を逸らし、もう使わないクロスバーやマットを片付けていく。
*
部活が終わった後、急いで制服に着替えてデッサンをしていた男子生徒の前まで向かう。幸いなことに彼はまだ描いていた。グラウンドにはもう誰もおらず、モデルになる人はいないのに。
夢中で鉛筆を走らせている彼に、しかも初対面だと今更気づき、なんて声をかけたら良いかと迷う。「いつも目合うよね?」……気のせいだったら僕がストーカーみたいになる。「初めまして、絵を見せてください」……も、図々しすぎる。背面跳び以外にあまり人と関わってこなかったことが仇になるとは思わなかった……と悔いながら、声をかける勇気は萎んでいき。
背後を通り過ぎるようにすれ違う形になった。それでも一瞬だけ見える絵。
「……クジラ?」
僕じゃなかったとしても、彼はこちらを見ていたのだから運動している誰かを描いているのだと思っていた。しかし実際に描かれていたのは海面から顔を出しジャンプしているクジラの姿だった。
声を出したことでデッサンしていた男子生徒は肩を跳ねさ僕を振り返り、目を真ん丸にする。
「び……くりした」
「わ、え、えっと……ごめん……勝手に覗いちゃって」
「……ううん。えと……陸上部の内海くんだよね。いつもここから見てるよ」
「アッ、やっぱ見てたんだ」
「気付いてた?」
「流石にあれだけ目が合えば」
「あはは、ごめん。内海くんが飛ぶ姿、俺好きで」
描いてたんだよね。
そう呟きながら、また鉛筆を動かしていく。僕の飛ぶ姿が好きで、僕の絵ではなく。クジラを描いている。
「……?」
「あっ。意味わかんないよね。内海くんが背面跳びする瞬間、クジラがジャンプしてるみたいで。描いてた」
「な……なるほど〜!」
写真や動画でよく見る、クジラが海面から飛び出し背中からバシャン! と水飛沫を上げる姿が諸に描かれている。
ネクタイの色が同じ色なことから、同じ2年生なはずだけれど名前がわからない……。
「名前、聞いてもいい……? 僕は内海 大輝。Eクラス」
「俺は小鳥遊 直哉。美術部。Cクラス」
「1週間前くらいからここでデッサンしてるよね。何かあるの?」
「もうすぐコンテストがあって。何を出そうか考えてて。美術部はほら、絵を描いていれば基本自由だからさ」
「そうか〜。……部活内ピリピリしない?」
「んー、どうかな。みんな絵を描いていて人間関係とかあまり関係ないかも」
「そっか。……羨ましいな」
陸上部は飛ぶ人以外待機だから。注目される分、妬まれてしまう。
気持ちが沈みそうになるのを誤魔化すように「このクジラの絵、いいじゃん。出してみたら?」と尋ねる。
「うーん……まだまだ力量が足りなくて……もっといいものを描きたいんだよね」
「十分上手いのに」
「はは、ありがとう。やっぱり内海くんは──」
「ん?」
小鳥遊は何かを言いかけ「ううん」と首を横に振り道具を片付け始めた。座っていたが立ち上がると案外背が高く、そして体も意外とガッシリしていることに驚く。美術部って小さくて細い子ばかりなイメージだったから。いや、僕が細いだけ? 小鳥遊は眼鏡をクイっと上げて「帰るね」と彼は言う。
「小鳥遊。……部活終わったら、またここに来てもいい?」
今日だけで終わるのは嫌だと、思ってしまった。初対面なのに、こんなに打ち解けることが出来るとは思わなかった。小鳥遊の絵をもっと見たい。間近で見てみたい。僕は部活ではぼっちだけど、ここは居心地がいい気がするから。
小鳥遊は少し驚いた顔した後「もちろん。明日も待ってる」と笑ってくれた。
それからは毎日、部活終わりに小鳥遊の元へ行って描いたものを見せてもらう日常になった。「またクジラじゃん」「内海くんが飛んでる姿だよ」と言う会話を何度も繰り返し、大会を2週間前にした日。
先輩や同級生にまた片付けを押し付けられ、1人で体育倉庫に入り。マットやクロスバーを黙々と片付けていたら扉がガチャン、と閉まる音がした。辺りが一気に薄暗くなり振り返ると鍵がかかる音。慌てて駆け寄り扉を叩いて「まだ! 残ってます!」と声をかけるも、すぐに開けられる気配はない。寧ろ、笑っている複数人の声に冷や汗が背中を伝う。
「自分だけいい気になりやがって」
「内海ぃ。ちょーっとだけ、お仕置きなァ?」
誰だろう。わからない。そこまで人間に興味なかったから。僕のことをよく思っていない人たち。
足音が小さくなっていく気配に「開けて! 開けてください!」と扉をドンドン叩くも、もう誰もいないようだった。
(どうしよう……スマホも、ない……まだ着替えてもないし、鞄も外に置きっぱなしだ……寒い……)
5月で昼間は暖かいとはいえ、夕方になると肌寒くなる。くしゃみをし、もう一度扉を手で押したり引いたりしても当然動かない。
(……ちょっとだけって言ってたけど……ちゃんと、開けてくれるよな……?)
西日が小さな窓から差し込んでいるが、それもだんだんと影っていき。視界は暗闇になっていく。閉じ込めた人たちが戻ってくる気配はない。鍵が職員室になければ教師たちが確認しに来てくれるだろうが、一向に来ないということは、閉じ込めた人がもう鍵を戻してしまったのかもしれない。
(一晩ここのままなのかな……朝も……体育の授業がなければ、放課後までずっとこのまま……いやだ……真っ暗……怖い……寒い……)
体力を消耗しないようにマットの上で体育座りをし、腕で体を摩る。せめて制服を着ていたらよかった。今はユニフォーム姿だから、手足が出ていて寒い。
遠くで学校のチャイムが聞こえた。18時。どんなに遅くても生徒は帰らないといけない。
(お願い、誰か気づいて……教室に置かれたままの鞄に気づいて……!)
追い討ちをかけるようにお腹が大きくなった。登校前に母から「今日はハンバーグよ」と教えてくれたのに。帰ることが出来ない。目を閉じればじわ、と目尻に涙が溜まる。
「だれかたすけて……っ」
────ザッ。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。
「内海くん、いる⁉︎」
外から足音が聞こえたと思ったら、息を切らした様子の小鳥遊の声。
絶望し切っていた僕は顔を上げたものの、すぐに声を出すことが出来なくて。はくはくと、口をただ動かしている間にも「内海くん!」と小鳥遊は声を張る。
「……ひゅ、けほっ」
咳き込む。思ったよりも、声が乾いていた。いや、憔悴し切っている。声が、小鳥遊に届かない。焦って扉の方に向かおうとするも、そのまま体はうつ伏せに倒れてしまう。
──あ、まずい。限界かも。
扉を見上げることしか出来ずにいれば、鍵が差し込まれカチャ、と音がした。ギギギ……と開く音がし、中に入り込んできたのは。
「……内海くんッ!」
美術部なのに、案外しっかりしている腕に抱きかかえられる。寒さにぶるぶる震える体は、走り回っていたのかとても熱い小鳥遊の体に温められ、それだけでなんだかとても嬉しくて涙がぶわっと溢れた。
「う、うぅ……っ」
「内海くん、ごめん、ごめんね。見つけるの、遅くなった……! ごめんね、ごめんね……!」
申し訳なさそうに、小鳥遊は僕に謝る。違うのに。とても感謝しているのに。今日もデッサンしながら僕を待ってくれていたのか右手の手のひらは真っ黒だった。
小鳥遊の絵、見たかったな。
なんとか救出された僕はそのまま小鳥遊に付き添われて家に帰り。寒い中放置されたことで翌朝は高熱を出して学校を休むことになってしまった。
学校を休むことは小鳥遊と連絡先を帰り道に交換したから心配させることはない。
だけど。
僕はあの日以降、部活に参加出来なくなってしまった。


