肩を揺らす振動で目が覚めた。
はっ、はっ、と浅く息をして、目だけで辺りを見渡す。常夜灯が付いている、見慣れたワンルーム。
目の前には、心配そうに俺を覗き込む佐柳。
「……ぁ、ゆめ?」
俺の言葉に、佐柳が息を吐いたのが分かる。隣に寝そべって、柔らかく抱きしめてくれた。
コツンっと額を合わせて、口がゆっくりと動く。
——怖い夢見た?
ぱくぱく、と音のないまま、佐柳が話しかけてくる。ひとつひとつ合っているか確認しながらだから、短い言葉を読み取るのにも、少し時間がかかる。
「……うん……」
首に顔を埋めて、小さく頷く。
体の震えが止まらない。
あんなのはただの夢。不安な気持ちがそのまま出てきてしまっただけ。
だって佐柳は目の前にいる。
背中に回っていた腕の力が強くなって、佐柳との距離が更に近くなる。うわぁお、ご尊顔。
なんて軽い現実逃避をしていると、控えめなキスが落ちてくる。擽ったいし、やっぱ気恥しい。
一回、二回じゃない。何回も何回も、慰めるようにキスをされる。
あー、だめ。佐柳、俺変なスイッチ入る。
「さ、なぎ……っ」
「……?」
「はな、れたらやだ……」
みっともなく縋る俺に嫌な顔もせず、深く深く口付けてくれた。余すことなく、甘く甘く蹂躙される。くぐもった声が佐柳の口内に消えた。
頭がふわふわと溶けていく。ぱちぱちと弾けるような、痺れるような感覚が心地いい。全身を炭酸水に沈められたような、そんな感覚。
手つきも眼差しも、なにもかもが優しくて甘くて、あれ、俺これ跡形もなくなってんじゃね?って錯覚しそうになる。労ってくれるような優しさをたっぷり含ませたキス一つで頭がバカんなってく。
身体の力なんて、とっくの昔に抜けきっていた。
——大丈夫
——俺、ずっと朝野といるから
「……うん」
それがいい事なのか、悪いことなのか、俺はもうよくわからなかった。
ねぇ、佐柳。
ずっとってどんくらい?あと何年?
なんて、面倒臭い考えを振り切るように、強く強く抱きついた。
佐柳は体温が高い。
細身の身体はいつもぽかぽかで、寄り添うと佐柳の存在を確認できる優しい体温が好きだった。
痺れるような冬の日でも、佐柳の匂いと温度があるベッドは、寒さも忘れるくらい暖かい。
なのに、胸の中に穴が空いたような気がする。
指先が凍ったような、どうしようもない不安と心細さに目眩がする。
おっかしいな……俺こんなに弱かったっけ?
こんなに、駄目になるもんだっけ?
もっとそつなく生きてこれたはずなのに。本質的に、人にあんまり関心なかったはずなのに。
『朝野だけ、特別に見える』
高校の時に佐柳から言われた言葉が、ふわふわと浮かんで霧散する。
——朝野?
「佐柳、も……」
——も?
「も……っかい、しねぇ?……あー、やっぱなしッ……んぅ」
撤回しようとした提案を、佐柳は丁寧に拾い上げてしまう。人からのお願いを無下にすることは、よほどのことがない限りしない。そんな奴に提案すれば、当然聞き入れられる。
俺からの頼みなら、なおさら。
頼みを断られたのなんて、俺を案じてくれた時と、別れようって、言われた時だけ。
別れたくないって、理由教えてって俺の頼みを、佐柳は聞いてくれなかった。
音もなく、佐柳は俺の目の前から居なくなった。
顔を離し、静かにあどけなく首を傾げる美しい男に、首を絞められたような息苦しさを感じる。
容姿も、スペックも、家柄も、なにもかもが遥か高みにいるような、そんな奴が、俺に触れて、微かにでも笑いかけて、体温を分け与えて、隣で眠っている。
あぁ、だからか。
だから不安なんだ。
目尻に浮かんだ涙は、すぐに生理的な涙に押し流されてしまった。
——佐柳の声が出なくなって、今日で三週間になる
はっ、はっ、と浅く息をして、目だけで辺りを見渡す。常夜灯が付いている、見慣れたワンルーム。
目の前には、心配そうに俺を覗き込む佐柳。
「……ぁ、ゆめ?」
俺の言葉に、佐柳が息を吐いたのが分かる。隣に寝そべって、柔らかく抱きしめてくれた。
コツンっと額を合わせて、口がゆっくりと動く。
——怖い夢見た?
ぱくぱく、と音のないまま、佐柳が話しかけてくる。ひとつひとつ合っているか確認しながらだから、短い言葉を読み取るのにも、少し時間がかかる。
「……うん……」
首に顔を埋めて、小さく頷く。
体の震えが止まらない。
あんなのはただの夢。不安な気持ちがそのまま出てきてしまっただけ。
だって佐柳は目の前にいる。
背中に回っていた腕の力が強くなって、佐柳との距離が更に近くなる。うわぁお、ご尊顔。
なんて軽い現実逃避をしていると、控えめなキスが落ちてくる。擽ったいし、やっぱ気恥しい。
一回、二回じゃない。何回も何回も、慰めるようにキスをされる。
あー、だめ。佐柳、俺変なスイッチ入る。
「さ、なぎ……っ」
「……?」
「はな、れたらやだ……」
みっともなく縋る俺に嫌な顔もせず、深く深く口付けてくれた。余すことなく、甘く甘く蹂躙される。くぐもった声が佐柳の口内に消えた。
頭がふわふわと溶けていく。ぱちぱちと弾けるような、痺れるような感覚が心地いい。全身を炭酸水に沈められたような、そんな感覚。
手つきも眼差しも、なにもかもが優しくて甘くて、あれ、俺これ跡形もなくなってんじゃね?って錯覚しそうになる。労ってくれるような優しさをたっぷり含ませたキス一つで頭がバカんなってく。
身体の力なんて、とっくの昔に抜けきっていた。
——大丈夫
——俺、ずっと朝野といるから
「……うん」
それがいい事なのか、悪いことなのか、俺はもうよくわからなかった。
ねぇ、佐柳。
ずっとってどんくらい?あと何年?
なんて、面倒臭い考えを振り切るように、強く強く抱きついた。
佐柳は体温が高い。
細身の身体はいつもぽかぽかで、寄り添うと佐柳の存在を確認できる優しい体温が好きだった。
痺れるような冬の日でも、佐柳の匂いと温度があるベッドは、寒さも忘れるくらい暖かい。
なのに、胸の中に穴が空いたような気がする。
指先が凍ったような、どうしようもない不安と心細さに目眩がする。
おっかしいな……俺こんなに弱かったっけ?
こんなに、駄目になるもんだっけ?
もっとそつなく生きてこれたはずなのに。本質的に、人にあんまり関心なかったはずなのに。
『朝野だけ、特別に見える』
高校の時に佐柳から言われた言葉が、ふわふわと浮かんで霧散する。
——朝野?
「佐柳、も……」
——も?
「も……っかい、しねぇ?……あー、やっぱなしッ……んぅ」
撤回しようとした提案を、佐柳は丁寧に拾い上げてしまう。人からのお願いを無下にすることは、よほどのことがない限りしない。そんな奴に提案すれば、当然聞き入れられる。
俺からの頼みなら、なおさら。
頼みを断られたのなんて、俺を案じてくれた時と、別れようって、言われた時だけ。
別れたくないって、理由教えてって俺の頼みを、佐柳は聞いてくれなかった。
音もなく、佐柳は俺の目の前から居なくなった。
顔を離し、静かにあどけなく首を傾げる美しい男に、首を絞められたような息苦しさを感じる。
容姿も、スペックも、家柄も、なにもかもが遥か高みにいるような、そんな奴が、俺に触れて、微かにでも笑いかけて、体温を分け与えて、隣で眠っている。
あぁ、だからか。
だから不安なんだ。
目尻に浮かんだ涙は、すぐに生理的な涙に押し流されてしまった。
——佐柳の声が出なくなって、今日で三週間になる

