綺麗な音が心地よく鼓膜を揺らした。
ゆっくりと目を開ける。時計を見ると、それなりの時間が経っていた。
少し微睡むつもりだったのに、と小さく息を吐く。
一瞬、誤差のような静けさに、視線を上げる。
こちらを背に、ベッドに腰掛けていた奴と目が合う。「起きた?」とでも言いたげな目が俺を見ていた。
「……ごめん、起こした?」
寝かしつけるように触れてきながら、こくんっと首を傾げる佐柳に、笑って首を振る。
さらさらと髪に触れてきながら、優しく笑う。「愛おしい」と、隠す気もなさげな視線をめいいっぱい浴びせてくる。
「んーん、普通に起きた」
「そっか、おはよう」
「……はよ」
指を柔く握ってきた佐柳に、胸の奥がきゅっ……と鳴いた。暖かい光を浴びた髪が、キラキラと瞬いていて、目を細めた。
——俺きっと、一生こいつのこと好きでいるんだろうな
死ぬ前に思い出したい景色がいくつもいくつも重なっている。困った。全部思い出したいのに、大丈夫だろうか。
「大丈夫?痛い?」
佐柳の急な言葉に、一瞬ポカンとする。僅かによった眉間のシワに、こっちがけらけらと笑ってしまう。なにも初めてでもないのに。毎度毎度、心配症め。だいたい、そんなに酷くされたこともない。
「大丈夫よ〜。あ、水貰ってもいい?」
「お茶は嫌?」
「お茶でもいいよ」
ちょっとまって、と棚の上にあるペットボトルへと手を伸ばす。佐柳が杖に頼らず、不自由なく歩けるようになるまで、あとどのくらいかかるのだろう。
華奢な身体を、大きめの服が包んでいる。細い背中に抱きついて、そのままベッドへ転がした。
「……あぶな」
「んふふ」
「ご機嫌だ」
「まぁねぇ」
そりゃあ、ご機嫌ですよ?なんて笑うと、佐柳も小さく笑みを浮かべる。
暖かい。
きっと今の俺の顔は、だらしないことになっているだろう。人様にお見せできないくらいには。
とくとくと波打つ心音
柔らかい声
微かな呼吸音
俺の好きな、大切な音
指で光った約束の証に一度だけ視線をやって、すぐに目の前の愛おしい音を抱きしめた。
