綺麗な音が心地よく鼓膜を揺らした。
ゆっくりと目を開ける。時計を見ると、それなりの時間が経っていた。
少し微睡むつもりだったのに、と小さく息を吐く。
一瞬、誤差のような静けさに、視線を上げる。
出窓に背を預けていた奴と目が合う。「起きた?」とでも言いたげな目が俺を見ていた。
「ごめん」
ぽつんと落ちてきた謝罪に、小さく笑って首を振る。相も変わらず、言葉が足りていない。表情も動かないから、なにを考えているのかを読み取るのは難しい。
でも、俺はこれでも空気を読むのは得意な方。それに、このやり取りは前にも何度かしている。
今のは「起こした?うるさかった?」って意味の「ごめん」だ。
「なに歌ってたの?」
「……音出してただけ」
「じゃあ、なんか歌ってよ」
音が気持ちい、と告げた俺に首を傾げながら、そいつは静かに音を歌い始める。歌うと言っても、歌詞はない。気まぐれみたいに、鼻歌みたいなものを口遊む。少し掠れた優しい声が好きだった。
クラッシックでもなければジャズでもない。ロックでもないし、流行りの曲のカバーでもない。名前もジャンルもわからない、どこか無機質な馴染みある音に、もう一度目を閉じた。
「朝野」
ふいに名前を呼ばれ、また目を開ける。夕日が反射して、整った顔の輪郭がぼやけていた。
「疲れた?」
「んー、だーいじょーぶ」
少しおどけて、軽い調子でそう告げる。が、そいつにはそんなもの通用しない。
俺の隣に座り直し、ぽすんっと肩にもたれかかってくる。シャンプーの微かに甘いにおいがした。
「寝れるまで歌ってる」
お人好しめ。普段はなにも察してくれないのに、こういう時だけ嫌になるほど鋭い。
心の中で悪態をついていると、俺が前に好きだといった音が流れ始める。
ほんと。こいつの、こーゆーとこが。
じわじわと熱くなった顔を隠すように、部屋の中はより一層赤く赤く照らされていった。

