あれは確か小学四年生の時。僕は友達と遊びに行った先で、通り魔事件に巻き込まれた。
後に全国ニュースにもなったその事件は、結果的に死者こそ出なかったものの、目の前で笑みを浮かべ刃物を振り回す男の姿は当時の僕に大きな衝撃を与えた。
逃げ惑う人々の中で一緒にいた友達とはぐれてしまって、一人で逃げ込んだビルとビルの隙間。僕は怖くて動くことができなくなった。
外がどうなっているか分からない。薄暗いビルの影で体操座りをして、ちょっとでも動けば、声を出せば殺されてしまう、僕はそう思い詰めていた。
「――大丈夫⁉」
どれだけの時間そうしていただろう。気が付くと、二、三歳年上に見える男の子が通り側から僕のことを見下ろしていた。
見上げた彼の後ろには日が差していて、まるで後光が差したよう――という表現は、当時の僕はまだ知らなかったのだけど。
光を背負って現れた彼は、まるで社会科見学に行ったときにお寺で見た観音菩薩のようにスラリとした姿をしていて、紺色の和服を着、長細く黒い袋を背負っていた。
「大丈夫? 君、怪我してる?」
彼は僕の目の前にしゃがんで、真剣な目でまっすぐに僕を見つめた。
「だいじょうぶ……」
べしょべしょの顔で泣いている僕に、その人はホッとしたように優しく笑う。そして、「もう大丈夫だよ」と言うと、僕のことをぎゅっと抱きしめてくれた。
ノリの効いた心地よい和服の感触と、自分よりも大きな体に包まれる安心感。不安が一気に溶けて、僕は心がジーンとした。
――ああ、すごく安心できて、幸せだ。
ずっとこうしていてほしいって、その人をぎゅうと抱き返しながらそう思った。
後に全国ニュースにもなったその事件は、結果的に死者こそ出なかったものの、目の前で笑みを浮かべ刃物を振り回す男の姿は当時の僕に大きな衝撃を与えた。
逃げ惑う人々の中で一緒にいた友達とはぐれてしまって、一人で逃げ込んだビルとビルの隙間。僕は怖くて動くことができなくなった。
外がどうなっているか分からない。薄暗いビルの影で体操座りをして、ちょっとでも動けば、声を出せば殺されてしまう、僕はそう思い詰めていた。
「――大丈夫⁉」
どれだけの時間そうしていただろう。気が付くと、二、三歳年上に見える男の子が通り側から僕のことを見下ろしていた。
見上げた彼の後ろには日が差していて、まるで後光が差したよう――という表現は、当時の僕はまだ知らなかったのだけど。
光を背負って現れた彼は、まるで社会科見学に行ったときにお寺で見た観音菩薩のようにスラリとした姿をしていて、紺色の和服を着、長細く黒い袋を背負っていた。
「大丈夫? 君、怪我してる?」
彼は僕の目の前にしゃがんで、真剣な目でまっすぐに僕を見つめた。
「だいじょうぶ……」
べしょべしょの顔で泣いている僕に、その人はホッとしたように優しく笑う。そして、「もう大丈夫だよ」と言うと、僕のことをぎゅっと抱きしめてくれた。
ノリの効いた心地よい和服の感触と、自分よりも大きな体に包まれる安心感。不安が一気に溶けて、僕は心がジーンとした。
――ああ、すごく安心できて、幸せだ。
ずっとこうしていてほしいって、その人をぎゅうと抱き返しながらそう思った。



