好きになるということ

「じゃあ、またな」

「おう、またな」

八城ははにかんだ笑顔で手を振って俺の来た道の方へと歩いていった。

その姿はどこかで見たことがあるような気がした。

八城の姿が消えると一気に全身の力が抜け、夢から覚めたかのようにさっきまでの出来事を振り替えると頭の中はパニック状態。

なぜ、八城が家にいた。
しかもまるでそこが我が家かのように体を大の字にして椅子に座って。

急いで階段を駆け上がり、ベッドの中にくるまる。

「どうして、裏切りもの……」


×××


「よう、俺のお姫様」

あまりの衝撃にサブバックをストンと落とし、開いた口が塞がらず、なにか言おうも言葉が見つからず、パクパクと魚が呼吸をするときのように口を動かした。

「瑞姫|《みずき》ったら、すごい驚きようね。そんなに口開くんだったら一郷さんのイチゴも一口で食べなさいよ」

母さん、酔ってないか。

開いた俺の口にピンポン玉くらいの大きさのイチゴを強引にねじ込む。
頬がリスのように膨らみ、少し唇を緩めれば果汁が外に飛び出しそうで、必死に唇に力をいれながら顎を上下に少しずつイチゴを噛み砕いていく。
口の中に甘酸っぱいイチゴが広がる。

ちなみに一郷さんのイチゴとは親戚でイチゴ農家の一郷さんが育てたイチゴで、イチゴの季節になると規格外品なんかを分けてくれる。

一郷さんはとにかくイチゴへの愛が強い。
だから毎年イチゴは宝石のように輝く赤色に、ぷっくりとした果肉でヘタはピンとさかだっていてイチゴグランプリで最高金賞を受賞している。

『みんなを笑顔にするイチゴって最高だろ』


××


「瑞姫、リスみたい。かわいい」

再開して約5秒間、八城は俺の地雷をもう2つも踏んだ。

「かわひひっていうな」
「もぐもぐしてる瑞姫、かわいい」

二度あることは三度ある。

「かわいい、いうな」
「怒ってる瑞姫、かわいい」

三度あることは四度ある。

「かわいいっていうな」
「はい、瑞姫。あーん」
「んんんっ……!!!」

机の上におかれたイチゴの山から一粒とって俺の口の中に入れた。

五度目は地雷は爆発する。
勢いよく八城の胸ぐらを掴んで顔を近づけ睨みつける。

「「なにしてるの!」んだ!」

「あー、悪い悪い。久しぶりの再開につい舞い上がっちゃって」

はっと、我にかえる。

いろんな感情が交じりあってコントロールがきかなくなっていた。

「ごめ…」

謝ろうと八城の顔を見ると俺にあわせろ目で合図した。

「俺の地雷だってわかっててわざとやったろ」

右手の力を緩めてシワのよったTシャツを申し訳なく整える。
両親をみていると今にも止めにいこうとしている姿勢で停止していた。

「瑞姫のお父さんお母さん安心してください。俺たちいつもこんな感じですから」

「瑞姫がこんなに感情を表に出すなんてあのとき以来だから、びっくりしちゃって」

「胸ぐらまで掴んじゃうもんだから焦ったよ。冗談にもほどがあるよ」

「……ごめん」

エキゾチックショートヘアくらい小さな声は八城の耳だけには届いていて。
あのときのように優しい笑顔を俺に向けた。

「はいっ。じゃあ二人の再開を祝して夕食にしましょうか」

唐揚げ、枝豆、ローストビーフ、サーモンとアボカドのサラダ、アヒージョ、鮭のムニエル、有名ファミリーレストランのコーンマヨピザ。
ここが居酒屋なのかイタリアンなのかファミレスわからない統一感のない料理が次々と並べられ、机の上は遊園地のように色とりどりで華やかになった。

いつもの一汁三菜の健康第一主義の母親はどこへ行ったのか。

母親がキッチンで鼻唄を歌いながらお皿を用意してる合間父親に聞いてみた。

「母さん、おかしくない?」

すると、父親は母親、八城、俺の順に見ると、

「嬉しいんだよ。父さんも母さんも」

「なにが」

首をかしげた俺に意味ありげに微笑みかけそれ以上なにも言わなかった。
だが、最後にあっという表情で、
「半分は、八城くんが母さんの推しだからかな」
と付け足した。

急に鼻がむず痒くなりくしゅんっとくしゃみをすると八城はずっと俺の方を向いていた。

ティッシュを手に取り鼻をかんでゴミ箱に捨てようとした。
その時細長い白い紙が捨てられているのが見えた。
よくみてみると、

「Uber○ats…」

俺がそれに気づいたことを悟ったのか父親は苦笑いをした。

好きって怖い、そう思った。


××


「ご馳走様でした」

最後はホールケーキまででてきて心身共に胃もたれした。

その後。少しその場で休憩した後、八城が二人で話したいというからおれの部屋に案内した。

「おー瑞姫の部屋だ。ベッド大きくなってる。ダイブー」

俺の部屋に入るなり中学卒業と同時に新調したベッドにダイブした。
そのまま数秒動かなくなったから、おい戻したかと焦って近づこうとしたらもぞっと動きだしベッドに腰かける形で胡座をかいて座った。

「ふかふか過ぎて寝ちゃいそうになったぜ」

「戻してなくてよかったよ」

「俺がそんなことしねぇよ。せっかく用意してくれたごちそうを戻すなんて申し訳ないし、もったいないだろ。瑞姫のお母さんの気持ちも残さずいただかないと」

「そういうこといって母さんを落としたのか?」

そんなイケメン台詞誰もがこんな自然に、真面目に言える訳がない。
しかし、そう問いただすと八城はきょとんと頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。

こういう天然なやつは人生、楽なんだろうな。
心の奥になにかが小さく疼く。

「で、なにか話したいって言ってたけどなに」

「ん?ただ瑞姫の部屋見たかっただけ」

「じゃあ帰れよ」

そう言うとえーやだと足をバタバタさせて布団に顔を沈めた。

「瑞姫もだいぶ変わったね」

「そりゃそうでしょ。一番いろいろ変わる時期なんだから」

「ポケ○ンのデスクマットないし、カラフルな星のカーテンじゃなくなってるし、コ○ショの目覚まし時計おいてない。朝どうやって起きてるの?」

「スマホのアラーム。てかなんで覚えてるんだよ、怖」

「でも、変わってない。コーンマヨピザが好きなところ」

「無視かよ」

なにやら一人で昔に浸っているようで、一人事を話し始める。

「仮面ライダーウィ○ードのベルトは…」

「捨てるわけないだろ」

押し入れの中から段ボールを取り出しライダーベルトを取り出すと八城に手渡した。
電源を入れウィザードリングを中指に着けてベルトにかざすと、シャ○ドゥバ○ッチヘンシンと音声が流れる。

それを聞いてしばらく二人は小学生に戻ってはしゃいでいた。